思い出す魂
二人の体が交差し立ち位置が入れ替わった時、すべては終わっていた。ハードライトは片膝を付きその場にひざまずく。見れば片腕がなくなっていた。
魔来名はハードライトの悲鳴を静かに聞きながらゆっくりと納刀していく。鍔が鞘に当たり、かちんと音が鳴る。
「馬鹿な、スパーダに、私がッ」
失った片腕を支える。斬られた先からは光の粒子がこぼれるように漂っている。その様子から復元する気配はない。
「くッ」
天黒魔の力。斬ったものは回復も復元もできない。天志ですら天黒魔でつくられた傷は治せなかった。
敗北など考えてもいなかったんだろう。ハードライトには痛みよりも困惑の方が色濃く出ている。俺だって戦えばハードライトが勝つと思っていた。誰もこの男には勝てない。そう思えるほどの力がハードライトにはあった。
だけど、勝ったのは魔来名だった。
「ハードライト、確かにお前は強い。距離を問わない多彩な攻撃、防御、速度、復元による耐久性。お前は一見完璧だ。ランクC最強だというのも頷ける。だが、お前の力はしょせん物理法則の枠の中」
魔来名は振り返り、うずくまるハードライトを見下ろした。
「お前は強いが、最強にはほど遠い」
物理法則上、質量を持たない光子よりも速く動くことはできない。しかし魔来名はそれを越えたんだ。
物理法則を超越した、それは魔法のような一撃だった。
「くッ」
ハードライトは腕を抱えながら立ち上がる。不死身だと思われた復元能力も天黒魔に封じられてしまえば意味がない。
ハードライトはそのまま後ずさりながら消えていった。
「消えた」
衝撃的な勝利に半ば呆然としそうになるが魔来名は勝ったんだ。あのハードライトに。
すごい、本当に。
もう何度目になるか分からない衝撃に胸がしびれる。現実じゃないみたいだ。
が、魔来名の体が傾き始めた。それで我に戻る。
「魔来名!」
すぐに駆け寄り体を抱える。
「おい、魔来名? なあ!?」
「ああ……」
その顔は憔悴しきっていた。体は血で濡れている。何度も戦ったんだ、ぼろぼろの体で。俺のために限界の体を無理矢理動かし戦ってくれた。こんな風になってまで。
「魔来名、俺は」
言葉が続かない。なんて言えばいい。命の恩人が今目の前で死にそうになっている。なのに俺はなにもできない!
「いいんだ」
そんな俺を、魔来名は見上げていた。
「いいんだ」
穏やかだった。声も表情も。死にそうだっていうのに。
「なんで、そんな風に言えるんだよ」
死にそうなんだぞ? もうすぐ死ぬんだぞ? それも俺を庇った傷で。恨み言を言われたっておかしくない。なのに。
こんなにも俺のために戦ってくれたのに。
魔来名の表情は、まるで救われたのは自分のようだった。
目の奥が熱くなる。気づけば頬を水滴が滴っていた。
なんだ、なんだこれ? なんで泣いてるんだ? 俺はこいつを倒すために過去に来たのにッ。
「ごめん、ごめん魔来名ッ」
俺を守ってくれた人に、俺ができる唯一のことが謝罪しかできないなんて。
魔来名はうっすらとした意識を俺から外し、夜空に向けた。つられて俺も見る。
そこでは星が輝いていた。いくつもの星が。きらきらと。
「聖治……生きろ……」
顔を戻す。魔来名の顔を見る。
その顔は、微笑んでいた。
「お前を守れたことが、俺の誇りだ」
そう言って、魔来名の瞼がゆっくりと閉じていく。
「魔来名ぁあああ!」
俺の叫びが町に響く。静かな暗がりに俺の声だけが広がっていった。
次第に体が光り出し一つの玉となって浮かび上がる。それが俺の体の中に入っていった。
「あ」
完全に俺の中に入り、俺の魂と交わる。
「あ」
そこにある、記憶と一緒に。
「そんな」
彼の記憶が流れ込んでくる。頭の中でいくつもの光が破裂するように。眠っていた記憶を掘り出していく。
「うそだろ?」
魔来名の顔をのぞき込む。瞳を閉じた顔をまじまじと見つめてしまう。
思い出したんだ。魔来名、あんたはッ。
「兄さん!」
俺の、たった一人の家族だったんだ。
「なんで、なんで教えてくれなかったんだよ、兄さん!」
涙が、溢れてくる。
「あああああ!」
今だけじゃない。あんたは、戦っていたんだ。ずっと。ずっと。たった一人で。
俺のために!
考えれば分かったことじゃないか。シンクロスは誰かが発動しなければタイムリープしない。なら一週目の世界で、誰がシンクロスを発動した?
決まってる。俺たちを殺した、魔堂魔来名だ。
あんたはその時俺の魂に触れた。それで思い出したんだ、俺が、あんたの弟だったことを。
その時から、あんたの旅は再開したんだ。
何度も、何度も。味方も仲間もいなくても。俺と交わした約束を守るためだけに。
ずっと、一人で。
「兄さん!」
魔来名の体を抱きしめる。ううん、本当の名前は剣島正和。頑固で、決して仲がいいとは言えない人だったけど。
俺の、たった一人の家族だったんだ。
俺には使命がある。みんなとした未来を変えるっていう約束が。
だから今俺がするのはここで一人悲しんで泣き叫ぶことじゃない。天黒魔と一緒にみんなと合流すること。それは分かってる。だけど。
「俺は」
それでいいのか? ずっと戦ってきたんだぞ? ずっと守ってきたんだぞ? それがこんな終わり方でいいのかよ?
こんな報われない終わり方でッ。いいわけない。俺はシンクロスを取り出した。
「絶対に見捨てない、一人だって!」
魔来名の体を下ろし、涙を拭う。
「仲間は、絶対に見捨てない!」
俺はみんなのことを知った。みんなと出会い、みんなと同じ時を過ごした。
そして、仲間になったんだ! 敵なんかじゃない。
みんな、掛け替えのない仲間だから。だからここからまた始めるんだ。
俺の旅を。
「シンクロス!」
シンクロスの光が世界を包む。世界を変えていく。
新しい未来に旅立つために。




