戦うと決めたんだ!
五つの剣を宿す少年、剣島聖治は野営テントから出て行った。横目でそれを確認した牧野はテントへ入っていく。上司の背中を見つけ横に並ぶ。
「行ってしまいましたね」
「ああ」
本来保護するはずだった少年は戦うために出て行った。迷いを吹っ切り前へと進んでいったのだ。それは成長であり喜ばしいことではあるが、しかし当初の目的とは違う。
「これで良かったのですか?」
断固反対というわけではない。しかし疑問は残る。これは政府の問題であり大人の問題だ。それを特別な力があるとはいえ子供に任せていいものか。
「ふっ」
その問いに、賢条は笑った。
彼は特異戦力対策室の室長。日本政府が抱える秘密組織の長。それを務める男が生半可な人物であるわけがない。異能や魔術、特殊能力に果ては怪物まで跋扈するこの界隈で生き抜くには冷静な頭脳と悪魔にも負けない冷徹さが必要だ。
そんな男が下した判断が温情であるわけがない。
「当然だ」
賢条は眼鏡を正す。レンズの奥から覗く目は仮面の笑顔ではなく鋭い笑みを浮かべていた。
*
家の近くはまだ悪魔たちの被害を免れていたので家々も損害はなかったが進んでいけばその異様さが目についてくる。
ボンネットがへこみ放置された車。ガラスが割れた建物。へし折れた標識。
そこにはぼろぼろの町並みが広がっていた。異様な光景は未来での出来事を彷彿とさせる。
近づいている。今俺が生きているこの世界でもそうなりつつある。
そうはさせない!
住宅街の道を走り続け、すると上空を飛ぶ三体の悪魔が現れた。相手も俺に気づき下降してくる。
「キキキ!」
翼の生えた黒の人型。小柄ではある翼の生えたが悪魔の力は見た目以上だ。不気味な笑い声を上げながら襲いかかってくる。
「く」
いざ見ると心がざわつく。息遣いと鼓動が早くなっていくのが分かる。
だけど!
「戦うと決めたんだ!」
逃げたりしない。たとえ怖くても、たとえ不安でも。
みんなと、一緒にいたいから!
俺の思いに答えてくれ!
「ホーリーカリス!」
光が現れる。右手で掴んだそれは七色に輝く剣となる。
「いくぞ!」
ホーリーカリスを握り剣先を悪魔に向ける。
「ミリオット!」
それは色を白に変え光弾を三発発射し打ち落とす。小型の悪魔三体はそれで倒れていった。
「どけ!」
召喚陣に近づくたび悪魔の数は劇的に増えていく。空も地上も悪魔に埋め尽くされている。
こんなにも侵攻が?
思ってたよりも早い。こいつら、まずは召喚地点を確保し戦力集結を図っているのか? 本隊が揃ったらますます危ない!
俺を見つけた悪魔たちから翼を広げ向かってくる。何十体もの集合が一斉に迫りまるで黒い津波のようだ。
「ミリオット!」
俺は身体強化で鍛えた足で高く飛ぶ。一群が迫ってくるが逃げたりしない。
数でくるっていうならすべて暴虐してやる。
スパーダの色が変わる。
「カリギュラ!」
血のような赤い刀身が赤いオーラを振りまくる。それによって飲み込まれた悪魔はたちまち墜落していき倒れていく。
だが敵は多い。この区画だけでどれだけいるんだ?
「こい、ミリオット!」
右手にカリギュラ、左手にミリオットを掴む。
「うおおおお!」
カリギュラを振り回しミリオットで遠くの悪魔たちを倒していく。赤いオーラで周りの悪魔は灰と化し光線が何体もの悪魔を一度に貫通していく。他のスパーダも進路上に配置し足場としてジャンプしていく。
白と赤、光と闇。二つの力を引き連れ殲滅していく。
「はあ!」
道路に着地する。ここにいる悪魔は倒した。大量の遺灰が宙に流れていく。
「ん?」
「キィー!」
前方に悪魔が一体残っている。しとめ損ねたか。
いいぜ、俺の力を見せてやる!
「ミリオット!」
生き残りの悪魔めがけ光線を発射する。
「エンデュラス!」
その直後時間を停滞する。俺はミリオットの光線を追い越し悪魔に迫る。
「ふん!」
左手を横に振る。エンデュラス、グラン、ミリオット、カリギュラ。四本のスパーダが背後に浮かぶ。
悪魔をホーリーカリスで切りつける。ダメージを与え最後にスパーダを大きく振りかぶる。
「ミリオット!」
刀身は白い光に覆われることで巨大な剣となる。三メートルほどにも巨大化したそれはグランを越え思いっきり振り抜く。
その威力に悪魔はバッドで打たれたボールのように飛んでいった。
「グラン!」
だが終わりじゃない!
飛んでいった悪魔をグランの引力で引き戻しそのままグランで叩きつける。地面を無重力にして悪魔が浮かび上がり俺は地面を蹴って上昇する。完全に悪魔の前方から消えた段階でエンデュラスを解除した。
それによって最初に放っていたミリオットの光線が悪魔に直撃する。タイムラグの攻撃に敵は成す術なくやられていき光線が通過した後で俺は着地した。
「ふう」
スパーダのコンボ技。下級悪魔に使う必要はないかもしれないが今後大型の敵も出てくる。今のうちに慣れておかないと。
「グオオ!」
声が聞こえる。見ればまだ前方に悪魔が一体いる。先ほどとは違い二メートルを越える牛の頭をした悪魔だ。
それならもう一回!
「グラン!」
悪魔の足下を無重力にし体が浮かんでいく。空中では身動き出来ず悪魔は手足をばたつかせている。
その隙にホーリーカリスをミリオットに変えさらに悪魔の後方にグランを配置する。
「はああ!」
ミリオットで切りつける。悪魔は吹き飛ばされていく。
「グラン!」
そこで後方に置いておいたグランを発動する。斥力によって悪魔が跳ね返される。前と後ろから叩かれたようなものだ。
俺はホーリーカリスを桃色に変える。
「ディンドラン!」
跳ね返ってくる敵を今度はディンドランのバリアで跳ね返す。それによって悪魔はまたも吹き飛ばされるがグランの斥力で再び叩かれる。
「ディンドラン! グラン! ディンドラン! グラン!」
ディンドランとグランに挟まれ空中を行ったり来たり。その度バリアに激突し斥力に弾かれ全身にダメージを与えていく。
なにより、その衝撃はディンドランに蓄積されている。繰り返された激突によりその何倍もの力がディンドランに貯まっていた。
そのすべてを叩きつける!
「リリース!」
今までの衝撃をぶつけられ悪魔の体が一瞬で灰となる。まるで爆弾でも受けたように一気に破裂していた。
これで敵はいなくなる。ようやく静かな町になるが敵はまだまだいる。
「ふう」
一息ついてから再び気合を入れる。
行くか。
俺はスパーダを消し夜の街を走り出した。目指す先は分かってる。あれだけでかい目印が浮かんでいるんだ、迷うことはない。
その後も道中遭遇する悪魔を倒し切り俺は目的地へと到着していた。




