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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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突きつけられる無力

「お前たちがどう思おうとそれを許すほど状況は甘くない。お前はまだ理解していないのか? するかしないかではない。やらなければ、自分が死ぬだけだ」


 魔来名の言う一言一言が鋭利な刃のように俺の心を抉っていく。


「力がなくてはなにも守れない。自分も、約束もな」


 魔来名の言っていることはそうなのかもしれない。でも、だからといって納得なんてできるか。


「だから殺し合えって? ふざけるな! 力がなくては大切な人は守れない。だとしても、その大切な人を殺めてまで欲しい力なんてない! ここにいるのは、みんな守りたい人なんだ! みんなで生き延びると決めた、今だって変わらない!」


 たとえ魔来名が言っていることが正しかったとしても俺は認めない。それを認めてなんになる。諦めてなんになるっていうんだ。


「甘いな。犠牲を伴わないものなど覚悟とは言わん。お前の言っているのはただの戯れ言だ。それでなにか守れたのか?」

「くっ!」


 その一言に胸がえぐられる。


 それは、一番言われたくないことだった。俺は前の世界でちょうどそれを味わった。誰も救えず、誰も守れず、俺はその世界から逃げてきた。


「俺は甘くない。たとえどれだけの犠牲を払おうと、この道を進むと決めた」

「それがお前のセブンスソードか」

「そうだ」


 魔来名の強い意思を感じさせる双眸が俺を見る。一周目と変わらない。この男は戦う気だ、そう決めている。


 でもそんなことさせない。俺の願いを斬り伏せていくというのなら。


「そうはさせない!」


 俺は走り出しパーシヴァルで切りつけた。魔来名も天黒魔を抜きスパーダをぶつけ合う。


「あんたがなんのために戦うか知らないがな、俺には守りたい人がいる。絶対に救いたい人が。そのために戦う、それが俺のセブンスソードだ!」

「そうか」


 魔来名に押し返されその隙に腹を蹴られる。


「ぐ!」


 後ろに転がる。すぐに立ち上がりパーシヴァルを構える。


「だが力がなければ守ることは出来んぞ。ここで俺一人と戦っただけでどうやって守るつもりだ」

「黙れ!」


 いちいち勘に障る。俺の考えや思いを否定する。それを覆せない。それがさらに苛立ってくる。


 俺は再びパーシヴァルで攻める。全力で剣を振るう。しかし魔来名の剣術を崩せない。体格も技術も魔来名の方が上だ。おまけに能力までないに等しい今の俺じゃ本当に勝ちの目が見えない。どうやってこいつを倒す? 倒せなければみんなが狙われるっていうのに。

 必死に攻めるのに、焦りだけが募っていく。


「どうする、始まっちまったぞ」

「そう言われても」

「どうするんだなぁ」

「お姉ちゃん」

「日向、下がってて」


 視界の端にみんなが見える。その中で此方がカリギュラを取り出した。それを見て星都もエンデュラスを出す。


「止めろみんな! 戦うつもりなのはこいつだけだ!」


 まずい、疑心暗鬼になって今にも戦いが始まろうとしている。これじゃ四週目と同じだ。


「さっきも言ったが俺は別の世界から来たんだ。そこでは力也が殺されて、それで星都が後に退けなくなって、俺は日向ちゃんや此方と一緒にいたが、それでみんなで殺し合う結果になって」


 俺の言葉にみんな驚いている。それでも本当なのか嘘なのか、迷っていてすぐには信じてもらえない。


「もうそんなことさせないために、そのために俺は来た。みんな本当は戦いたくなんてないはずだ、殺し合いなんて誰だって」

「無様だな」

「なに?」


 魔来名を見る。冷たい視線が侮蔑すら含めて俺を見下ろしている。


「守ると言っておきながらお前は言葉を語るだけ」


 そんなことない、俺だって必死に行動している!


「本当に守りたいのであれば行動で示したらどうだ」


 だから、こうして。


「すべてを救うことは出来ない。最も大切なもの、それを選択できないお前はすべてを失うだけだ」


 すべてを、失う……。


「お前にとって、守る覚悟とはなんだ?」

「それは……」


 守る覚悟。そう問われ思い出す。


『あんたの守る覚悟って、なんだったの!?』

「くっ!」


 涙を流して追及してくる此方の表情。みんなを守ろうとして、結局多くを失った。恋人も、友人も、守ると誓った約束ですら。


 俺は、守れなかった。


「軽々しく口にするな。お前の覚悟などただの逃避だ。願望に縋っているに過ぎん」


 そう言って魔来名は居合いの構えを取る。さらに天黒魔に魔力が集中していく。魔来名を中心に風が起こり空気が重くなる。


「俺は違う」


 力が、放たれようとしている。


「守ると決めた」

「止めろぉおー!」


 走る。パーシヴァルを振り上げて。駄目だ、駄目だ、止めろおお!


「刹那斬り」


 振り下ろす。しかしそこに魔来名はいなかった。一瞬で姿はなくなり視界から消える。


 聞こえるのは、勢いよく吹き出す水音。ほとんど同時に倒れる人の物音。


 ゆっくりと振り返る。そこに広がる惨状に、心が停止する。


「香織」


 彼女はうつ伏せに倒れていた。胴体から広がっていく赤い水たまりが桃色の髪を染めていく。


 彼女だけじゃない。


「星都」


 みんな。


「力也」


 みんな。


「日向ちゃん」


 みんな。


「此方」


 みんな、血を流して倒れている。誰も起き上がらない。悲鳴すら聞こえない。


 みんな、殺されていた。


「う、あ、あああああ!」


 失ったものが多すぎて、駆け寄ることも出来ない。抱きしめることも出来ない。その場で泣き叫ぶ。


「これが覚悟だ」


 そんな俺を無視して魔来名が話す。天黒魔を納刀し振り返る。


「覚悟を決めた者と、そうでない者の差だ」


 みんなの返り血を頬に付けた顔がそこにある。平然として、反省も悪気もない。


 こいつは、平気でみんなを殺した。


「てめえええ!」


 怒りが、爆発する。


「よくもみんなを!」


 また殺された、こいつに。たとえ世界を繰り返してもこいつがいる限りみんなは殺される。


「俺はみんなを守りたかった、みんなと一緒にいたかった、それだけだった!」


 悔しくて、悔しくて、涙が止まらない。


「なのにお前は殺した。お前は、絶対に許さない!」


 体が熱いくらい叫んでいる。怒りがすべてを燃やしそうだ。


「聞け。お前に話がある」

「黙れ! お前と話すことなどなにもない!」


 みんなを殺したやつとなにを話す? なにもない。すべきことは一つだけだ。


「これはセブンスソードだ。力を得るためには殺すしかない。それはお前も分かっているはずだ。頭を冷やせ」


 ふざけるな、ふざけるな。


 怒りが決意に変わる。覚悟が殺意に変わる。絶対に譲れない思いとなって俺を支配する。


「聞け。お前にも関係することだ」

「黙れぇえ!」


 俺はパーシヴァルを翳す。みんなは死んだ。その魂は二つ回収している。


「ちっ」


 魔来名が動く。だが遅い。


 パーシヴァルの第三段階の能力を発動する。刀身から光が迸りこの場を覆い、世界を書き換えていく。


 それでも変わらない。


 俺の思い。俺の決意。


 この出来事だけは。


 絶対に!


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