破壊(デストル)!
「ぬ?」
シャドーメイトに異変が起こる。今までカリギュラのオーラから減退を防いでいた鎧にひびが入る。
それに気づいたシャドーメイトは後ろに大きく飛び退のいた。
「そうか、この鎧でも耐えきれんか」
相手も信頼を置いていたようで鎧にひびが入るというのに少なからず驚いている。
「この戦い、長くは続かないようだな」
「そうね」
これは自分がやられる前に相手を倒すというタイムアタックだ。もたもたしていれば自分がやられる。
「では、終わりにしよう」
シャドーメイトが剣を横に持ち上げる。なにをするつもりなのか、此方は凝視する。
シャドーメイト、その全身が三重にブレる。
「!?」
だけでなくブレた虚像は左右に広がりまったく同じシャドーメイトとなって現れたのだ。
「分身?」
いきなり三体に増える。分身は出現してからは各々の構えを取り本体の鏡写しではない。
(あの時も突然現れたけど、そういうこと)
未来で戦った時横から当然攻撃されたがあれも分身だったわけだ。しかも映像とかではなく実際に触ることもできた。
実体を持った影。それを出現させるのが敵の能力。
分身の二体が走ってくる。剣も本体同様持っておりそれを振り下ろしてきた。
「カリギュラ」
此方は黒のオーラを放ちながら分身を切り倒していく。分身は本体よりも耐久力がないらしく消えていく。だが油断ならない。
シャドーメイトは次々と分身を出していく。本体がまるで扉のように大勢のシャドーメイトが本体から飛び出してくる。それは此方を囲い左右や背後から襲ってきた。
「ち!」
向かってくる影たちをカリギュラで倒していく。だがこれだけの数、処理が追いつかない。シャドーメイトは前進する分身の後ろに隠れてカリギュラをやり過ごし、倒れた分身を乗り越えさらに近づいてくる。
(このままじゃやられるッ)
此方は攻撃してきた分身を返り討ちにすると本体に向かって走り出した。正面から迎え撃ついくつもの分身を切り捨て進んでいく。
カリギュラで本体に切りかかり本体もそれを剣で受け止める。するとシャドーメイトの腕はそのままに、腕から別の腕が現れた。剣も一緒に分身し新たな剣が此方に向けられる。
(しまッ)
カリギュラは依然と本体の剣に受け止められている。新たな剣は防げない。両手が持ち上がっているので胴体ががら空きだ。
「――――」
どうしようもなかった。
シャドーメイトの剣が、腹部を貫いた。
「がああああ!」
漆黒の刀身を赤い鮮血が伝う。悪魔の剣は貫通し背中から剣先が飛び出している。
痛みに無意識に声が出る。
致命傷だった。激痛に思考が乱れる。悪魔の剣を片手で掴むもびくともしない。
「不運なやつだ。その力、俺でなければもう幾ばくか長生き出来ただろうに」
さらに押し込まれる。圧迫感が増し声が漏れる。
此方は悪魔の剣を見下ろしながら突きつけられる現実に目を細めていた。
この怪我では、どうにもならないい。ディンドランがあれば治療出来るがカリギュラは相手を殲滅するだけが取り柄。その殲滅力を対策されればこうなることは目に見えていた。
「いいえ、これでいいのよ」
「ん?」
だからこそ、此方の言葉にシャドーメイトは不思議そうにつぶやいた。
これでいい。激痛に表情が歪む中、彼女はそう言い、その顔は痛みに引きつりながらも過去を思う。
同じ敵に斬られ、此方は思い出していた。未来で一緒に戦った仲間のことを。最後の場面を。
そこにあった選択と後悔を、同じ痛みの中で思い出していたのだ。
「私は、恐れてた。悪魔を倒すとみんなで誓った。これを使えば、そんな仲間たちに失望されるって、嫌われるって思ってた」
あの時、自分は選ばなかった。その結果仲間にどう思われるか、それを疑い、躊躇してしまった。
しかしもう違う。疑わない。信じることを躊躇しない。悪魔の剣を掴む手が痛みからではなく強い意思によって震え出す。
「でも、それは間違ってた。大切なのは仲間を守りたいと思う気持ちだってことを、教えてくれた」
脳裏に浮かぶ、一人の少年。それは何十年も、たった一人で戦った。
この力を恐れずに!
顔を上げ悪魔を見る。
「あいつが! その身で示してくれたから!」
此方はカリギュラを持ち上げる。その剣を両手で持つ。
それを、自分に向けた。
「私はもう、恐れない!」
そして、自分の胸に突き刺した。
「破壊!」
カリギュラが此方の体を貫く。同時に刀身から生える何本もの赤い管が此方の体に突き刺さる。
「なに?」
瞬間、此方から赤い光と爆風が起こりシャドーメイトは吹き飛ばされた。
「ぬう!」
足が地面をすべり片膝をつく。
なにが起こった? なにが起きている? シャドーメイトは爆発が起きた地点を凝視する。
光が消えていく。
そこにいたのは、一体の悪魔だった。
言葉が出ない。
此方の体は一変していた。制服姿だったさきほどまでとはまるで違う。腹部と胸部の傷もなくなり新生していた。
背中から生える四枚の赤い翼。体は僅かに浮上している。肘と膝から先は人のものではなく赤い皮膚とドラゴンを思わせる手足に代わり、黄金に輝く瞳が鋭い視線を送る。肌は病的なまでに白く衣服は身に着けていない。その手に握られるスパーダも通常時よりも巨大化している。刀身には葉脈のような線が浮かび脈打っていた。
未来で聖治が行った不完全な悪魔化ではない。七本所持状態で行う完全なる悪魔化。
突如として現れた新たな悪魔、なによりその圧倒的なまでの存在感にシャドーメイトは面食らう。
「馬鹿な……上級……いや、魔王クラスだと?」
直に対峙するシャドーメイトには分かる。強者だけが持ちうるこの空気感。見られただけで重圧を覚える雰囲気。それはその他魔王と比べても遜色ない。
此方の強さはさきほどとは別物だ。格が違う。
理解する。変わったのは見た目だけではないと。だがそれで逃げ出すような真似はしない。
敵が誰であろうとも騎士は戦う。
シャドーメイトは剣を一閃すると残像がいくつもの剣となって空間に現れる。それらが一斉に此方へと飛んでいく。
何本もの剣による同時投擲。スパーダしか武装していない此方では防げない。
瞬間、此方の姿は消え別の場所に出現していた。
「空間転移」
現在の位置から別の位置にワープする。それにより回避していた。
「おのれッ」
シャドーメイトはさらに剣の分身を作り射出する。いくつもの剣が連続して宙を疾走する。
それを此方はかわしていく。空間転移によって狙いをずらし剣は掠りもしない。
「くっ」
攻撃が悉くかわされる。




