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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
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期せずして実現したリベンジマッチ

 スパーダにはいつくもの能力を秘めている。カリギュラ以外にもまだ能力はある。これを使えばこの場を打開することも出来るかもしれない。


 だが、これを使うのは躊躇われる。


(どうする。どうする。どうするッ)


 悩む。板挟みにされる苦悩、そこである場面が板からはみ出した。


『みんなで、悪魔を倒しましょう! やつらの好きにさせるもんですか!』


 それは彼女と話した時、みんなに向かって笑顔で語る彼女の表情。


 一緒に悪魔を倒そうと、その言葉にみなも明るい顔で応える一幕。


 思い出は、此方の選択に制止の手を乗せた。


(これは、使えない……)


 今までの力でやれることをやろう。カリギュラの力で打破するしかない。


 そう決めて視線をカリギュラから悪魔に向ける。


『ぎゃああ!』


 背後から部下の悲鳴が聞こえる。それは一人、また一人と増えていく。


『みんな!』


 背後にいる仲間たちが次々とやられていく。漆黒の騎士に斬られ、もしくは空を飛ぶ悪魔に啄まれ命を散らしていく。


『そんな、みんな』


 大切な仲間だった。家族のようだった。


 そんなみんなを、守れずに敵に蹂躙されていく。


『次がお前だ』


 正面にいた騎士が切りかかる。此方は急いでかわしスパーダを振り下ろす。それを悪魔は片手で掴んだ。


『く!』

『終わりだな』


 悪魔の剣が動く。剣先は此方に向けられ、彼女の腹部を貫いた。


『がああ!』


 激痛が走る。片手で掴むがびくともしない。次第に意識と力が抜けていく。


 悪魔が剣を引き抜く。カリギュラが此方の手から離れ倒れていく。


 その間際、薄れていく意識の中で敵に捕まれた赤い剣を見つめていた。


 魔皇剣、カリギュラ。諸刃の剣。呪いの権化。それは滅びを司る終わりの力。


 平等に訪れる死を心強く思うのか。それともその非情さに涙するのか。


 どちらにせよ、破滅は誰も救わない。


 その力は仲間も己も、最後には救ってくれなかった。


 そこで意識は完全に消える。


 かつてあった未来での出来事。


 それが安神此方の最後だった。多くの敵を滅ぼして、けれど仲間は救えなかった。この力を頼もしく思うと同時にあれほどまで悔しく思ったことはない。


 カリギュラ。このスパーダに出来るのは良くも悪くも破滅なのだから。


「あんな思いはもう御免だからさ」


 意識を現実に戻す。現代で行われる戦闘にかつての自分を重ねる。仲間を失う、傷つける。そんなことは二度としたくない。


「悪いね香織。嘘吐いた」


 彼女には一人で戦ってきたと言ったがそんな事実はない。たいてい部下を連れていた。


 だが、もしあの戦場を生き残ったのならば以後仲間を持つことはなかったろう。


 この力は殺し過ぎる。大切な仲間すら。


 だから一人がいい。その方が気が楽だ。滅ぼす相手が敵だけならば思う存分この力を振るえる。


「ん?」


 夜闇に足音が響く。正面からだ。


 敵か? カリギュラを出しいつでも戦えるよう身構える。


 道路の向こうから一体の悪魔がやってきた。


「なッ」


 その姿に目を見開く。


 黒い鎧。兜の奥から光る二つの赤い目。帯剣した出で立ちと纏う雰囲気。


 それは忘れもしない。


「あの時の」


 未来で自分を殺した、あの悪魔だった。


「あの時?」


 黒い騎士が立ち止まる。間違いない、声も同じだ。なにより隠しきれないこの威圧感。


「覚えはないが、どうやらお前と俺にはなにかしらの因縁があるようだな」


 相手が知らないのは無理もない。此方だって面識があるのは未来でのことだ、この時間軸では二人は初対面になる。


 とはいえ、まさか現代で再び出会うとは想像もしていなかった。自分を殺した張本人との再会。あの時の記憶が苦い思い出として蘇る。


「その表情。死が匂うな。俺の縁で誰かを亡くしたか?」


 図星を突かれる。鋭い。この悪魔は油断ならない。


 此方はカリギュラを構える。


「お前だけは、お前だけは私が倒すッ」


 相手は前世の宿敵。あり得なかった挽回の機会。


「おもしろい」


 悪魔も腰にかけた剣を引き抜く。武器もあの時と同じ漆黒の刃だ。


 期せずして実現したリベンジマッチ。


 黒色と幻影の騎士、シャドーメイト。


 二人の戦いが始まる。


「カリギュラ!」


 先制は此方だ。この勝負、倒すにはカリギュラを長時間敵に当て続ける必要がある。


 ならば様子見も必要ない。


 此方を中心に広がる赤いオーラ。それはシャドーメイトも街も包み込んでいく。


「ん?」


 カリギュラに当てられシャドーメイトも異変に気づく。自身の手を見て次に周囲を見渡す。植物は枯れ車は錆び付き建物は風化する。滅びが周囲を襲っていく。


「なるほど」


 周囲の変化にシャドーメイトも理解する。


「ずいぶん強力だ。それで今まで倒してきたのか。納得だが、相手が悪いな」


 無機物すら終わりへ近づける黒のオーラ。そのただ中に居ながら彼の余裕は崩れない。


 それはこの力に耐性があるということであり相手にしてみれば最悪のはず。


 だがそれを知っている此方からすれば想像通り。


「焦っていないな、よい戦士だ」

「経験豊富なのよ」


 実際そうだが少女の姿で言われシャドーメイルが小さく笑う。


「そうか。だがいくら経験があろうと覆しがたい力の差というものはある」


 シャドーメイトが向かってくる。此方もカリギュラで応じる。


 破滅を湛えた赤いオーラの中で両者の剣が交じり合う。ぶつかる剣戟の音が響く。


「ち」


 此方もカリギュラのオーラで攻めている。だが剣で戦うとなれば防戦にならざるを得ない。力で押し勝てない。グランやミリオットのように相手を吹き飛ばすというのはカリギュラでは無理だ。


 はっきり言って、カリギュラに剣としての使い方はほとんどない。カリギュラの攻撃手段はその異能が九割以上。刀身の役割は相手の攻撃を受け止めるくらいしかない。それならいっそ盾の方が幾分戦いやすいというものだ。


 その戦術は逆を言えば近接戦闘で異能をカバー出来ないということ。


 おまけに防御力も速度も人並み。耐えることも逃げることもままならないとなれば本当に窮地。

 カリギュラが通用しなければ、その時点で詰みだ。


 幸いこの敵には徐々にだが利くのは知っている。とはいえその間ほとんど無防備を晒さなければならない。


 カリギュラが有効に機能しないというだけでこうも追いつめられた戦いになるのか。その脆弱性を思い知る。


 相手は強い。振るう剣撃は強烈でいつまでもは保てない。 

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