聖王剣の輝き
これがカリギュラの減衰。これに星都は膝をつき香織も四つん這いになっている。
その中で唯一立っているのはカリギュラの主、此方だけだ。
強い。いざ戦闘となればカリギュラはダントツだ、それに特化している。
「聖治は休んでて、あとは私がやる」
此方がゆっくりと星都に近づいていく。まるで死を漂わせて近寄る死神のように。此方は膝を付く星都の前に立つとスパーダを振り上げる。
「私がやらなくちゃ。私が」
あとは振り下ろすだけ。それで星都を倒すことができる。星都は剣を持ち上げるどころか逃げることもできない。
「止めろ此方!」
でも俺は星都たちを倒したいわけじゃない。動きを止められたならそれでいいんだ。
「まだ言ってるの? こいつらは敵なのよ? ここでやらなきゃ、日向だって危険だわ」
「でも話し合えるだろ!」
こうして戦闘は止まっているんだ、戦いは回避できる。
「ディンドラン!」
「え」
見れば香織は四つん這いのままディンドランを出現させている。ディンドランも光を発し星都の体が淡いピンク色に包まれる。
「おらあ!」
それにより体力を回復した星都がスパーダを持ち上げる。カリギュラとエンデュラスがぶつかった。
星都はなんとかその場から離れる。香織のもとまで戻り構えた。
「そうか」
ディンドラン。それがあったか。それでカリギュラの減衰を治していたのか。でも治せるのは一人分だけで香織は今も四つん這いになっている。
「うう」
駄目だ、俺も限界が近い。苦しい。地上にいるの溺死しそうだ。
「聖治!?」
此方が駆け寄ってくる。カリギュラを解いたのか一気に肺に空気が入ってくる。
「ごほ、ごほ」
「ごめんなさい、大丈夫?」
ダンベルを下ろしたように体がすっきりする。俺もやばかった。あのまま続けていれば此方に殺されていたかもしれない。
だけどそれにより相手に隙を与えてしまった。
「もらった!」
星都が走る。狙いは此方だ、カリギュラの発動を封じるつもりだ。
「!」
やばい、やられる!
疾風となった星都が迫る。
瞬間だった。
「ミリオットォオ!」
白い奔流が星都を迎え撃つ。
「なに!?」
マンションの入り口から白い光線が真っ直ぐに放たれる。それは星都を狙い撃ちにし星都はすんでのところでエンデュラスで受け止める。だが威力に押し負け後ろに転がっていった。
「ぐあああ!」
地面に倒れる。
俺たちはマンションの入り口を見る。
自動扉の前。
そこにいるのは、白い聖剣を持つ日向ちゃんだった。
「日向ちゃん」
「日向!?」
日向ちゃんは星都に向けていた剣先を下ろす。その後ゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。
「日向、どうして」
「三人目か」
その顔は険しく、同時に悲しそう。
「日向、来ちゃ駄目よ。部屋に戻ってて!」
「ううん、私は戻らない」
「日向!」
此方の言いつけを断る。此方に対してこんなに強硬な日向ちゃんははじめて見た。
「見て分かるでしょ、危険なの。早く戻って!」
「嫌!」
「日向!」
言うことを聞かない日向に此方も大声を出すがなおも日向ちゃんは近づいてくる。
日向ちゃんは自分の胸に片手を当てて、その顔は昔を懐かしんでいるようだ。
「お姉ちゃんはいつも私を守ろうとしてくれる。嬉しかったよ。私はいつもお姉ちゃんの優しさの中で生きてきた」
その声は穏やかですらある。
「でも、そんなのは嫌なの。弱いままの自分じゃない、守られてるだけじゃない」
だけどそれもすぐになくなり日向ちゃんの表情は引き締まる。それは可憐な印象を持つ彼女にしてはとても精悍で、芯の強さを感じさせる。
「お姉ちゃんの背中じゃない。私は、お姉ちゃんの隣に立ちたいの」
そう言って、日向ちゃんは俺たちの間に立った。隣に並ぶように。
此方の後ろで守られる存在じゃない。共に戦う、対等な存在として。
「そんなに危険だっていうなら、私も戦う。私だって大切な人を守れるようになりたいの!」
「日向」
日向の決意に此方が驚いている。こんな彼女は此方も見るのは初めてなんだろう。
「戦うのはずっと怖かった。でも、私には守りたい人たちがいるから」
日向ちゃんが此方を見る。
「お姉ちゃん」
反対を振り返る。
「聖治さん」
その顔は正面に戻り、戦意を宿しスパーダを構えた。
「二人がいるから、私は今、勇気を持って戦える!」
夜の町に白いスパーダの光が照らされる。純白の聖剣はそれ自体がわずかに光を発し輝いていた。
聖王剣、ミリオット。知っている。それは増幅のスパーダ。使用者の力を増幅させ放射する。グランが力そのものを扱うのに対しミリオットははじめからある力を増やして使う。ミリオットは放射するとまた力を増幅しないといけないから連発はできないがその分強力だ。増幅が少ないと弱いがたくさん増幅させればそれだけ強力な攻撃が出せる。
それが彼女、安神日向のスパーダ。
「くそ」
攻撃が防がれただけでなくこちらが三人になったことに星都が舌打ちしている。これで三対二だ。
「星都、もう止めろ。不利なのは見て分かるだろう」
「アホ、それで諦めるわけねえだろ」
星都に退く気はない。力也が殺されて退路を絶っている。
「香織、新顔の技は見たな? あいつから目を離すな。撃たれるぞ。それとカリギュラは発動したらあいつらもバテるはずだ、その時は分かったな?」
「……皆森君。もうこれ以上は」
「アホ! 弱気になってどうするんだよ、お前は戦わなくていい。ただやばくなったら守れ、いいな? 力也は俺たちのどっちかを生き残らせるために死んだんだ。そうでなきゃ、あいつはただの無駄死にだ」
「うん……」
数が多い敵を前にしても星都の戦意はわずかも衰えていない。香織は乗り気ではないのが見て分かるがそれでも星都に従っている。
このままではまた戦いが始まってしまう。
「待ってくれ、こんなことは間違ってるんだ!」
俺たちは殺し合うべきじゃない、協力すべきだ。そうしなくちゃ駄目なんだ!
「俺にとって此方も日向ちゃんも、そして星都や香織も大事な人だ。そんな人たちで殺し合うなんて、嫌なんだよ俺は!」
「聖治!」
「聖治さん……」
未だにそんなことを言うのかと此方に睨まれるが無視する。俺だって譲る気なんてない。仲間同士で殺し合うなんて嫌に決まってる。
「ごめんなさい、聖治さん」
「日向ちゃん?」
「あの二人は聖治さんにとって大事な人かもしれない。でも、私の大事な人を傷つけるというのなら、私は戦います」
「それは」
言葉に詰まる。彼女は間違っていない。むしろ正しい。相手が攻めてくるというのになにもしなければ無防備に殺されるだけだ。自分も守れない。大切な人も守れない。そんなの俺だって嫌だ。
でも、星都を殺すなんて俺には……。
どうすればいい? どうすればいいんだ?
答えが見つからない。その間に戦況は動き出していく。
「お姉ちゃんや聖治さんは私が守ってみせる!」