仲間との敵対
「黙ってろ!」
「星都!」
なのに、星都は香織を怒鳴りつけた。
「お前は力也の犠牲を無駄にする気かよ!?」
「それは……」
星都に強く言われ香織の顔が下がる。
力也の死。星都と力也は親友だ。それは俺が一番知っている。その力也が殺されたことで星都は冷静さを失っている。
親友の死。生き残りを賭けたセブンスソードの舞台。そのせいで星都はもういつもの星都ではない。それほどまでに力也の存在は大きかったんだ。
俺だって力也が亡くなったと聞いて落ち込んでいる。でも星都はきっとそれ以上にショックだ。星都と力也は俺よりも付き合いが長かったから。
今だって、表情は激高しているがその目は泣きそうなくらいだった。
「あいつは俺たちを庇って死んだんだぞ? なら俺たちのどちらかが生き残らなくちゃならないんだ。それにこいつの言っていることが本当なんて保証がどこにある!?」
星都に怒鳴られ香織はなにも言えなくなっている。それに香織も力也が殺されたことを思い出しているのか涙を堪えていた。これじゃ星都を止められない。
駄目だ、このままじゃ本当に戦いになる。
「香織、聞いてくれ。俺のことを覚えてないか? 聖治だよ。前に一緒だったことがあるんだ!」
「?」
香織は俺を見てくれたがその顔はなにも分かっていないようだ。
「くそ」
この世界でも覚えていない。星都も覚えていないし、どうすれば。
「やるしかないんだ。抜けよ」
「ちょっと待ってくれ!」
「聖治」
呼ばれて振り向く。此方は真っ直ぐと二人を見つめている。今まで会話に入ってこなかった此方だったがその顔はもう引き締まっている。
「なにを言っても、もう手遅れよ」
「そんな」
相手は星都だぞ? なのになんで戦いなんてことになるんだよ。
「そんなのって」
「聖治。気持ちは分かる。でも今の相手はあなたの友人じゃない。戦う気なのよ? ならもう、戦うしかないわ」
彼女の必死な目が俺を見る。
「覚悟を決めて」
そんな……。
どうする? どうすればいい? 星都や香織と戦うなんて嫌だ。でも、戦わなければ俺だけでなく此方だって襲われる。
どっちを守ればいい? かつての友人か、今の仲間か。
どうすれば。
答えが決まらない。出したくない。でも、此方の中でそれはもう決まっていて、覚悟も済ましている。
「来い。魔皇剣、カリギュラ!」
此方がスパーダを出す。赤い刀身をした魔剣が彼女の手に現れる。
「抜いたか」
此方がカリギュラを出したことで星都の顔つきがさらにきつくなる。俺も隣にあるスパーダを見た。
魔皇剣、カリギュラ。赤い刀身の剣できれいなのにどこか鮮烈で血のようなまがまがしさがある。それは間違いなく魔剣と呼ばれるものだ。
これで、前の世界では力也が殺された。
でもそれだけじゃない。荒廃した世界の記憶を引っ張り出す。
能力は減衰。相手の力を奪う魔剣。それは生命力だったり段階が上がれば範囲も広がっていく。これは人を助けることも守ることもできない、ただ敵を殲滅することしかできない呪われた魔剣だ。
「此方、止めるんだ」
まだどっちも攻撃していない。まだ間に合う。こんな殺し合いをするために俺たちは出会ったんじゃない。
「いい加減にして!」
そんな俺に、此方は怒鳴りつけてきた。
「相手は戦う気なのよ? 戦うしかないのよ」
此方は戦う気だ。もう覚悟を決めている。
俺たちの背後に守らなくちゃいけない人がいる。そのために此方は戦う気だ。
「守らないと。守らないと」
「此方」
小さなつぶやきが聞こえる。彼女も怖い。それを使命感で必死に押さえている。
星都もスパーダを構えた。くるのか!?
「聖治、構えて!」
隣で此方が叫ぶ。それがスイッチだった。
星都の姿は一瞬で俺の目の前へと来ていた。本当に風のような突撃。知らなかったら斬られていた。俺は寸前のところでパーシヴァルを出し防ぐ。
「ちぃ!」
「星都……!」
「聖治!?」
剣を押しつけ合う俺たちだったが此方が加勢したことで星都が後退する。
「なによあいつ」
「あれは光帝剣エンデュラス。時間を操るスパーダだ。加速してくるぞ」
「能力まで知ってるのかよ」
パーシヴァルを構える。その相手が星都なのが悲しくて仕方がない。なにより、あいつは武器を出していない俺の方を攻撃してきた。
本当に、殺しにきていたんだ。それが辛くて目を逸らしそうになる。
「止めろ星都……止めてくれ……、こんなことお前だってしたくないはずだ!」
「うるせえ! それでもやるしかないんだよ!」
星都の体が高速で動く。次は直進ではなく俺たちの周りを走り始めた。その速度の中で星都が叫ぶ。
「力也は俺たちをかばって死んだ、あいつの死を無駄にできるかよ!」
周囲から響く声に胸が締め付けられる。
「そうか」
力也。お前、この世界でも友達をかばって死んだのか。星都が必死な理由もそれか。
星都は俺たちの外周を回っている。速すぎて見失いそうだ。
星都とは戦いたくない。でも攻撃してくるなら、守るために行動しないと。
「此方!」
「ええ!」
俺たちは背中合わせに立った。死角をカバーし星都を目で追う。速い、スピードでいったらどれくらいなんだ?
そこで星都の姿が視界から消えた。
「いない?」
「上よ!」
木を足場にしたのか、頭上高く飛んでいた星都が剣を振り下ろしてくる。それをパーシヴァルで受ける。
「ぐううう!」
星都の全身と落下の衝撃が両腕に走る。剣を握ってる指が折れそうだ。
「もらった!」
だが隙だらけだ。今の星都は足が地面から離れている。これなら移動できないし剣は俺が受け止めている。そこへ此方がカリギュラを振るう。
「!」
瞬間、再び加速する。頭上から降りて来た星都は足を曲げると俺を蹴りその反動で離脱していった。俺は地面に倒され此方の攻撃も空振りに終わる。
なんてやつだ。攻撃の速攻性と回避能力がずば抜けている。味方なら頼もしかったけど敵になるとこうも強いなんて。
「聖治、大丈夫!?」
「くそ」
俺を庇うように此方が立ち背中越しに聞いてくる。俺は立ち上がろうとするが両腕がしびれて痛みがひどい。
「う、うでが」
人一人が落下してきたのを剣で受けたんだ。指が動かない。
このままじゃまずい。でも俺のパーシヴァルはまだ能力が分かっていない。
「此方! スパーダを使え!」
彼女の背中に叫ぶ。分かっているのは彼女のスパーダだけだ。
「でも、これは」
「俺に構うな、やれ!」
魔皇剣カリギュラの攻撃は無差別だ。いわばマップ攻撃であり敵味方まとめて攻撃してしまう。
でも、このままじゃ俺たちがやられる!
「分かった」
俺も覚悟を決めた。またあの苦しさがくると重うと憂鬱だがそんなこと言っていられない。
「カリギュラ!」
彼女の叫びと同時にカリギュラが赤い光を発する。それによりこの場の空気が一変する。
「う」
「ぐうう!」
「なに、これ」
覚悟していたがやっぱりキツい。座っているのに息が上がる。筋トレをした直後みたいに疲れて体が動かない。