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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
第五章 果たされる約束
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第二の管理人

 フードを脱ぎ半蔵の顔が露わになる。墨の紋様が入ったスキンヘッドをした青年で精悍な表情は修行僧のようだ。一瞥されただけで全身に緊張が走る。


「なぜ彼をかばった。理由如何によっては君も処罰の対象にせざるをえんが?」


 そうだ、それは俺にも分からない。

 俺を庇った? エルターの時もそうだがなぜ庇う? それほどまで俺に人質としての価値があると踏んでのことか? 


 俺ですら分からないんだ、管理人である半蔵はもっと分からないだろう。

 なぜなら魔来名は強い。単体なら間違いなく最強だ。そんな男がなぜ人質なんかにこだわる?


「君の体は特別だ。その器は七つの剣と魂を入れる本来の杯となっている。それを君に当てた我々の意図を察してもらいたい」


「ふん、お前たちの意図か。器を満たし真の杯とする。それこそがお前らの望む剣聖の復活なんだろうが、くだらん。新しい宗教でも起こすつもりか? そもそも一度死ぬような弱者を生き返らせてどうするつもりだ。再び土に還るだけだろう。俺の知ったことではないな」


「意外だな。君はこの儀式に理解ある者だと思っていたが」

「お前の知らないところでいろいろあってな」

「しかし本当にいいのか? セブンスソードは君にとって、未来にとっても大きな意味を持つ。それを捨てる意味を君が知らぬわけがあるまい」


 半蔵の言葉に、魔来名はなにも返さない。


「君のことは聞いている。英雄的な活躍をしたそうじゃないか。それが無念の死を遂げそうなところを我々の仲間が預かった。肉体を失い、魂を削り、それでもなお戦い続けた君だ。未来を変える。目的は一致しているはずだ」


 半蔵の言っている内容は俺には分からない。ただそれが魔来名の過去であることは分かった。


 肉体を失い、魂を削り、それでも戦い続けた英雄。それに未来を変えるって、未来でなにが起こるのか知っているのか?

 魔堂魔来名。この男は、いったいなんなんだ。


「お前と俺では見ている未来が違う」

「では聞くが、今の君はなにを望んでいる?」

「やはりなにも知らんか」

「なに?」


 気迫のある半蔵の顔だが眉間にしわが寄る。


「なにを聞かされて俺たちを受け入れたのか知らんが迂闊だったな。俺の願いは最初から変わっていない。そして、そのためにはお前たちが邪魔になっただけだ」

「なるほど。誘い込まれたというわけか」


 二人の会話を俺は半分も理解できていない。だが最後の意味だけは分かった。

 俺の嘘を見抜いた上で外出させたのは管理人をあぶり出すためだったのか。そしてその管理人を狩るため。

 でもなぜ? 魔来名はなんのために管理人を倒そうとしている? この男の目的はなんなんだ?


「残念だ魔来名。君には期待していたんだが」

「他人に期待を寄せる時点で落ちぶれたということだ」

「以後気をつけよう。君へ期待はもうしない」


 そう言うと半蔵の両手にナイフが握られる。指の間に挟まれた計八本のナイフが暗がりでも分かる。対して魔来名も天黒魔が持つ紫の刀身を持ち上げた。

 両者が対峙する。今までの追及をしているだけの空気ががらりと変わり、戦場の空気が流れる。


「君に用はないがその体には価値がある。返してもらおうか」

「言われて返すと思うのか? 悠長な問答などしたところで時間の無駄だ。こい。お前も武人なら力を示せ」


 魔来名が構える。半蔵も左手を前に出し反対の手を持ち上げた。左手で防御、右手でいつでも投擲できるよう構えている。見た目だけなら剣道の二刀流のようだ。

 互いににらみ合いが続き機を読み合う。


 そこで先に動いたのは半蔵だった。持ち上げていた腕が消えたかのように振り下ろされる。


 風を切るような半蔵の投擲。さらに左手も動き交互にナイフを発射した。その連続投擲の速度は二丁拳銃を撃つのと変わらない。俺ではついていくのもできない。ましてや見切るなんて不可能だ。


 それを魔来名は防いでいた。腰を落とし被弾面積を狭め、刀と鞘を使い全身をカバーする。わずかな動きで迫り来るナイフを受け止め地面へと落としていた。


 半蔵の八本目を防ぎ終え魔来名は天黒魔を投げる。お返しと言わんばかりの投擲が半蔵に迫るがその手にはすでに新たなナイフが握られており片手で防がれてしまう。すぐにナイフを投擲しカウンターをするが魔来名は天黒魔を消すとすぐに手元に出しそのナイフを防いでみせた。


 一瞬で決着がついてもおかしくない攻防。早業の応酬だ。一つでもミスをしていれば即、死に繋がる戦いがそこにはあった。


 やはり次元が違う。魔来名と管理人の戦いは俺たちがしてきた能力に頼った戦いなんかじゃない。技と経験がある。達人同士の戦い。そんな表現がぴったりとくる。

 だがこれだけの戦いをしていても二人にしてみれば小手調べ。本当の勝負はここからだ。


「やはり惜しいな。これだけの力を持ってしてセブンスソードをふいにするとは」

「必要のないものを捨てることになんの躊躇いがある」

「そうだったな」


 半蔵の両手にはすでに八本のナイフが握られていた。いったいどんな手品か能力なのか俺には分からないが残数のない投擲というのは厄介だ。

 さらに半蔵の能力はこれだけじゃない。


「だが、それは君の思い上がりだとすぐに分かる」


 半蔵が再び投擲する。数は一本。速いが直線を描くそれを仕損じる魔来名じゃない。もはやそれが当たり前のように魔来名は天黒魔の刀身で打ち落としていた。


「んッ」


 その魔来名に苦しげな声が漏れる。見れば背中にナイフが突き刺さっていた。


「え」


 端から見ていたからこそはっきり分かる。


 半蔵がナイフを投げると同時、背後からも別のナイフが飛んできたのだ。しかもなにもない空間から突然現れた。


 あの時と同じだ。突然別の場所からナイフが飛んできてわけも分からないまま全身を刺された。


 魔来名はナイフを引き抜く。痛みを堪えながら目を動かし落ちているナイフと今掴んだナイフを見やる。その後それを捨て半蔵を見た。その表情に困惑の色はない。


「まさか」


 もしかして、分かったのか? 今のだけで半蔵の能力が?


「向かってきたナイフは防いでそこに落ちている。だが別方向からもナイフが飛んできた。空間転移ではないな。お前は一回しか投擲していないのに飛んできたナイフは二本。それなら別の誰かが投げたと考えるのが普通だがここにいるのは俺とお前、そしておまけが一人だけだ」


 はあ!?


「では誰が投げたと」


 半蔵からの質問に、魔来名は自信を覗かせた。


「決まりきっている。別のお前だ」


 魔来名は不敵に笑う。それに対して半蔵は無言のままだった。


「並行世界にいるもう一人の自分。その投擲をこの世界に重ねたか。多元同時攻撃がお前の技の正体だ」


 並行世界。多元同時攻撃。そうか、そういうことか!


 無数にあると言われる並行世界にはこの状況とほとんど同じ世界もあるはずで、その世界では別の場所から攻撃した自分だっているはず。そうした同じ状況だけれど別の場所から攻撃したナイフをこの世界に出現させたんだ。空手になる度にナイフを握っていたのもナイフを握っている自分の並行世界から持ってきたのか。


「見破られたなら仕方がない。見事だ魔来名。だが、それが分かったところでどうするつもりだ」


 半蔵は魔来名の答えを認めた。だがそれは必ずしも弱点を突いたとは言えない。


「並行世界は可能性の数だけ存在する別世界。そこには正面から投擲した私もいれば背後から投擲した私、頭上から投擲した私もいる。その攻撃、すべては防げまい」


 確かに、半蔵が言っていることは尤もだ。原理が分かったとしても解決まで出来るとは限らない。


 多元同時攻撃の恐ろしさはその隙のなさだ。様々な場所や角度から攻められたら如何に魔来名といえど防げない。必ず死角を突いてくる。

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