読めない真意
全身に痛みが走る。どんな目覚ましよりも嫌な刺激で意識を起こされた。
「う」
つい声が漏れる。俺は横になっている体を起こそうとするが痛みがひどく諦めた。それで辺りを見渡してみる。
どこかの廃墟の中のようだ。コンクリートと骨組みだけで窓は壊れてない。室内はほとんど空っぽだ。放置されてだいぶ経つのか地面には雑草が生えている場所もある。中央にはランプが置かれ室内をほのかに照らしていた。
俺はそんな場所の床に毛布が敷かれた上で寝ており見れば体には包帯も巻かれている。
包帯? どういうことなんだ? 俺はなんでこんなことになっている?
そう思っていると足音が聞こえてきた。顔を入口に向ければいたのは魔来名だった。
「起きたか」
その手には袋がぶら下がっており魔来名は壁際に座り込む。
俺はすぐに立ち上がろうとするが痛みとそれに力が入らずうまく立ち上がれない。
「まだ痛むだろう」
袋に手を入れそこから俺に放り投げる。それを受け取って見ればさば缶だ。視線で問いかける。
だがこの男はなにも言わない、自分の分を取り出しフォークで食べている。状況がよく分からないが、食べてもいい、ってことだよな?
目線を缶詰に戻す。どうしようかと悩んだが痛む腕をなんとか動かしフタを開けた。殺そうと思えばすでにやっている。毒が入っているなんてこともないだろう。
それで食べようとしたがフォークがない。
「フォークはこれしかない、素手で食べろ」
俺が一向に食べないでいると魔来名がぶっきら棒に言ってきた。そうかよ。
なんだか釈然としないがそもそももらいものだ、注文を付けるのも違う気がして言われた通り素手で食べる。
それで全部を食べ終え指をなめる。食べている間は終始無言だった。なにがしたいのか分からない。
「どうして」
魔来名は中央に置かれたランプの光をじっと見つめている。夜のため辺りは暗く光に照らされた魔来名の表情がうっすらと見えた。
「どうして俺を助けてくれたんだ?」
「言ったところで意味のないことだ」
「言ってくれなくちゃ分からないだろ」
「無駄なことはしない」
魔来名は頑なに言ってくれない。推測するしかないか。
俺が生きていることにどんなメリットがある? 俺が生きていることで魔来名がなにを得する?
まさか、俺から他のスパーダの情報を得るために? それなら辻褄は合う。これから尋問する気か? それか人質だろうか。
この男は信用できない。一週目の世界を思い出せ。こいつは俺たちの制止を無視して殺してきたんだ。セブンスソードに積極的なんだぞ。
一刻も早くここから離れたいのだがまだ体がいうことを聞かない。
くそ。いや、自棄になるな。魔来名の目的は依然不明だが俺を殺していない事実、これはチャンスだ。どこか隙を見つけて脱出し香織と合流すればいい。そうすれば傷は治る。
となれば、俺が今すべきなのは体力の温存。そして隙を伺うことだ。
俺は毛布にくるまり目をつぶった。無駄な体力を使うべきじゃない。少しでも回復させてその時に備えるんだ。
「なにを考えている?」
「!?」
バレたのか?
「別に。なにも」
寝返りを打って背中を向ける。表情から動揺を悟られるかもしれない。その分魔来名が見えなくなるが仕方がない。
俺はそのまま眠ったふりを続けていった。時間が過ぎていく。俺はそっと魔来名の顔を盗み見た。
魔来名は壁際に座ったまま目をつぶっている。天黒魔を支えにして顔を下に向けて。眠っているのだろうか?
今ならいけるかもしれない。
傷はまだ痛むがゆっくりと立ち上がる。
「どこへ行く」
「!?」
振り返る。魔来名は目を瞑っているが意識はまだあったようだ。
「トイレだよ。ここで用を足すわけにもいかないだろ」
「…………」
バレバレな嘘だと思うがこんな理由くらいしか思いつかない。
「……そうか」
え? いいのか?
魔来名を見るがあいからわず目を瞑ったまま寝ているのか起きているのか分からない表情をしている。でも止めないということは行っていいということだよな?
若干拍子抜けしつつ部屋の外へ出る。振り返ってみるが追いかけたり見張りに来る感じはない。
思ってたより甘いな。でもそういうことなら。
俺は建物の外へとそっと向かい出るなり全力で走り出した。
夜の町をひたすら走る。走る度に痛むのを無視するがうまく走れないのがもどかしい。
「はあ、はあ」
体全体が悲鳴を上げて仕方がなく立ち止まる。夜とはいえ走れば息も上がるし汗もかく。まだ新都からは離れているが魔来名のいる建物からはそれなりに離れることができた。さすがにここまでこれば大丈夫か?
無人の港町は不気味ではあるがさっさと抜けてしまおう。そしてみんなと合流すればこの状況だって変えられる。
俺は一度頷き、再び走ろうと力を入れた。
「どこまで行くつもりだ」
が、その声に出掛かった足が止まった。ゆっくりと振り返る。
「トイレは出て突き当たりを右だ。外に出て真っ直ぐじゃない」
「どうやって」
体は痛んでいたが全力で走っていたのに。もう追いついたのか?
魔来名はやれやれといった顔をしていたがその目が一気に鋭くなる。
「なぜ逃げる」
「当たり前だろ」
その質問を本気で言ってるなら正気を疑うぞ。
「あんたは俺の敵だろう。そんなやつのところにいられるか」
「ではお前が向かっている先はどうなんだ。仲間だという保証でもあるのか」
「あるさ」
俺は確信を込めて言う。
「町にはみんながいる。俺の友であり仲間が。そこにあんたを連れていくわけにはいかない。あんたの狙いは俺を人質にして町のみんなを倒すことだろ。そんなことは絶対にさせない!」
魔来名はスパーダの中で唯一セブンスソードに乗り気な男だ。そんな男がみんなと会えば殺そうとするに決まっているしそこに俺がいればみんなの足を引っ張ってしまう。そんなんじゃ未来は変えられない。
みんなとした未来での約束を果たすためにも、俺はこの男を止めなくちゃならないんだ。
俺はシンクロスを取り出した。
「お前の好きにはさせない、魔来名!」
体は痛むし傷だってまだ癒えていない。おまけに魔来名は強敵だ。普通に戦っても勝てる見込みは薄い。だけど、だからって諦めてなんになる。こうなっては戦うしかない。
俺は諦めない意思とともにシンクロスを握りしめた。
「そうか」
俺の言葉に魔来名は嘆息気につぶやいた。
「頑固と言うべきか、愚かと言うべきか。お前は本当に学習しないやつだ」
呆れているのがありありと顔に出ている。それもこいつなりの挑発なんだろう。胸元を片手で広げやれやれと顔を振っている。
「敵か味方か。そんなものはない。結局のところスパーダは一つにならなければ意味がない。もういい、なにも言うな。その抵抗がどれだけ無意味か教えてやる」
「やってみろ!」
ここで負ければすべてが終わる。
魔来名の手に天黒魔が握られる。いつもの居合いの構えを取り、青い目が急に見開かれた。それと同時に前へ出る。
間に合え! 魔来名の動きに合わせ俺もシンクロスを振るう。傷口から痛みが走り満足に体が動かない。シンクロスの刀身が魔来名に当たるよりも前に魔来名は俺に接近していた。
「があ!」
が、魔来名は俺を斬るのではく突き飛ばした。押されたことで地面に尻餅をつく。その直後金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。
なに? なにと戦っている?
すぐに魔来名を見上げる。そこには抜刀した姿勢の魔来名と、俺の背後にいた管理人の姿だった。
「解せんな」
聞こえてきた声に背筋が凍る。
その声は聞き覚えがある。俺と同じくらいの体躯になにより地面には打ち落とされた投擲用のナイフ。それを使う管理人は一人しかいない。
「半蔵……」
二週目の世界で現れた第二の管理人だった。




