目的は分かった。だが、お前達は間違っている
赤い空。夕暮れよりもなお濃密な赤が頭上どこまでも続いている。
けれどここはさらに赤かった。並ぶ家はほとんどが全焼、激しく燃え上がる炎が村を赤く塗り潰す。
遅かったか。駆は村の入り口で下り中へと入っていく。だが住民らしき影は見当たらない。その代わり家に挟まれた大通りに軍隊らしき列が見える。遠くからでも軍旗が見える。間違いない。仲間たちも指輪から飛び出てついてくる。
敵の目の前で立ち止まる。間違いない、不死王軍の旗だ。だが足を止めた理由は別にあった。
「!?」
「ほう」
その集団、さらに先頭に立つ悪魔に目を疑う。
そこにいたのは領地に侵攻してきた、あの部隊長だった。赤い体に背中の翼、巨大なハルバートなどどれも特徴が一致している。
なぜあの時の悪魔がここにいる? あの時間違いなく死んだはずだ。もしくは駆が人間だから見分けが付かないかもしれない。日本人で西洋人の見分けなんてなかなかつかないのと同じように、それが悪魔ならなおさらだ。
「どういうこと!?」
「まったく同じだヅラ」
が、リトリィとポクも驚いている。本当に同じなんだ。
生きていた? いやあり得ない。目の前で灰になったのを見た。
では、なぜこいつは生きている?
「困惑しているな、人間。いいや、殺戮王」
その声、しゃべり方。瓜二つだ。やはり同一の悪魔。
「見ての通り私は生きている。素晴らしいだろう? 私も体験するのは初めてなのだがね。この力、死を超越したこの奇跡があるからこそ私は不死王軍に忠誠を誓っているのだ」
「死を超越しただと?」
「その通り」
赤い悪魔の不敵な表情。その自信に満ちた表情には死への恐怖など微塵もない。なにより駆はこの悪魔が死んだのを確かに見ているのだ。
嫌な予感が全身を舐めるように這い上がってくる。殺したはずの悪魔とフェニックスの能力が最早確信に近い思いで導いている。
「我々不死王に仕える者たちはな、王の恩恵により蘇るのさ。何度でもな」
それは、戦場において勝利宣言にも等しい衝撃だった。
赤い悪魔の声に仲間たちも言葉を失っている。
死ぬ度に蘇る不死の軍団。そんなもの無敵もいいとこだ。倒しても倒しても蘇るのならいずれ戦力は削られじり貧。勝ち目のない戦いは敗北しかない。
不死王軍というのは、それほどまでに強力なのか。
「死んでも蘇るなんて反則じゃん!」
「反則ではない、不死王千歌様の力がそれだけ強大であり優れているのだ。それもまたあの方の慈愛深き故だ」
「慈愛だと?」
ヲーの声に険が増す。それもそのはず。彼の気持ちは駆も痛いほど分かる。
ヲーは不死王軍によって多くの仲間を、村を、友を奪われた。その理不尽な死が慈愛など言われ我慢できるはずがない。
「多くの村を襲撃し、罪のない者を手にかけておいて。これが貴様等の言う慈愛か!?」
「犠牲のない勝利はない。それはお前も分かるはずだ。ではこちらも尋ねよう。何故千歌様は戦う。何故自ら立ち上がりこの戦を起こした。その目的は、目指す場所とはなんだ!?」
赤い悪魔が大声で聞いてくる。その声には侵攻の疚しさはない。あるのは自信と信念だ。
「この魔界では、力及ばず、それだけで死んでいく多くの者たちがいる。その身で生まれただけで生き方を決定される世界だ。だが、死がなければ何度でも挑戦できる、立ち上がることが出来る。それを可能とする世界の構築、それが千歌様の願いだ! すべてを救済しようとすることが慈愛でなくなんだと言う!?」
彼の声は質問から説明に、そして力説へと移る。彼の気持ちを上げながら。
「そのためならば一時この身を残虐な悪魔にしようと躊躇うものではない。その後に、死別のない永遠の世界を約束しよう。だから私は戦う。我々は戦う」
それが彼らの目的。侵略、侵攻の先にあるのは死のない世界。
「理想のために、今は死ね!」
死の悲しさを知るが故に、死を振りまく悲しき軍団だった。
「そうか」
彼らの目的を知る。だがそれで納得できるわけがない。
奪われたものは、もう戻ってこないからだ。
「目的は分かった。だが、お前達は間違っている。どのような崇高な目的であれ、無関係な者を殺めていい道理などない! 死のない世界だと? 多くの同胞を殺めておいて、お前等が口にすることか! 恥を知れ!」
死からの救済を謳っておきながら殺しにくるとはひどい冗談だ。そんなものが果たして救済と言えるのか。理想のために死ねなど、反発するに決まっている。
「怒りは尤も。私たちに出来るのはその思いを無駄にしないと誓うことだけだ」
「お前たちの理想は成就しない。道半ば、罪の重さで潰れるがいい!」
駆も思いを同じにしている。そんなのは間違っている。たとえ救済が目的だとしても、その達成前で死を強いるなんて。
そんなことを、千歌が望んでいるのか。
そのせいで、多くの者が悲しんでいるのに。
拳を強く握りしめる。




