不死王軍です。不死王が、直接ここに……
城が、燃えていた。不気味かつ荘厳な城はしかし炎に包まれその形を崩している。
落城。それは確固とした敗北を駆たちに突きつける。城を燃やす炎は不死王の名残に違いなく、その残骸に混じって多くの警備兵が倒れている。
滅びと死。それがここにはある。死体が転がる現場に駆は立たされその光景に心が縛られる。
自分の城が燃えていること。それよりも、仲間たちの死に強烈に感情が揺さぶられる。
この気持ち……。胸の底から沸き上がるそれはいったいなんなのか。絶望。不安。心配。すべて違う。
駆は振り払うように顔を振る。
この光景に、惹かれているのだ。自分で作りたかった、そう思うほどに――
それが嫌で嫌で駆は下唇を強く噛んだ。この痛みでこの思いを打ち消そうと。
そうして必死に抵抗することで内側から昇る黒い炎は沈んでくれた。
「魔王、様……」
そこで声が聞こえてきた。弱々しいが確かに聞こえた。
顔を上げれば負傷したリザード兵が足を引っ張りながらこちらに向かっている。
生存者だ。そう思うと同時、指輪からヲーが出て彼に駆け寄った。
「無事だったか、状況は?」
「不死王軍です。不死王が、直接ここに……」
「なんてことだ」
やはり襲撃したのはフェニックスを宿した不死王。この炎がそれを物語っている。
「ここにいた者たちは?」
「難民や民間悪魔たちは迷いの森に避難させています。現場の指揮はフンヌが。私たちはここに留まり戦ったのですが、守りきれず。面目ない」
「阿呆。よくやってくれた。今は休め」
「ですが、まだ火事が」
彼の傷では満足に動くことも出来ない。だがすぐに消化しなければますます城が燃えてしまう。
どうすれば。消火活動をするにしても悪魔手(人手)がいる。そもそも水をどこから運べばいいのか。
「任せてください」
その声にみながウンディーネのサラに振り向いた。今まで霧状となって空気に混ざっていた彼女が姿を現す。
「出来るか?」
「はい!」
サラは水の妖精。その彼女が両手を城に向ける。
「ウォータ!」
言葉と共に両手から勢いよく水が噴射される。それは城の上から大粒の雨となって全体に降り注いだ。両手を動かし火を消していく。ここだけが豪雨となってみるみる城や中庭から上がる火の手が収まっていく。
すごい。あれだけ燃えていた火がもうなくなっていた。城は全体的に黒こげ一部崩落しているもののまだ原型を留めている。
駆はサラに感謝の意味を込めて頷いた。それを見てサラも微笑で返す。
これで城は守ることができた。だがやることはまだ大積みだ。
「我々もすぐに動くぞ! みんな!」
ヲーの指示に指輪から仲間たちが出てくる。リトリィやポク、ガイグン。みんなその目は真剣だ。
「ガイグン、瓦礫の撤去を頼む。ポクは負傷者の手当を。リトリィ、君は周辺の状況把握だ。負傷者の数や状況を調べ私に知らせてくれ。メトル、至急迷いの森にまで行ってフンヌに伝言を。我々が来たことを伝えてくれ。とりあえず現状を維持し最低限の警備を残して使える悪魔をこっちに送ってくれ。サラ。すまないが君も協力してくれ。ポクと共に負傷者の搬送と介護を頼む」
「了解だ」
「分かったズラ!」
「合点承知!」
「早速行くわ!」
「はい!」
ヲーの指示にみな力強く返事をしていく。
「マスターは、その」
それでヲーが駆を見る。駆はここの王だ。その彼にあれこれ指示を出すのはおかしい。だが今は猫の手でも借りたい状況だ。
それで彼もどうしたものか言い淀むがそれを駆は片手で制す。自分がすべきことは決めている。
駆はポクを見る。それで互いに頷いた。
「分かりました。ではお願いします」
駆も力強く頷く。
成り行きではあるが自分はここの主だ。ならばここと住まう者を守る責任がある。
やれることは少ないがやる気は十分だ。駆はポクについていき彼の指示を受けながら負傷者の応急手当をしていった。ガイグンは瓦礫を口にくわえては城の外へ運び出し、サラは倒れているリザード兵の下から水を溢れさせるとウォーターベッドを作り出し運送していった。
「もーう、どこもボロボロじゃないのよ!」
みな慌ただしく動く中時折通り過ぎていくリトリィの愚痴が聞こえてくる。
その内迷いの森に避難していた悪魔たちが戻ってきて手伝ってくれた。それにより一段落つき一旦休憩となる。それでもヲーは司令塔として頑張っている。そんな彼に申し訳なく思いながら駆は中庭にある花壇の前に立っていた。埃を片手で払い腰を下ろす。応急処置の手伝いとはいえこれだけの数だ、疲労の溜まった体を落ち着ける。額に浮かぶ汗をふき取った。
なんとか峠は越えた。しかし問題はなにも解決していない。




