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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
375/496

この怒りが消えない限り、この男は止まらない

 他人の心を操り意のままにする。その外道を裁く。


 反論は許さない。


 力也の五指がラブオネットの顔面を万力のように締め上げる。その力にラブオネットが暴れるが逃れられない。そのまま顔面は砕かれた。ラブオネットの両手がぶらんと下がり灰となりながら落ちていく。


 それをつまらなそうな表情で見届けた後力也の視線が上がる。


「あ」


 そこには怯えた表情の吉岡がいた。


 力也はゆっくりと歩き出す。


 ようやく処刑の時間だ、邪魔は入らない。


「あ、ああああ!」


 力也が近づいてきたことで悲鳴が上がる。これが絶望だとこれまで嫌というほど教えられた。


 やれることはすべてやった。そのすべてが破られた。希望もない。期待もない。ただ歩み寄る恐怖におののくだけ。


 力也がさらに歩み寄る。


 そして目の前に立った時、問答無用で殴られた。


「があ!」


 頬を殴られ意識が飛ぶかと思った。そんな心配は直後腹部を襲う激痛で醒める。


「があ、ああ!」


 なんとか身を守ろうと両腕で構える。


 その上から殴る、殴る。腕が折れるかと思った。それでも必死に顔や頭部は守ろうと構え続けた。


 だが、その抵抗がさらなる惨状を招く。


 力也からすれば顔面を殴ってやりたいのにこの両腕は邪魔だ。果実の皮と同じ。


 では剥がしてやればいい。


 力也は吉岡の腕を掴んだ。さらに肩も掴み腕を引き離す。


「ひい!」


 力也の力に反発するも拮抗するはずもなく固く閉じられていた腕の一つが開く。さらに力也は腕を引っ張り続けた。


「止めろ、止めろ!」


 吉岡の腕はすでにいっぱいに開かれている。その限界を超え、さらに引っ張る。


 肩は外れ、肉は裂け、腕がちぎれた。


「ぎゃあああ!」


 吉岡が上げる悲鳴をよそに力也は興味なさそうに腕を放り投げる。吉岡の肩からは血が吹き出すがそれはあくまで下準備。


 力也の殴打が始まる。片腕で防ごうとしてもそれは力也の片手で握られ、残った手で顔面を殴られる。殴られ、殴られ、殴られるたび悲鳴の音が小さくなっていく。顔面は痣でいくつも青くなっていた。


 吉岡の反応が鈍くなると力也は胸ぐらを掴み持ち上げた。そして柵に近づいていく。落下防止のために張られた数メートルにもなる網状の柵。それを蜘蛛の巣のように引きちぎり吉岡を掴んだ腕を外に伸ばす。吉岡は視線を下に向け足場のない空中で両足をばたつかせた。今吉岡の命綱は力也の腕だけだ。生殺与奪を握るという状況がこれほど合っている場面もない。これは吉岡の命に等しい。そのため懇願の眼差しで力也に訴える。


 しかし、返されるのは冷たい目つきだけ。


 力也の手が放された。


「うわああ!」


 落下する。救いを求めて伸ばした手はなんとか屋上の隅を捕まえた。指に力を入れる。だけど片手で全身をいつまでも支えるのは無理だ。


「た、たすけてくれ。わるかった」


 こちらを見下ろす大男。自分を殺そうとしている彼に許しを請う。


「ぜんぶ謝る、だから」

「黙れ」


 却下。そんなものは受け付けていない。執行猶予も情状酌量の余地もない。


 判決は下された。この男が下した。あとは執行するだけだ。


「鬼畜が喚くな。反省もいらん。ただ苦しんで死ね。お前に望むのはそれだけだ」


 その、死刑宣告にしては辛辣な言葉に、処刑人としては歪なその有り様に。吉岡はすべてを忘れて、もしくは諦めて、ありったけの気力を怒気に変え叫んだ。


「ふ、ふざけるなああ!」


 どうせ助からない。なら失うものなどなにもない。それなら言ってやればいい。


「ふざけんなよてめえ! なにが鬼畜だ、てめえはなんなんだよ! 平気で人を殺しておいて、てめえも同じだろうが! 自分のしたいように人を殺しておいて、自分は聖人面か!」


 忘れていない。こいつは人質を殺した。


 歴とした、殺人者だ。


「お前だって人を殺したんだ、お前だって悪だ、お前だって最低な人間だろうが!」

「だったらなんだ」


 その訴えを、この男は認めた。


 論破によって意気地を折ろうとした弁論が認められては意味がない。それではこの男の殺意を折れない。


「お前は殺す。絶対に殺す」


 そもそも、この男は正義や法律などと言った理屈で行動していない。そんなものじゃない。


 揺るがすことの出来ない根底、そこから沸き上がるもの。


 怒りこそが、彼の行動原理だ。


「そのためなら、俺は躊躇しない」


 怒りの暴君。それが今の力也だ。


 論破や指摘は無意味。


 この怒りが消えない限り、この男は止まらない。

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