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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
363/496

愛理さんはつき合っている人っているの?

 力也は階段を下りていく。みんなはなにも分かってない。そう胸の内で愚痴るも完全に否定もできない。こうして逃走しているのがいい証拠だ。


 複雑な思いのまま教室へ戻る。その途中、人気のない廊下に愛理の姿があった。


 彼女を見つけるなりさきほどまであった煩雑な思いは吹き飛び笑みがこぼれる。しかしそこにいたのは彼女だけではなかった。


 力也の知らない男の子だ。ワックスで髪型をしっかりキメて雰囲気からも派手な印象を受ける男子だ。そんな彼と彼女は話をしているようだがどうも彼が一方的に話しかけているようだ。彼女はあまり乗り気のしない声で相づちを打っている。それは彼も分かっているはずだが話を切り上げようとはしない。それどころか離れようとする彼女を強引に押しとどめている。


 どう見ても仲良しという感じではない。


 力也は二人に近づいた。


「愛理さん」

「あ、リッキー」


 力也が近づいたことで愛理が振り返る。その表情がぱっと明るくなる。反対に男子の方は迷惑そうに歪む。


「ち」


 男子は舌打ちするとそのまま歩き出していった。角を曲がりいなくなる。彼の背中が見えなくなったのを確認して彼女に振り返る。


「ありがとリッキー、まじ助かった」

「あの人は?」


 力也は初めて見る人だ。クラスメイトではないはずだが。


 彼のことを聞かれ愛理は嫌なことを思い出したように表情が曲がっている。やはり友達というわけではなさそうだ。


「吉岡浩人っていう人。よく言い寄って来るんだよね」

「そ、そうなんだ」


 そうだとは見た時から薄々とは分かっていた。そういうことだろうと。


 多感な時期の高校生活だ。クラスにいるだけで誰と誰がつき合っているとか誰々が可愛いなんて話は流れてくる。そんな声を聞く度自分とは関係ないと思っていた。そんな話をしたこともなくましてや彼女相手にするなんて考えたこともない。


 だけどそうした出来事は当たり前のようにあって、それが彼女には日常で、自分との違いを目撃する。


 対岸の出来事でも幻想でもない、自分の出来事として実感した。


「でもあいつ顔はいいけど女の子にしょっちゅう声かけてるみたいで。あー、いよいよ私のところにもきたかって感じ」


 私そういうのって嫌なんだよねと不機嫌そうに言う。


「そ、そうなんだなあ」


 きっと何度もあるんだろう。それはさきほどの彼に限ったことではなく。


 別段それは不思議なことではない。彼女は可愛らしいし性格も明るい。好きになる人はいるし中には声をかける人もいるだろう。


 そのことに、どこか自分だけが置いて行かれている、そんな不安と寂しさが胸から湧き起こる。

 このままでは、彼女は遠ざかってしまう。


『こういうのは自分から前に出ないと駄目だぜ?』


 そこで親友に掛けられた言葉を思い出す。


 いつまでも引っ込んでいては近寄れるものも近寄れない。


 勇気を出せ。前に出ろ。


 それは悪魔と戦うことよりも勇気のいることだった。


「あ、あの!」


 つい声がはねる。


「愛理さんはつき合っている人っているの?」


 聞いた。聞いてしまった。聞くことが出来た。言った瞬間いろいろな思いが生まれる。投げたボールが壁に当たって跳ね返ってきたようだ。


「ん? いないよ」

「そうなんだ」


 答えてくれた。返事はいない。押し込めていた不安が一気になくなり心の空が晴れ渡る。


 いないんだ。その事実にじんわりと嬉しさが広がっていく。


 ここで話を切ってしまえば自分が好意を抱いていると思われてしまう。


「愛理さん、モテそうだしつき合っている人がいてもおかしくなさそうなんだな」


 とりあえず興味本位で聞いてみただけ感を出して悟られないようにしておく。これで迷彩は完璧だ。


「私、そんな軽い女じゃないもん」

「え?」


 そう思っていた。しかし予想外の反応が返ってくる。


「リッキー、私のことそう思ってたんだ。ショック」

「違うんだなあ!」


 愛理は表情を曲げ顔を逸らしてしまう。


 そんなつもりはなかった。むしろ誉め言葉のつもりだった。照れ隠しで言っただけだった。彼女をそんな風に思ったことなんて一度もなかったのに。


 しかし彼女はそう解釈してしまった。そのまま力也の横を通っていく。


「あ」


 有無を言わせぬ彼女の去り際にそれ以上声を掛けることが出来ず、力也は静かに遠のく背中を見つめるだけだった。

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