おう、その意気だよ
青い空の下、大きな足が通学路をゆっくりと踏みしめる。
織田力也。いつものんびりとした優しい少年は珍しく俯きながら暗澹な思いを引きずっていた。
身長177センチの高身長はしかし背が丸まりいつもより僅かに小さい。
最近の彼はいつもこんな調子だ。今日もそう。家を出てからというものこんなにも天気のいい日だというのに顔を上げたことがない。目線は重い気分に引っ張られ足下を見つめるばかりだ。
そんな彼を隣で歩く星都が心配そうに見上げる。
「元気だせよ、お前がそんなことでどうする」
「うん……」
親友からの励まし。その気持ちを嬉しく思うも返事には覇気がない。
彼がこんなにも暗いのには理由がある。それはもちろん星都も知っている。だから彼も表情をしぶくする。
共通の友人、剣島聖治のことだ。なんとかしたい。そう思うのになにも出来ない。せめて祈ることしか出来ない現状に思いは募る一方だ。
「今はあいつを信じるしかない。いつか戻ってくるってな」
星都としても聖治のことは気がかりだが悩んだところで解決する問題じゃないことは分かっている。
「逆にだ、あいつが戻ってきたのに進展がなにもありませんでしたなんてなったら格好つかないぞ? どうする、明日いきなり復帰してきたら」
むしろ悩むより行動すべきだと明るい口調で話しかける。
「せっかく戻ってきたのに収穫はなにもありません、あいつが苦しんでる時俺たちはただ間抜けに過ごしてましたなんて言えるかよ」
「それはそうなんだけど」
「だろ?」
彼の言うとおり。気持ちはまだ引きずっているがそれで解決しないのなら行動すべきだ。
「だから、俺たちは信じて今やれることをやるんだ。あいつがいつ戻ってきてもいいようにな」
「……うん!」
彼の励ましに力也も頷いた。彼を心配する気持ちは今だけ片隅に置いておこう。自分たちでやれることに集中するために。
「そうなんだな。ふさぎ込んでても仕方がない。僕たちがやれることをやっておこなくちゃ。そして聖治君が来たらいろいろ教えてあげなくちゃね」
「おう、その意気だよ」
力也の表情に普段の明るさが戻る。星都も一安心だ。
「でだ、俺たちのするべきことだが分かってるか?」
「もちろん」
そうと決まればあとは行動だが肝心の目的を忘れてもらっては困る。星都からの確認に力也は自信満々に頷いた。
「デビルズ・ワン。それについての調査だよね。悪魔召喚師は人間の魂を生け贄にしようとしている。だからそれをする前に見つけて止めさせないと」
「分かってるな」
デビルズ・ワンは今も進行中だ。こうしている間にも生け贄を求めて行動している悪魔召喚師がいるかもしれない。なんとしてもそれは止めなければならない。
「そこでだ、このデビルズ・ワンに参加している悪魔召喚師だが今のところ共通点がある」
「共通点?」
なんだろうか。ぱっと浮かばない力也は斜め右を見上げる。
「現時点で分かっているのは生徒会会長の真田秋和。副会長の天明千歌。相棒が戦った一花って女子。」
「そうか、全員この学校の生徒か関係者なんだなあ!」
「残りもそうだと決まったわけじゃないがこれだけこの学校の生徒が参加しているんだ。可能性はある」
得心する。言われればそうだ。正確には上里律は正規の参加者ではなく妹がそうなので全員この学校の生徒ということになる。
この共通点を参考にすれば残りの悪魔召喚師もだいぶ的を絞れる。
「もし学校の生徒が悪魔召喚師ならなにか異変があるはずだ。いつもと様子が違うとか学校を休みがちとかな。最近になって変わった生徒がいないか、それを探すんだ」
「さすが星都君! よく考えてるんだなあ」
「あったりまえよ」
大げさに誉める力也に星都もこれ見よがしに鼻を高くしている。
「それじゃあ休憩時間や放課後はばんばん聞き込みしていくからな」
「うん!」
こうして力也たちの聞き込みは始まった。
「すみません、ちょっと聞きたいことあるんだけどいいっすかね?」
星都の提案通り休憩時間はクラス内の親しい人に話しかけていく。もともと社交的な星都は物怖じせずどんどんと聞き込みを行っていった。
「あ、あの!」
反対に内気な力也は苦戦の連続だ。話したこともない見ず知らずの人に自分から話にいくのはかなりの抵抗がある。特に相手が女子ならなおさらだ。
「えっとー」
「あの、なんですか?」
「すみません、やっぱりなんでもないんだなあ!」
そう言ってせっかく声を掛けた女子生徒から逃げ出していく。
「はあー、けっこう大変なんだなあ」




