俺の願いは知っているな?
「分かるか、お前の願いでは人類は変わらない。いつまでも失い続け理不尽に苦しむだけだ」
この世界で今も起こり続ける理不尽。それにどれだけの人が犠牲になっているのか。秋和はそれを救うことこそを望む。
「お前のようにだ!」
目の前で親友を失った男が見出した、最後の希望なのだ。
善人が報われず、悪人は裁かれず。
努力は実らず、才能は認められず。
そして、死ぬべきではない人から死んでいく。
そんな理不尽が、この世界では横行している。どれだけ叫んでも変わらない。どれだけ苦しんでも救われない。
理不尽だ。ふざけた世界だ。この世界に神はおらず無秩序という名の地獄で人類は未来永劫苦しむことになる。
だから変えるのだ。この世界から謂われのない苦しみを消すために。
彼の言葉を駆は静かに聞いていた。熱のこもった彼の台詞。
だが駆は顔を振る。それは否定。次に秋和に手を向ける。それはあなただと、そう伝えるように。
「ふっ。それもあるかもな」
秋和は親に捨てられた。それだけでなく虐待されてきた過去がある。その親の下に生まれてきたというだけで壮絶な体験をしなくてはならなかった彼の境遇は、どれだけ理不尽で残酷なのだろう。
それこそ、彼が理不尽の犠牲者だ。だからこそ彼が理不尽を克服するのが相応しい。
「俺の願いは知っているな? お前も分かるはずだ、俺と同じ境遇を味わったお前なら。これからの人類を思え。その果てになにがある?」
これからの人類、その未来になにがあるか。技術はさらに発展し寿命は伸び便利な世の中になっていくだろう。
だが、どれだけ進展しても理不尽はなくならない。そんなもので世界は、人類は変わらない。
変えるなら絶対的な秩序が必要だ。神か悪魔か。そんな世界のあり方すら決めてしまうほどの力。
「駆。俺に賛同するのならデビルズ・ワンから手を引け。それだけでいい。あとは俺がやる。俺に任せておけばいい。お前は、なにもするな」
秋和からの勧めであり警告を受ける。これ以上はなにもするな、さもなくば戦うことになると。
彼からの勧告に、駆は静かに顔を横に振った。それを見て秋和も表情から熱が引いていく。
「やはり、顔を縦には振らないか」
要望は断られた。そのことに秋和も多少の寂しさを感じている。
「俺もまだまだだな。分かり切っていた現実にありもしない幻想を抱くか」
秋和としても本心としては駆と敵対したくはない。だから一応聞いてみた。もしかしたらに期待してみたかった。それは当然ながら裏切られ知っていた通りの答えが返ってくる。
ならば仕方がない。秋和の目に力強い意思が宿る。
「駆、お前は倒さなくてはならない。俺の理想のため、この世界の礎になってくれ」
そう言われ駆の目も険しくなる。
結局、こうなるしかないのか。目の前にいる秋和に向かって一歩を踏み出し大きく腕を振るう。
「お前は気に入らないみたいだな」
駆は戦う気はない。なにかきっと戦わなくても済む方法があるはずだ。
こんな簡単に、敵対できる関係なんかじゃないはずだ。
強い絆がある。誰にも負けないくらいの、仲間としての絆が。
だから戦いたくない。仲間と戦うなんて、仲間を失うなんて。自分が亡くなることと同じかそれ以上に辛いことなのに。
「駆」
そんな駆に、秋和は言う。
「お前は俺と別れたくかもしれないが、俺はすでに一度、お前と別れているんだよ」
その言葉に、駆の表情が悲しく歪む。
「お前の死で俺たちは大いに悲しんださ。それがどれだけ辛かったか、お前にも分かるだろ駆?」
分かる。駆も彼や彼女たちが亡くなればどれだけ悲しいか。それが痛いほど分かる。
「だが俺はそれを乗り越えてここにいる。その意味が分かるか?」
仲間との敵対。それに伴う喪失。秋和はその覚悟すらすでに出来ているのだ。その点で彼は駆よりも固い意志があると言える。本当に世界を変える気だ。たとえどれだけの代償を払おうと。
その気概は凄まじいものだがしかし元からこんな非情な選択ができる彼ではなかった。駆は何度も首を振り否定する。
「なぜ否定する?」
秋和の選択はやはり認められない。それは仲間を失うということもそう。それに自分たちだけじゃない、デビルズ・ワンでは大勢の人間の魂を捧げなくてはならない。
駆は両手を広げ、その後首を切るジェスチャーを取る。
「大勢の人間が亡くなるから、か? だとしても俺は行うさ。誰かがやらなくては世界はずっと変わらない。その中で無尽蔵に人が嘆くくらいなら。俺は人間をもぎ取り人類を救う!」




