表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
第四章 人類の果て
35/496

ハードライト

 俺もスパーダを構えた。ミリオットを手に持ち三本のスパーダが頭上に浮遊する。


 四つのスパーダ、あの時はいいようにやられたが今の俺には力がある。どれも強力だが余裕なんてない。肌を刺す危機感が痺れるほどだ。

 コートの端が風に小さく揺れる。未知の存在が一歩を踏み出した。

 白い男は両腕をわずかに広げ、両手に集中した光が像を成していく。


「選ばれし者、光の中に消えるがいい。グレゴリウスの再来など、あってはならない」


 それは光の剣。柄と刃しかない、すべてが光で編まれた直剣だった。


 男が構える。来る! 俺もミリオットを即発動、自身を強化する。力、スピード、耐久力。すべてが通常の数倍、これで押し負けることはない。ミリオットの強烈な光が全身を覆っている。


 同時男の全身からも光の粒子が漏れ始めていた。ミリオットの純白とは違い蛍光色を思わせる仄かな黄色。


 直後、それは光の残像となって突進してきた。振り下ろされる斬撃、それも連続でやってくる。残像とはいえ質量はある。それが次々と襲い掛かりそれをミリオットで迎え討ち、次に浮遊するエンデュラス、カリギュラ、グランで斬り捨てた。残像は霧散し最後に本体が突進し剣とミリオットをぶつけ合う。


「面白い戦い方だ」


 いわゆる鍔競り合いで力を押すも拮抗している。ミリオットの強化でも優位を取れないなんて。


 だが俺の剣は一本じゃない。浮遊する三本のスパーダを操り白い男の死角から攻撃する。


 それを察した男は後退した。凄まじいスピードで一瞬で離れてしまう。


 男は片手を上げると俺の足元一帯が光り出す。すぐにその場を離れると光の柱がいくつも上がってきた。さらに上空からも光の輪が現れそこから光の槍が雨のように襲い掛かってくる。


「グラン!」


 この数躱すには多すぎる! グランを片手で掴みさらなる能力を使用した。グランは力を司るスパーダ。それは重力を操るだけでなく段階が上がれば斥力だって操れる。


 俺は反発する力を用いて上空から降り注ぐ光槍を弾いていった。


「ミリオット!」


 グランで攻撃を凌ぎつつミリオットの光線を放つ。こっちだって遠距離攻撃は出来るんだ。逃がしはしない。


 だが白い男の前に突如光の壁が現れミリオットの攻撃は防がれた。固い。なら!

 俺はミリオットから手を放しグランを両手で握る。さきほどは反発する力を使ったが今度はその反対、引きつける力、引力を使い白い男を近寄らせる。光の壁も一緒に迫ってくるが関係ない、まとめて破壊してやる!


 俺はグランを掲げ、さらにエンデュラスの加速も合わせ突撃した。俺と白い男が交わるその一瞬、グランの大剣は光の壁ごと白い男を叩き切った。バリンという激しい音と共に壁はガラスのように砕け散り白い男の片腕が宙に飛ぶ。地面に落ちた腕は光の粒子となって消えていった。


 手応えあり。これなら男にもダメージを与えられる。


 しかし白い男に動揺は見られずその傷口からは出血もない。まるで人形の腕が取れたくらいの反応だ。


 次に傷口に光が集まっていき、それは腕を作り出していた。何事もなかったかのように完全な腕がくっついている。


 そんな、元に戻った?


 腕を作り直すと男は俺に指を向けてきた。それはさきほどの意趣返しか、指先から光線を放ってくる。


「エンデュラス!」


 それを加速して躱す。光線は俺の横を通り過ぎていくが、進路を曲げ再び狙ってきた。


(なに!?)


 光線に追いかけられる。それはジグザグに曲がり軌道が読めない。まるで操っているようだ。


 さらに光線は増えていく。二つ、三つ、五つ。十本。この空間を埋め尽くすように光の線は飛び回り、俺の周囲を覆うと距離を一気に詰めてきた。しまった、そう思うも遅く全身を拘束されてしまう。


「ぐ!」


 捕まった。顔以外はすべて光に覆われている。ミリオットで強化した体でもビクともしない。まずい。浮遊したスパーダで攻撃しても弾かれてしまうッ。


 ミリオットの光線を受け止めるほど固い光だ、普通の斬撃では歯が立たない。だがそれも弱体化すれば別のはず。浮遊する赤い魔剣、それが力を発揮する!


「カリギュラ!」


 噴出する赤いオーラが空間に残る光を浸食していく。それを維持するためのエネルギーを食い破り寿命をも掬い取る。それにより光は欠け始めミリオットで強化した体で拘束する光は砕けていった。


 自力で脱出し再度スパーダを構える。なんとか脱出できた。白い男を油断のない目で見るが、戦ってみてこの男の強さを実感する。


 こいつは、いったい。


 集中と緊張、強敵を前にした特有の痺れる感覚。すべてがこの男に向けられる。

 そうした意識がさきほど俺に混じった記憶を思い出させた、そこでのやり取りで確かこう言っていた。ハードライト、と。直訳すれば固い光だが、それが意味するのはおそらく。


「ハードライト……。まさか、質量を持った光子か?」


 そうだ。こいつは『触れる光を操っているんだ』。それを剣にしたり壁にしたり、それならこうして相手を拘束することも出来る。さらには自分の肉体もハードライトにしているんだ。だから高速で移動出来るし復元も可能。


 そうか! さきほど俺と交差した時、こいつは自分の体、光の結合を緩め粒子にしたからすり抜けたんだ。さらに記憶とは脳の電気信号、それを受け取ることで俺の記憶を盗み取った。ただ俺の脳もこいつの光、そこにある情報を受容したから記憶が混じったんだ。


 なんてやつだ。質量を持っている以上純粋な光速では動けないだろうが、それでも十分に強い。


 亜光速のスピード、距離を問わない多彩な攻撃。光子の結合による耐久性と欠損しても一瞬で復元する再生力。


 無敵か? どのステータスも高水準でバランスなんて完璧じゃないかッ。


 こいつの強さに納得する。だがまだ解せない。俺に混じった記憶の中でのやり取り。それはこの男と剣聖と謳われた魔卿騎士団団長グレゴリウスだった。この男はグレゴリウスと面識がある。さらに戦ったんだ。理由は分からないけれど、それでも両者は戦ったはず。話の流れからハードライトとその仲間、対してグレゴリウスたった一人で。


 考えが及ばなかった。セブンスソードのこと、自分の命や仲間の命、未来のことで頭がいっぱいでそこに疑問を持つ余裕なんてなかった。


 新たな団長創造の儀式、セブンスソード。その発端。


 ――そもそも、なぜ剣聖は死んだんだ?


「私の記憶を見たか。やはりこの技は軽々には使えないな」


 男、ハードライトが喋る。俺に向けられる戦意は変わらないが口を開いたことに今しかないと思った。


「俺の中に混じった記憶の中で、あんたは確かにグレゴリウスと面識があった。あんたは魔卿騎士団じゃないのか?」

「魔卿騎士団、か。懐かしい思いはある。だが今の私には関係ないことだ」

「どうしてグレゴリウスと戦ったんだ?」


 聞くと男は「ふん」と小さく笑ったような声を出しその両手に再び光の剣を作り出した。そしてゆっくりと俺の周りを歩き出す。それに合わせ俺もスパーダを構えたまま回っていく。その足が止まった。


「君が知る必要はないさ」

「そうかよ」


 ハードライトが両腕を広げる。全身から沸き立つ光の粒子、それは両側に広がると分身を作り出していった。右に五体、左に五体、合計十の光分身が襲い掛かってくる。


 最初よりも数が多い! 俺はミリオットとグランの二刀流、さらに浮遊したエンデュラスの時間操作も合わせて戦っていく。分身は言ってしまえばスカスカで一撃与えるだけで砕けていく。同時に攻められるがミリオットとグランの重撃で制圧した。


 光分身は危険だがそれでも前座、問題は本体だ! これこそ最大の警戒対象!


 本体であるハードライトは左手を翳しゆっくりと横に動かしていた。その跡にはいくつもの光の点がきらきらと輝いている。まるで天の川のような光の数々、しかしそれは凶星に他ならない。


 見た瞬間ぞわりと肌が立った。まずい、危機感が沸騰する!


 すぐさまエンデュラスを最大まで上げ加速する。まるで時間が止まったような世界、そこでミリオットで身体を強化しグランを盾にして構える。間に合え!


 ハードライトは正面に作り出した光弾を一斉に発射した。


 それは亜光速の銃弾。レールガンをも超える最速最強の攻撃だった。


 光の弾がグランの刀身に激突していく。その衝撃に両足がアスファルトを抉りながら後退していった!


「うおおおお!」


 勢いに押されそうになるのを踏ん張る。全身が潰されそうだ。


「はあ、はあ」


 あと少しでも遅れていれば俺の身体はバラバラに飛び散っていただろう。危なかったが、それでもこうして立っている。


 反撃だ、必ず勝つんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ