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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
342/496

それほどまでに、彼女の志は固い

 長老らしき悪魔から深々とお辞儀される。後ろにならぶ小人たちもそれに続けて頭を下げる。駆はもういいと顔を横に振るのだが何度も頭を下げるあたりよほど辛かったんだろう。


「それでさ、不死王軍なんだけど」


 そこでメトルが弱気な顔で言ってくる。


「あいつら、まだリンボで好き放題してるんだ。そこには逃げ遅れた他の仲間もいて。出来ればなんだけど」


 ここにいるのはあくまでリンボにいた一部だけでまだ残っている悪魔もいるのか。不死王軍の侵攻に怯えているはずだ、助けるなら早くした方がいい。


「もし行かれるのでしたら気をつけるオラ」


 そこで長老が慌てて話に入ってくる。気をつけるとはいったいなににだろうか。


「なぜならオラたちを襲ったのは他でもない」


 長老の顔が恐怖に歪む。その名を口にするのも恐ろしいように。彼の心と脳裏に恐怖と共に刻まれた名前を、彼は言う。


「不死王、千歌。彼女だオラ」


 不死王千歌。彼女こそがリンボを惨状に変えた張本人。


「待て」


 彼の発言にヲーが食いつく。


「不死王がリンボにいるのか?」

「そうだオラ、ここにいる全員不死王の攻撃を受けて逃げてきたオラ」

「マスター」


 ヲーが見てくる。


 駆はすでに覚悟を決めた顔をしていた。リンボに千歌がいる。


 ならばどうするかなど決まっている。


 今の話を聞いていた仲間たちも駆の考えが分かる。


「あとは頼んだぞ」

「はい」


 ヲーは部下に頼んだあと指輪に戻っていく。リトリィとポクも戻り駆はガイグンを見上げる。魔界へと続くポータルまで距離がある。


 駆はガイグンに乗りリンボを目指す。逸る思いを耐えてガイグンの体毛を握った。


 ようやく彼女と会える。


 その思いは途切れることなく駆はポータルを通じリンボへと戻ってきた。体育館から町へ向かう。地上の外観と魔界の赤い空が混じった歪な世界。


 未だに見慣れたとは思えない風景だがさらにここは変わっていた。


 風化していた建物は崩れ至る所で炎上している。黒の煙がいくつも上がり町が襲われたことを告げていた。


 駆は大通りを走る。すると正面に悪魔の隊列が見えてきた。


 人間の上半身に蛇の下半身を持つラミア、黒い翼と体の者、中には赤い帽子を被ったコロポックルたちの姿もある。


 その多くが下級悪魔ではあるがその表情はみな引き締まっており志気は高い。


 その中に赤いドレスの少女はいた。


「来たわね」


 千歌は背中が大きく開いたドレスを身につけており後ろ姿で立っている。その彼女が振り返り黒い髪がドレスを流れ眼鏡越しの視線が駆を捕まえる。


 駆はガイグンから降り道路の上に立つ。向こう側には道路を埋め尽くす悪魔の群と友人の姿。

 ようやく会えた。どれぐらいだろう、日数はそんなに経っていないはずなのにとても懐かしく思える。


 しかし、駆の胸にわき上がるのは再会の喜びではなく困惑と怒り、悲しみに似た寂しさだった。


 これまでずっと一緒にいたのに彼女のことが分からない。彼女は一花を殺した。それだけでなく多くの悪魔を襲っている。前まではそんな人ではなかったのに。


 駆の表情が複雑に歪む。


 そんな駆に千歌は正面を向け無感情に近い表情をしていた。敵として警戒しているのか、それとも再会に思うことはないのか。


 そこで、千歌が小さく笑った。


「久しぶりね、駆君。実際にはそこまで経ってはいないんだろうけれど、不思議とそう感じるわ」


 話しかける素振りは地上の頃と変わらない。駆の知っている彼女だ。落ち着いて、仲間思いで、思想について熱くなる時もあるけれど、駆の大事な友人の一人。


 だが、だからこそ分からない。これが彼女なのか? 罪のない者を無差別に襲い、殺し、そんなことをする人だったか?


「君がなにを言いたいのかは分かってる。駆君、すぐ表情に出るタイプだもんね」


 駆の考えを察した千歌が親しげに話す。けれどすぐに表情を引き締める。


「だけど、それは聞けない。私にはやることがある。そしてそのために必要なことはすべてやるわ」


 それは誰かを殺すことも厭わないということか。彼女は目的のためなら殺人も悪魔を殺すこともするつもりだ。


 それほどまでに、彼女の志は固い。


 今度は千歌が駆に質問する。

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