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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
第四章 人類の果て
34/86

託される剣(ねがい)

 日向ちゃんが着地する。カウンターとしてのタイミングは完璧だった。それを回避した敵も強い。


「ぐ」


 そこで日向ちゃんの表情にヒビが入る。見れば彼女の脇腹辺り、服が血で滲んでいた。だけど攻撃はちゃんと回避していたはず。それかここに来るまでの戦闘で負傷していたのか?


「ハッ! 手負いかよ!」


 それを敵も見逃さない。ピクシーは右手で拳銃を構えながら左手は黒いオーラに包まれる。


「デューク!」


 黒い霧が彼女の目を覆い、


「モロウ!」


 その隙に水色にオーラを変え新たな呪文は彼女の周りにいくつもの魔法陣を出現させた。そこから伸びてきた鎖が日向ちゃんの四肢を固定する。


「ちぃ! こんなのッ」

「無駄無駄。それは馬鹿力でも引き千切れねえよ、空間に固定してるからな」


 まずい、捕まった! 俺があの鎖を斬らないと!


「させん!」

「ちぃ!」


 邪魔すんな!


「終わりだ女ァ!」


 日向ちゃんは魔法で作られた水色の鎖で身動きを封じられている。あれではスパーダを振るうことも出来ない。無防備な彼女にピクシーが引き金に指を掛ける。


「は、馬鹿だろ」

「なに?」


 だけど日向ちゃんは笑っていた、その次にミリオットを消したのだ。

 次に出現させたのは目の前。剣先をピクシーに向け頭を大きく下げて、柄の底に頭突きした!


 悪魔の赤い光弾とミリオットは同時に放たれる。ミリオットは見事ピクシーに命中し腹を掠めそれは胴体の半分近くを切り裂いている。しかし日向ちゃんの胸も弾が貫通していった。


「日向ちゃん!」

「リトリィ!」


 まさに同士討ち。鎖は消え俺は倒れる日向ちゃんに駆け寄った。仰向けに倒れる彼女の左胸には大きな傷ができて、血が服をどんどん赤く染めていく。


「ごめん、聖治さん。やっちゃった。私」


 痛みに表情を引きつらせながら謝罪している。


「大丈夫だ。心配しなくていい」


 もう残された時間は少ない。それが分かる。そんな中で俺が彼女に掛ける言葉は決まっていた。


「俺が、変える」

「……うん」


 それが、彼女への最大の手向けになるから。


「全部うまくいったら……ハーゲンダッツおごってよね……」

「ふふ。分かった」


 そう言って彼女は瞼を閉じていった。不安のない満面の笑みを残して。

 彼女の体から現れる白と赤の光の球。それが俺の中へと入っていく。今、俺の中には四本のスパーダが収まった。


 ゆっくりと立ち上がり、俺は振り返って敵を見る。


「ガアアアアア! クッソがあああ! クソがクソがクソがクソがぁああああ!」

「リトリィ、動いちゃ駄目だヅラ。その傷はさすがにまずいヅラ、すぐ戻って休むヅラ!」

「うるせえ! こんな様でマスターの元に戻れるか、あいつの首がねえと示しがつかねえんだよ!」


 ピクシーもかなりの重体だ。下手したら体が千切れる。そんな傷を上回る怒りで浮上していった。左手にも拳銃を取り出して背後から巨大な二つの髑髏が口を開いて俺を見る。


「シネェエエエエ!」


 放たれるいくつもの銃弾。その一発だって油断ならない、人を殺すには過剰なほどの暴力だ。


 それを前にしていても、俺が考えているのはみんなのことだった。

 星都、力也。日向ちゃん、此方。みんな、ありがとう。


「なに?」


 その全ての弾丸は俺には届かない。現れる四つのスパーダが防いでは消えていく。俺を守る剣の壁が敵の攻撃を許さない。

 いくつもの弾丸を撃ち終えてピクシーの指は止まっていた。


 俺は前へ出る。スパーダが二本と四本では格が違う。俺は両手にミリオットとカリギュラを持ち、エンデュラスとグランを頭上で旋回させる。まるで天使の輪のように。俺が元いた世界では五本。今は全盛期一歩手前の状態。けれど主要なスパーダは全部揃っている。みんなの想いと力がここにある。不安なんてない。怖れなんてない。


 今の俺に、負ける気なんて、ない!


 その時四つのスパーダが連動するように光を発し周囲を威嚇した。

 それを見て察したんだろう。赤い悪魔が片手を上げた。その挙動に他の悪魔も構えを解いていく。


「ああ? なんだイッチ―、その手は。トイレに行きたかったら勝手に行けよ。邪魔すんな」


 しかしピクシーだけは別だ。怒りに染まった目が彼女を睨みつける。しかし背後から仮面男がピクシーを捕まえた。


「なにすんだ! 放せヲ―てめえ!」

「頭を冷やせ、撤退だリトリィ、愚痴は後でいくらでも聞いてやる」

「ふざけんじゃねえぞこのワニ野郎! このマラ臭せえ手をどけろ!」

「その差別発言も今は聞き逃してやる」

「てめえ、締めながら言ってんじゃねえぞ……!」

「行くぞポク」

「分ってるヅラ」


 赤い悪魔が黒い空間を作りそこに入っていく。ピクシーは最後までなにか叫んでいたが暗闇へと消えていった。最後に赤い悪魔が入っていく。


「……フッ」


 その際、今まで無感情だった顔が笑っていた。まるでいい獲物を見つけたと言わんばかりに。そして彼女も入っていき黒い空間は消えていった。ここに残されたのは俺だけだ。


 スパーダを消す。なんとか撃退できた。だけど止まっている場合じゃない。すぐにシンクロスを取りに行かないと。


 通学路だった道を走っていくにつれ校舎がだんだんと大きくなっていく。

 走る中で俺は思っていた。


 俺は多くの人の思いを受けてここにいる。仲間たちやこの時代を生きる多くの人々。全部の思いが一つになって、俺がいるんだ。


 胸の中で心が燃えている。みんなの思いが燃料となって決意が熱くなる。

 絶対に、この世界を変えてみせる!


 瞬間だった。


「危険だな」


 聞こえてきた声に足が止まる。見れば道の正面に光が集まっており、それはパッと広がると一人の人物になっていた。


 フードの付いた白のロングコート。全身が白で統一されフードを被っているため顔は見えない。そこだけが深淵のような影となっており顔を隠している。


「お前は、あの時の!」


 この背格好や気配は間違いない、二人の管理人を倒した後で俺を襲ってきたやつだ。

 白い男は俺に向かって歩いてくる。直後目前に現れさらに近づいてきた。


「なッ」


 けれどその体は当たらなかった。男の体は俺をすり抜ける。


 体が重なったその瞬間、頭の中に知らない場面が流れ込んできた。


『これからは君が魔卿騎士団の団長だ、頼んだぞ』『はい、ハードライト卿。謹んで拝命します』『それが真実だ。君なら分かるだろう、仲間になれ。人類にもう一度黄金の時代を作るんだ』『正気ですか? 理解出来ません、なぜあなたほどの方が。そんなものを理想とするなんて』『私はあなたと、あなた方と戦います』『君こそ正気か? 私たちと戦うだと?』『全員連れて来ればいい。私一人で十分だ』『残念だよ。グレゴリウス』『私もだ、ハードライト卿』

「うっ」


 瞬時流れてきた記憶に立ち眩みのような感覚になる。今のはいったい……?

 振り返れば白い男は俺の背後で立ち止まっていた。


「どうやら覚えていないというのは本当だったか。これもやつの采配か?」


 俺の記憶を知っている? まさか、今の交差で互いの記憶が混じったのか? いや、そんなことよりもこいつは何者なんだ? さっきの場面はいったい。

 頭が混乱してる。なにがなんだか。


「新たな魔卿騎士団団長の創造、そのための儀式、セブンスソード。わざわざホムンクルスまで用意するとは。だがその芽は摘んでおかなければならない。その刃が届くとも思えんが不安要素は排除すべきだ」


 途端膨れ上がるオーラの量。見えない光が男を包み押し付けてくるかのようだ。


 正体不明の人物。その男が戦闘態勢を取っていく。

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