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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
339/496

けれどここは魔界。好きに殺していいと言う

 高い、そこは天高く聳える中空に存在していた。窓はなく壁もない。あるのは外周に等間隔で置かれた柱と天井。暗い円形のフロアからは赤い空と雲が広がり、眼下には巨大な湖が広がっている。


 吹き抜ける風に煽られながら、秋和は黒の椅子に座っていた。白の制服にお揃いの帽子とマントを羽織り、静かにけれど厳かな表情で目をつぶり続ける。


 そこへ足音が鳴り響いた。重い。音だけで巨体だと分かるそれは彼の背後から近づいてきた。


「契約者、進展だ。不死王軍の部隊がやられたらしい。やったのは人間の召喚師。お前の知っている少年だ」


 知らせに秋和の目が開く。薄く開かれた瞳は下を向いている。


 自分の知っている少年が不死王軍を退けた。


 駆だ。自分が放った悪魔を倒し、さらには力を身につけ魔界へと現れたのだ。


「ついに第三の王が目覚めたようだ」


 秋和はその目を完全に開き前を見つめる。


「そのようだ。ようやく役者が揃ったというわけだ」


 その後立ち上がる。魔界特有の赤い空を見渡し、この地平に己の理想を思い描いて。


「これで俺たちの戦場は次のステージに移行する。俺の望んだ未来にまた一歩近づいたというわけだ」

「その割には喜んでいるようには見えんな、契約者よ」

「当然だ。約束された勝利に一喜一憂もない。そんなもの俺の世界には要らん」


 彼は秩序を望む未来王。これから先の出来事はすべて予定調和に組み込まれたものでなければならない。すでに予知されていることならば驚きも失望もあるものではない。


「すべては秩序の名の下に、か。お前の欲望もよくそこまで育ったものよ」

「この思いをどう呼ぼうが好きにしろ。俺はただ、俺の理想を貫く。この考えを神の法則として実現させるだけだ」

「分かっているさ未来王。この儀式、勝つのは我々だ」


 勝利。それは偶然の産物でもたぐり寄せる努力の結晶でもない。すでに決まったレールにある終着駅だ。故に期待もなければ恐れもない。


 それでも胸にわき上がるこの熱はまだ自分が人間故の未熟さからなのか。


 自身が召喚した悪魔であり相棒の一言に秋和は口元を僅かに持ち上げた。


「当然だ」



 真実は明かされた。


 罪を突きつけられた。


 彼女は誘う、さらなる道を。


 それをいけないことだと思うけど、ここは魔界、善悪の境界はズレていく。


 この業は罪なのか、悪なのか。


 自分はどんな世界を望むのか。


 王の部屋。駆は大きなベッドで目を覚ます。覚醒する意識とは反対に気分は暗い水底から浮上せずにいる。


 昨日、シュリーゼから言われた言葉からまだ抜け出せない。自分が今までしてきたこと。それは誰にも知られたくない最悪の汚点だった。それを明かされたのだ、ふさぎ込みたくもなる。


 それが悪いことは分かってる。だけど我慢することが出来なかった弱い自分。


 左腕を持ち上げる。包帯が巻いてあるそれの裏側には自分がしてきた罪と罰の痕跡が刻まれている。それをずっと忌避してきたのに。


 シュリーゼはこの罪を明かすと共に解き放とうとしている。殺戮王。この業を罪ではなく素質だと。


 この罪が、許されるなんてことがあるのだろうか?


 考えたこともなかった考えが頭を過ぎる。人を殺してもいいですよ、なんて絶対に許されないことで当たり前のことなのに。


 けれどここは魔界。好きに殺していいと言う。


 駆は左腕をベッドに叩きつける。


 違う。甘い誘惑を断ち切る。こんなのは悪魔の甘言だ。


 いいわけがない。許されるはずがない。自分に強く言いつける。そんなのは、絶対によくないことだと。自分は人間だ、悪魔じゃない。


 ぎゅっと瞑っていた瞳をゆっくり開ける。このまま自室に閉じこもっていたい気分だがそういうわけにもいかない。ここは千歌に目を付けられている。またいつ襲われるか分からない。


 駆は部屋を出た。


 お腹は減っていないので玉座の間に向かう。正直にいうとみなの顔を見るのは抵抗がある。昨日自分のことを知ったことで嫌われるのはないか、変な目で見られるのではないか。表に出さなくても胸の中で思っているかもしれない。これが憂鬱な気持ちのまま廊下を進み玉座の間への扉をくぐる。


 玉座の間は全体的に薄い黒色で統一されており奥の壁には扇状に広がった階段、その最上段に王の椅子が設置されている。二階もあり吹き抜けの天井なため広く感じる。壁際にはリザードの兵隊が立ち並び警備をしている。その目が入室した駆を見つけ背筋を整える。


 玉座には他の仲間たちもいた。ガイグンだけ姿がないが仕事に従事しているんだろう。


 駆はみなに向け遠慮がちに目礼する。自分をどう思っているのか。これが人間なら絶対に終わった状況だ。


 不安に胸が重い。

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