でだ、食事も堪能したことだ、本題に入ろう
駆は視線を泳がせる。言われてみればそういうのはしたことがない。
「止めろリトリィ、マスターが困っているだろう」
「そうだズラ」
「だって~!」
リトリィが椅子の上でじたばたしている。
「……!」
なにかないか悩む駆だがそこで思い出した。急いでポケットに手を入れそこにあったものをリトリィに差し出す。
「なにこれ?」
差し出したもの。それはよく苺にあげていたガムだ。グレープ味。
初めて見るガムにリトリィは怪訝そうだが駆はクイっと持ち上げて再度前に出す。それでリトリィは一つを取ると銀紙を外す。
「なにこれ?」
板状の練り物を見る様はガラクタを見るそれだ。駆は見本を見せるため自分もガムを口に入れてみる。それで渋々リトリィもガムを食べてみた。彼女には大きすぎるため大口でかぶりつく。
「んん!」
瞬間、彼女の顔がパッと晴れる。
「甘い!」
最初はあれほどいぶかしんでいたのに今では夢中で噛んでいる。
「マスター、オイラもオイラも!」
駆はポクにも渡してあげる。
「うん! 珍しい触感だけどおいしいズラ!」
市販されているガムがクリスマスプレゼントのように喜ばれている。
「マスター、その、私も……」
リトリィとポクが大はしゃぎしているのを静観していたヲーだったが我慢できずいそいそと近寄ってくる。もちろん快くガムを渡してあげる。
「かたじけない……!」
ヲーはそれを受け取ると皆に背を向け仮面をずらす。ガムを口に放り込んだ。
「んん! これは、実にいいものだ!」
駆からはその表情は見えないがどうやら満足してもらえたようだ。地上のお菓子が気に入ってもらえたようで駆も嬉しくどこか誇らしい気持ちになる。
「なによマスター、こんなにいいもの持ってるならもっと早くにちょうだいよね」
そう言われても悪魔が砂糖好きなど今知ったところだ。苦笑いが漏れる。
「携帯性に優れているのも無視できんな。兵糧としても優秀だ。地上にはこのようなものがあるのか」
そういう発想はヲーらしい。兵糧ではないがそうしたお菓子もあるにはあるので魔界ではガムが流行るかもしれない。
「あれ、味がない」
最初に食べたリトリィが不思議そうに眉を顰めている。どうやら甘味は打ち止めだ。駆も味がなくなったので銀紙に吐き出し丸める。
「え、出しちゃうの?」
頷く。ガムとはそういうものだ。
「ああ、オイラも終わっちゃったズラ」
「ふむ、仕舞いか」
ポクとヲーもガムを吐き出している。楽しい時間はこれでおしまいだ。
だがリトリィだけはまだ残りがあるので小さい口を広げ残りにかぶりついている。
「んんー、お前は小さいからたくさん食べれてずるいズラ」
「ふあっはっはっは! 私は悪魔一倍堪能できるのだ!」
「ぬう~」
「しかし考えれば考えるほど不思議な食べ物だったな。いや、食べ物と呼んでいいかも私には定かではないが。味がしなくなるまで咀嚼するものとは。逆に言えば味さえすれば永遠と噛んでいられるということか?」
「味ズラか。たとえば味を出す成分に自己再生や自己増殖機能を持たせることができれば噛む度に味が修復されて、それこそ永遠に味わえるズラ」
「可能か?」
「魔界の植物にはすぐに再生するものがあるズラけど、でも持続性はないし。いや、それなら生命力のある魔獣の成分を使えば。でも、いや、うーむズラ」
なにやらポクが頭をひねっては声を唸らせている。新しいアイディアが彼の創作意欲を刺激しているようだ。いつの日か人間と悪魔のハイブリッドお菓子が出来るかもしれない。
「いろいろ新しい出会いがあってなによりだ。おいしかったよポク、ありがとう。マスターも」
ヲーの会釈に駆も小さく頭を下げる。
「でだ、食事も堪能したことだ、本題に入ろう」
ヲーが場の雰囲気を引き締める。いつまでも浮かれてはいらない。お祝いはこれまで、これからは真剣な話だ。
「あれから部下にいろいろ調べてもらい情報が届いた」
「今までは孤立状態だったからね。それで、外の様子はどうだったの?」
「うむ」




