殺戮王親衛隊
すると三頭の犬がまたも暴れ出し、さらに柱を壊し始めた。生き埋めにするつもりか! やつらは黒い空間に逃げ込めばいいからまずいぞ! 隊員たちも銃で応戦するが利いていない。
「させるかあ!」
星都が犬へと迫る。エンデュラスの速度では誰も止められない。
「デューク!」
ピクシーが再び目眩ましの呪文を唱える。だが星都は止まらなかった。犬は見た。ならそこを目指し攻撃するまで。目が見えなくても星都は記憶を頼りに犬へと攻撃していく。
「ぐうう!」
犬が再び吹き飛ばされる。あれほどの巨体が転がり壁へと激突している。星都は目を開き追撃せんとさらに剣を構え、それを三つの頭が見た。
「グオオオオ!」
三頭の叫びがこの場を襲う。それは地下で反響し肌を刺すほどの音量だ。だがそれだけじゃない。
「ぬ!」
星都が持つグランがいきなり落ち地面がひび割れたのだ。重力の影響を受けないグランなら地面に落ちるなんてことないはずなのに。
今の雄叫び。あれのせいで能力が消えたのか? 狼の叫びは魔を払うというがあの三頭の犬は異能をかき消せるのか。
「御免!」
能力が打ち消された隙に仮面の男が星都を突く。星都はなんとか体を反らすが先端が腕を掠め仮面の男はそのままの勢いで星都を横切っていった。
犬の叫びは止まっている。吠えている間異能を打ち消すのならこれで再び使えるはず。
だが、グランは地面にめり込んだままだった。
「封魔の槍で突いた。その傷が癒えるまで能力は使えん」
そんな。それじゃスパーダが使えない!
悪魔は依然五体。これじゃあとても。
星都はグランを下ろしたまま立ち尽くしている。せっかくのスパーダも能力を封じられればただの剣同然だ。
「終わりだ、人間」
三頭の犬が言ってくる。唯一対等に戦えるのが星都だったのにその能力が使えなくなってはもうお終いだ。
「ハッ、終わりだって?」
なのに、笑っていた。
「分かってねえな、お前等はなにも分かっていない」
エンデュラスを持ち上げる。能力は使えないはずだがそれでも諦めていない。星都はエンデュラスの剣先を悪魔に向ける。
「人間の強さは剣でもなければ銃でもない」
絶望的な状況だとしても、それがどんなに困難でも前に向かって進んでいける。
「強がり言っちゃって~。手ぶらの人間なんて雑魚キャラじゃーん」
「ヤジは止めるズラー」
「いや、そいつの言うとおりだ。裸のイヴンなど取るに足らん。なにもないから作り出す連中だ」
「不憫だな、頭が三つあっても馬鹿は馬鹿かよ」
「なに?」
こんな状況でなにを言っても虚勢にしか見えないかもしれない。相手もそれが分かっているからすぐには殺さない。勝負はすでについたと思っているんだ。
だけど俺には分かる。星都は虚勢で言っているんじゃない。
信じているんだ。希望を。
俺のことを。
「いいか、人間の強さっていうのはな」
その星都が声を張る。敵対する悪魔たちに向けて。背後にいる仲間にも聞こえるように。
星都は、エンデュラスを自分に向けた。
「いかん!」
それを見て仮面の男が動く。
「諦めない、意思があることだ! お前らはそれを見誤った」
槍が星都に迫る。
星都はエンデュラスの刀身を腕に当て、そして、槍の患部ごと切り落とした。腕が肩から離れ地面に落ちていく。血がいきおいよく噴き出し星都の口から苦悶の声が上がった。その間、槍の矛先があと一センチの距離まで迫る。だが、
「おせえ」
瞬間、仮面の片腕が宙を飛んだ。
「ぐおおお!」
仮面の男が膝をつく。
直後犬が吠えた。それにより異能が発動できなくなるが仲間たちが銃撃を加え牽制していく。
犬もいつまでも吠えられるわけじゃない。合間を縫うように星都はエンデュラスでこの場を疾走し、敵の攻撃から仲間を守り、それでいて仮面の悪魔と切り結ぶ。その度に血を流し、それでも止まらない。
「うおおおお!」
「星都……」
その姿に、俺は涙を浮かべていた。必死に戦っている友達に、胸がいっぱいになる。
「ぐッ」
だが左腕の激痛に星都の足が止まった。
「もらったぁああ!」
ピクシーが髑髏の口が銃口になっている拳銃を取り出した。彼女専用なので小さい銃だがその半身はピンク色の魔法陣により先がなく、代わりに彼女の背後に数倍もの魔法陣が現れそこから巨大化した銃口が現れていた。髑髏の口が星都に向かい銃弾を叩きこんでいく。
「星都ぉおおお!」
「ビビビビ、ビンゴー! ドブネズミの親玉を倒したのは私だってマスターに報告しちゃおっと」
そんな。左腕だけでも致命的だったのに、あの怪我じゃ、もう。
だけど、あいつは諦めていなかった。
「相棒!」
最後の力をふり絞り、星都が扉の前にやってくる。その表情は深刻そうで、だけど絶望なんてしていない。
扉を開け星都を入れようとする。だが星都はその扉を閉めた。
「お前はここから逃げろ。悪いが俺はもう駄目だ。お前だけでシンクロスを取りにいけ」
「そんな」
駄目なんて言うなよ。未来を変えるのは大切だけど、この時代のお前にだって生きて欲しいよ!
「聞け、聖治」
息切れぎれの声で話す背後では銃声が鳴り響いている。あの場にいる全員が援護して俺たちは話している。
「お前は過去に戻れ、あの日に戻るんだよ。そして、この世界を変えるんだッ」
星都はさきほど言ってくれた、俺こそが希望だと。
「やってやろうじゃねえか、こんな時代ぶち壊してやろうぜ。今度こそ、俺たち六人で」
言葉に込められた想いが、胸に突き刺さる。
「すべてのスパーダを集結させるんだ。残りはあと一つだ」
残り一つ。足りないスパーダと言えば決まっている。
「……天黒魔」
最後のスパーダにしてロストスパーダ。
魔堂魔来名。最初の世界で俺たちを倒したあの男だ。この時代にはスパーダが足りず悪魔たちの侵攻に押されてしまった。
けれどみんなで魔来名を倒して、天黒魔を持っていたら? みんなで協力すればこんな世界だって変えられるかもしれない。ううん、変えるんだ。絶対に!
そのためにも。
「行け、シンクロスは俺たちの居場所にある……これは、預けるぜ」
「星都! 星都ぉお!」
隔たれた一枚の鉄扉が遠い。目の前にいるのに声しか届かない。
俺を助けてくれた友人は、俺に希望を託して死のうとしている。
扉越しに犬の雄叫びや爆音だけが伝わってきた。そこに星都がいるのに、せっかく会えたのに、もう姿を見ることもできない。
あいつは、この時代で出会えた唯一の友達だったのに。
「信じてるぜ、相棒」
そう言って星都の体がずれ落ちていく。直後、水色と緑色の光が扉を通過して俺の体の中に入ってきた。
「星都ぉおおお!」
苦しいほどに悲しい。この扉を開けて本当はその体を抱きしめたい。
だけどその気持ちをぐっと堪え反転した。中にいる人が隠し通路を指で指す。俺は頷き隠された穴を通っていく。その時通信士の人が口を開いた。
「世界をお願いします! それが、我々の意思です!」
「……はいッ」
暗く狭い通路に足音が響く。そこに混じって俺の泣き声が聞こえてきた。
「う、うう」
涙が溢れて手で拭いていく。それでも泣きやまず顔が下を向いてうまく走れない。
星都は俺を希望と呼んでくれたが、今のお前を救えないならなんの意味があるんだよ!
悔しい。思いが胸で暴れてる。だけどこの足を止めちゃ駄目なんだ。
今一度強く目を擦る。熱がまだ残っていたが顔を上げ正面を向いた。
星都に託された希望を叶えるために。あの通信士の必死な顔も思い出す。彼らだけじゃない、あの場所にいたすべての人の思いが俺に掛かっている。だからシンクロスを取りに行かなくちゃいけないんだ。場所なら分かる。俺たちの居場所。そんなの決まってる!
学校だ。俺たちの日常。楽しかったあの時間こそが俺たちの居場所なんだから!
走り続けると突き当たりに扉があり町の外へ出る。荒れ果てた町並みが広がるがここがどこだかは面影で分かった。
俺は走っている。星都の意思をバトン代わりにして引き受けて。
止まっちゃ駄目だ。進んで、進んで、絶対にたどり着いてやるんだ!
必死に走り続けていくうちに見慣れた道になってきた。さらに校舎も見えてくる。もう少しだ。
「そこまでにしてもらおうか」
「な」
なのに、止めないと決めていた足が止まった。
俺の先にはあの仮面の男が立ち片腕を失ってはいるものの残りの手で槍を持ち俺に狙いをつけていた。
「どうしてここが」
「熱には敏感でね」
は虫類みたいな見た目をしているが蛇と同じピット器官でもあるのだろうか?
「なにやら人類がきな臭い動きをしていると報告を受けていたが君がそうとはな。どれだけ大層なことができるかは預かり知らぬが、ここで果てればどの道同じこと」
仮面の奥にある瞳がするどくなったのを感じる。槍の先がにぶく光る。
「剣を出せ。あの男から受け取ったものがあるだろう」
こうなっては仕方がない。俺はさきほど得た二つのスパーダを念じる。
「早速だけど借りるぜ、星都。力也もな」
光帝剣エンデュラスと鉄塊王グラン。友が引き継ぎ、そして託された力。これで目の前の敵を倒しシンクロスを取りに行く。もたもたしていれば他の悪魔も駆けつけてくる!
「では、勝負!」
仮面の男が跳躍する。速い。だが俺も負けていない。水色の剣、エンデュラスの針が回り出す、その時だった。
「ミリオットォオ!」
白い光が空間を貫いた。




