興味深い話をしていますね
「死王ネクシーとはかつて存在した魔王だ。彼も古代から存在するユニバース時代の悪魔だ。ユニバースの頃は悪魔にとって過酷かつ悲惨な時代だった。その時の体験からネクシーは不死の探求に勤しんだのだ」
ガイグンが説明してくれる。話についていけない駆に気を使ってくれている。
「結論から言えばネクシーは不死にはなれなかった。しかし、彼は唯一の呪文を会得したのだ。それがデスザ。即死系呪文の中でも上級とされる、歴史上彼しか扱えない呪文だ」
即死系の上級呪文。文面だけでもそのすごさが伝わってくる。
「そういえばマスターに呪文の系統て説明したことあったっけ?」
顔を横に振る。たまに言葉では聞いていたが理解まではしていない。
リトリィは顔の前に来ると指を立て鼻を高くしている。
呪文の系統。それを説明してくれた。
「悪魔が使う呪文っていうのは、炎系のファイ、氷系のアイ、雷系のサン、風系のエアが基本なの。もちろん他にも特殊なのがあるけどね、基本はこれ。そしてそこからさらに下級、中級、上級ってわかれてて、中級だとそれぞれファイア、アイス、サンダー、エアー、ってなるの」
なるほど。駆は頷く。
「上級になると最後がザになってね、ファイザ、アイザ、サンザ、エアザってなるの。だからザ系とも言われるわね。最後にザル系と呼ばれる最上級もあるんだけど、まあこれは見ることはないはね」
ん? 駆は小首を傾げる。
「最上級呪文なんて魔王クラスでも扱えるのは稀だもの。今までの階級では単純に威力が上がっていくだけだったんだけど、ザル系は空間呪文なの。たとえばファイザルなら周辺の空間が炎と熱の空間に変化する。アイザルなら氷と冷気の空間っていう具合にね」
空間そのものを系統の属性に変化させるというのはすごい。まさに最上級に相応しい力だ。
「でもそんなの無理無理。歴代でも使えた悪魔は数えるほどしかいないんだから」
悪魔といえどなんでも出来るというわけではない。それほどザル系の呪文は扱いが難しいということらしい。
「で、話を戻すけど死王ネクシーはただでさえ扱いの難しい即死系呪文デス、それの上級呪文を扱えた唯一の悪魔なの。後にも先にもこの呪文が使えたのはネクシーだけね」
ネクシーの話に戻る。彼はその呪文の上級を扱えたのか。さらに唯一というのもすごいことだ。
「ちなみにデスに下級呪文は存在しないズラ。だからデスから始まるズラ」
即死という特徴から威力に差はないから当然なのかもしれない。
「デスでも対象の命を奪うことは出来るんだけど成功率が低いのよ。だから無駄打ちが多くて実践的じゃないし、それなら普通に戦った方が強いよねってことで廃れたの。それにネクシーが登場するまで上級呪文が存在することも分からなかったし」
決まれば殺せるが不発の多い銃など戦争では使い物にならない。それなら素直に信頼性のある銃を使う。そういうことでデスが実際に使われることはなかった。
「でもデスザは違う。デスザは発動さえすれば相手を確実に殺せたの」
しかしその前提が崩れたら。撃てば確殺。狙いもいらないとなれば人間同士の戦いでも有用だ。特に人間よりも頑丈な悪魔同士の戦いなら一撃で勝負が付く即死攻撃はとても強力だっただろう。
「デスの上級呪文であるデスザの発見、それを使用することでネクシーは魔王になったってさ。さらにネクシーは死体を操る力もあって死の軍勢を率いて巨大な王国を築いた。周辺諸国を襲撃しては住民を殺害し、その死体を操る。軍勢はさらに増えて死王ネクシーはその時代で最も勢いのある魔王となった」
話を聞くだけでも凄まじさが分かる。なによりデスザと死体を操る力のシナジーが強い。戦えば戦うほど数が雪だるま式に増えていく。一度回り始めれば止められない。
そんなネクシーはどのようにして終わりを迎えたのか。
「けれど猛威を振るったネクシーも最後まで不死にはなれなかった。死王ネクシーを危険視したいくつもの魔王の連合軍によって死王ネクシーは倒されたのよ。デスザは強力だけど一体しか殺せないからね。だから連合軍を作って物量で攻めたのよ。ネクシーは対処が間に合わず伝説は幕を下ろした。ちゃんちゃんと。ま、オチとしてネクシーは実は不死の呪文を見つけていて実はまだ生きているかもしれない、って続くんだけどね」
死王ネクシーの伝説を語り終えリトリィは満足そうだ。駆も聞いていて楽しかった。
「興味深い話をしていますね」
そこへフンヌが戻ってきた。
「懐かしい名を今日はよく耳にします」
「ネクシーまで知っているのか?」
「さすがに会ったことはありませんが。ですが当時の様子は覚えていますよ。デスザを使う初めての悪魔ということで皆動揺していました」
「だろうな」
そんなものに襲われるかもしれないと思えば恐怖するのは当然だ。
「ですがそんな彼も亡くなりました。これを。お約束のものです」
駆はフンヌから二つの木の実を受け取った。見た目はクルミに似ており茶色い固い殻に覆われている。
「クツイスの実です。今はそれだけしかありませんでした」
駆は彼女を見上げ頷く。それからポクへと手渡した。ポクは大事に受け取り緊張した面もちだ。
「これだけしかない、クツイスの実……」
責任は重大だ。数に限りがあるという制限がさらに重くしている。




