ザ系なんて高等呪文じゃない、そんなの簡単に撃ってこないでよ~
アスタロトが体の位置を上げていく。まるで威嚇するキングコブラのようだ。戦闘体勢となり両手を広げる。
「異議があるなら力を示せ人の子よ。それが魔界のしきたりよ」
駆や仲間たちもなんとか体を持ち上げる。こうなってはやるしかない。
戦闘開始。魔王アスタロトが襲いかかってきた。
駆は立ち上がりアスタロトを見上げる。
しかし、意識がぐらりと揺れる。臭いが酷すぎて立つのも出来ない。
魔王アスタロトの体臭のせいで駆は戦闘不能、仲間のステータスは低下。バッドコンディションだ。
これでは戦いどころではない。
「ちょっとマスター、しっかりしてよ」
リトリィが傍に来て励ましてくれるが頭も体もふらふらだ。四つん這いで耐えているがそれも困難になりつつある。
それは駆だけでなく他の仲間たちも同じだ。駆ほどではないがこの臭いに体には力が入らず弱体化している。
「ここは撤退だ!」
ヲーが叫ぶ。こんな調子で戦っても負けるだけだ。なによりマスターである駆が危険過ぎる。ヲーの指示にリトリィは頷きアスタロトに指を向ける。
「デューク!」
目くらましの呪文を唱える。まずは視界を奪ってその隙に脱出だ。
「フン」
「利いてない!?」
「そんな下級呪文が私に利くか」
「異能耐性だ!」
異能を受け付けない耐性。そのせいでデュークが弾かれている。
「アイザ」
アスタロトが片手を上げ呪文を唱える。直後彼の背後にいくつもの氷の塊が現れた。先端が尖ったそれが一斉に向かってくる。
「ファイ!」
対抗してリトリィも火の玉を出すもかき消されてしまう。属性では有利を取っているはずだが威力が違い過ぎる。
「させはせん!」
駆の前にガイグンが駆けつけ迫る氷塊を前足で払い残りを体で受ける。ポクに向かったアイザはヲーが槍で防いだ。
「ザ系なんて高等呪文じゃない、そんなの簡単に撃ってこないでよ~」
「さすがは魔王か」
下級悪魔であるピクシーでは下級呪文を出すので精一杯だ。それに比べアスタロトは苦もなくアイザを出してきた。
強い。体臭という全体デバフだけで魔王は務まらない。そもそもの実力もその他悪魔とは桁違いだ。
「まさかと思うが私に勝てるとでも思ったか? お前たちなど勇者アスタロトが戦ってきた無数にある敵の一つでしかない。我が功績の一部となるがいい」
これが魔王の力、そしてアスタロトの強さだ。
魔王という立場にも関わらず配下も軍隊も持たないなど危険なように思えるが彼は別だ。この臭いなら猫の手を借りた程度の大軍が攻めてきたところで意味がない。機能しないからだ。
寝ても起きても食事をしていても体臭は途切れない。ある意味優秀だ。体臭も極めれば防御システムになる。
アスタロトの強大さに全員が全滅の危機を感じていた。肝心の駆に関しては完全にうつ伏せになり倒れている。呼吸はあるがもう意識はほとんど残っていない。
このままでは、負ける。
「これでもくらうズラ!」
そこでポクが蓋の空いた瓶をアスタロトに投げかける。紫の液体がアスタロトの体を伝っていく。
「これは?」
「異能耐性を下げるダウの霊薬だズラ。呪文じゃないから異能耐性でも防げないズラ」
「でかしたコロポックル!」
すぐさにリトリィが再度デュークを発動する。アスタロトの両目に黒い靄がかかり視界を奪う。
「よし!」
「今のうちに」
「分かっているわ!」
ガイグンは駆を咥える。ヲーは背中に飛び移りリトリィはそのまま空を飛ぶ。ポクはなんとかガイグンの尻尾に掴まった。
「出るぞ!」
ガイグンは走り城が出て行く。中庭を走り門に向かっていく。尻尾に掴まっているポクは悲鳴を上げ鯉のぼりのように揺れている。振り落とされないように必死にしがみついている。
そのまま走り続け門が見えてくるが扉は閉まっている。
「こらポク! グレートの霊薬早く!」
「この状態で出せるわけないだろズラ!」
「いいから出せほら!」




