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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
305/496

マスターがそうしたいならするズラけど

 この大事な時に、そんな足止めを食らっている余裕なんて一秒もないというのに。ここにいるなにかは自分の邪魔をするのか。


『ねえ、マスター?』


 拳に力が入る。怒りが湧き上がる。


 あの夢で、一花が浮かべた顔と亡者たちの群れが目に浮かぶ。あんな惨劇をさせるわけにはいかない。あんな目に遭わせるわけにはいかない。


 絶対に、救い出すんだ!


 駆はポクを見る。


『マスター? どうしたズラ』


 見上げるポクを見下ろし顎で森を差す。


『えーと』


 伝わっていないので駆はグーを作り、その後爆発したように手を開く。


『まさか、この森焼き払おうっていうの?』


 それを察したリトリィが答えをずばり言ってくれる。


 駆は頷きポクを見る。


『待ってくれマスター、ここで火を放てば私たちも最悪巻き込まれるぞ?』


 ヲーが警告するがどの道方法はこれしかない。手をこまねいている間にも一花の危険は進んでいくだけだ。


 するなら早い方が良い。


 駆は頷いた。


『わ、分かったヅラ』


 駆に促されポクが火炎瓶を取り出す。それを投げ込み火を放った。火はみるみると広がり森を燃やしていく。さらには駆は手当たり次第に木を殴り伐採していく。目印を付けた木をへし折り倒れてくるのを反射のマントで跳ね返す。ポクはさらに瓶を投げては延焼を続ける。


 森を破壊する。邪魔だと言わんばかりに。邪魔するものは殺すと示すように。この森だけじゃない。この森に住むものすべてだ。住み着く悪魔、捕食植物、知ったことではない。


 すべて殺して道を拓く!


 いつしか辺り一面火の海と化していた。その中央に駆は立つ。この炎の中で、すべてを飲み込む死の中で。殺戮の中心で。


 駆は、笑っていた。


 この光景に興奮が胸から湧き上がる。さらには左腕に違和感を感じ持ち上げる。なにか得体の知れない力が膨れていく感覚。包帯を巻いた左腕を掲げ、そこからまばゆい光が放たれた。


「ぐ、がああ!」


 力が暴発する。光は周囲を覆っていた。この光に駆も目を逸らす。


 その後左腕の違和感はなくなりゆっくりと目を開けてみる。そこには焼け跡となった森の中薄い緑色をした女性が倒れていた。幽霊か妖精のようで半透明な体で長い髪も透けている。


 この悪魔がこの幻覚の原因に違いない。駆は近より彼女の首を掴んで持ち上げる。見ればまだ息はある。瀕死の状態ではあるが苦しそうにか細い息を吐いていた。


 その顔面に向け駆は空いた手で殴りつける。一発、二発。さらに三発。彼女の顔を殴打する度にうめき声が黒く灰となった森に響く。


 駆は四度目の拳を振り上げる。だが、その腕を掴まれた。


「ちょっとちょっと、どうしたのよマスター」


 視界にリトリィが回り込む。振り返れば背後にはヲーが立っており腕を掴んでいる。


「マスター、もういいだろう。幻覚は解けた。これ以上は無用だ」


 駆は掴んでいる女の妖精を見る。抵抗の意思はなくそれどころか死にかけだ。ヲーが止めていなければ本当に死んでいたかもしれない。


 駆は彼女を放すとゆっくりと立ち上がった。熱に浮かされたような興奮も落ち着いていき地面に倒れる彼女を見下ろす。


「それで彼女だけどどうするズラ」


 ポクが聞いてくる。彼女こそこの迷いの森を形作っていた張本人だがこのまま放っておけば死にそうだ。彼女の自業自得と言えばそれまでだがここまで追い込んだのは他ならぬ自分に責任がある。なぜこんなにも暴力的になってしまったのか今思うと分からない。


 駆は悩む。だが目の前で苦しむ彼女の姿に意を決めた。


「マスター、もしかしてだけど」


 なにやらリトリィが察したようだがその通りだ。


 駆はポクに視線を移すと彼女に手を向ける。今の彼女にしてあげられることは一つだけだ。さきほど作った回復薬、それで彼女を治す。


「いいズラか!?」


 ポクが聞き返すが駆は頷く。自分で半殺しにしておきながら治療するなど馬鹿げた話だが仕方が無い。


「マスターがそうしたいならするズラけど」


 ポクとしても完全に納得しているわけではないようだが回復薬を取り出した。瓶には緑色の液体が入っておりそれを彼女に振りかける。揮発していく蒸気はキラキラと光を反射して立ち上がっていく。液体は完全に消えてなくなり彼女の表情からも痛みが消えたのが分かる。


 彼女は目を開けるとそのまま浮かび上がり駆たちよりも少しだけ頭上で立ち止まった。


「旅人よ、なぜ助けたのですか?」


 一番分からないのは彼女の方だろう。殺されかけたのはともかくなぜそこから助けられたのか。警戒してか彼女の表情も固い。


「確認しておきたいがあなたが私たちを惑わせていたのか?」


 ヲーの問いに間ができる。しかし黙っていても逆効果だ、彼女が重い口を開く。


「はい。私はフンヌ。この森に住み来る者を惑わしては森の糧としていました」

「フンヌといえば森の妖精だズラ」

「なるほど、それが迷いの森の全容か」

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