美しい花には棘があるとは言うが、これは些か強すぎるな
リトリィが呼び止めるがポクは止まらない。それで数メートル先の場所で立ち止まると屈んでいる。駆も何事かと近づいた。
ポクの隣に立ち彼の視線の先を見る。そこには赤い実を付けた植物が生えていた。ポクの手には図鑑が開かれそこに載っている図と説明欄を見比べている。
「間違いないズラ。コクリの実だズラ」
『それなんか意味あんの?』
「大ありだズラ! これを配合すれば力の霊薬の効果をさらに上げられるズラ。リンボじゃ生えない魔界の植物だけどまさか見つかるとは。魔界に来てよかったズラ~」
一見ただの雑草だがポクのバフ効果をさらに上げてくれるものらしい。ポクは感激しながら大事そうにその実をポケットにしまっている。それを見て駆も満足そうに頷く。ポクは駆を見上げた。
「ここには他にも珍しい植物が生えているかもしれないズラ。もし手に入れられたら霊薬の効果が今よりも強くなれるズラ」
『そういうことなら。マスター、彼を同伴し見つけ次第回収していくのは? ついでに私たちの戦力向上に繋がるなら悪くないと思うが』
その通りだ。駆は頷きポクは両手を上げて喜んでいる。
それからはポクと一緒に道を進んでいった。その道中見つけた植物やら花を図鑑で確認しながら一喜一憂しポクはポケットへとしまっていく。ポクは大満足で思わぬ収穫に満面の笑みで歩いている。
「まさかこんなにも集まるなんて。これだけあればあれもこれも作れるズラ~」
今から手に入れた材料で配合するのを楽しみにしている。元々物を作るのが好きな性格のようだ。
そうして歩いているとなんだかいい香りがしてきた。ポクも鼻をならし匂いを嗅いでいる。
「くんくん。なんだろうズラね」
花の香り? それも一輪だけじゃない。花畑に突然立たされたような濃い香りに包まれる。
「こっちだズラ!」
ポクが駆け出していく。小さな足でてくてくと走っていっき木々を抜けた先、そこには巨大な花が咲いていた。駆も近くによってみるが大きい。例えるなら巨大なひまわり、もしくは小さな木だ。まず高さが三メートル以上もある。先端で咲き誇る黒みがかった紫の花弁に至っては駆が両手を広げても測れないほど巨大だ。地上で最大の花はラフレシアだがその重さのせいで地面から直接生えているのに対しこれはちゃんと緑色の茎がある。それだけでなく一本の幹から枝分かれして何本ものつぼみを付けていた。地上ではなかなか見ない形状の花だ。地面には土台を支えるためかたんぽぽのように巨大な葉が何枚も広がっている。
ポクは根元に座り込み図鑑のページをぺらぺらとめくっている。
「これはどんな花なんだズラ。見覚えはあるんだズラ」
ポクは熱心にページをめくっては目の前の花を調べている。
「ホントだ、良い香り~」
いつの間に出ていたのかリトリィも花の匂いを嗅いでいる。匂いに釣られて出てくるとはチョロい悪魔だ。
「せっかくだし一枚くらいもらってこうかしら」
そう言って花弁の一枚を両手に掴んで引っ張っている。
「んー! なかなか取れないわねこれ。んんん!」
なんとか抜こうと懸命になっているが花弁一枚でもリトリィより重そうだ。仮に抜けてもおそらく持ち運ぶのは無理だろう。
リトリィは奮闘するが、そんな中突然地面が揺れ出した。
「ん?」
地震だろうか。揺れはさらに大きくなっていく。
『いかん!』
ヲーの叫ぶ声が聞こえると同時、何本もの根が地面を突き破りリトリィの体に巻き付いてきた。
「ぎょええ! なんじゃこりゃー!」
根っこに四肢や胴体を拘束され身動きが取れない。
「こらー! 触手責めなんてすんなやー!」
彼女も彼女でもがいているがびくともしない。
すると今まで閉じていたつぼみが開きだす。何枚もの花弁が開いていくが、まるでサメの口のように何層にもなる鋭い歯が並んでいた。
「ぬおおお!」
根っこはまるで袋から取り出したナッツを口に運ぶようにリトリィを花弁に近づけていく。
「止めろ止めろ止めろー! 私なんか食べてもおいしくないからお願いしますって~!」
涙ながらに命乞いするが残念ながら花には耳はない。
「は!」
そこへヲーが現れ根を切り裂いた。ようやく自由になったリトリィは慌てて飛んでいく。
「なによこいつ! 全然きれいでもなんでもないじゃない!」
「美しい花には棘があるとは言うが、これは些か強すぎるな」
「あったズラ!」
そこで避難していたポクから声が上がる。
「捕食植物ラフレイオン。周りの悪魔を食べて育つ魔界植物だズラ!」
「それもっと先に言ってよね!」
「油断するな、くるぞ!」
まるで伝説に出てくる多頭龍のように口を持ついくつもの花たちが動き回りツルと化した根がうねっている。すさまじい迫力でまさしく怪物だ。




