未来の状況
「聖治。話をまとめるが、これから日向がシンクロスを持ってくる。それでお前の意識を過去へと戻す。そのためには俺たちのスパーダも必要になる。それでもどこで目を覚ますかは予測不能だ。それでもなんとかしてもらうしかない」
「分かった」
力強く頷く。力也の死を無駄にしない。いや、この世界の犠牲すべてだ。こんな未来でいいはずがない。
俺たちの未来で悪魔の侵攻は起こる。それはもう決定事項で俺たちはそれをなんとかしなければならないんだ。
「とりあえずお前用の着替えがあるからそれを着るといいよ。いつまでもその格好じゃあれだろ」
「そりゃ助かる」
俺たちは立ち上がり案内された別室へと一人で入っていった。どうも倉庫みたいで棚にはなにやら備品が置いてある。そこに俺の服もあり着替えていく。
その最中、この世界のことを思い返していた。
ここは俺が生きた世界と同じだ。悪魔による侵攻。それによって世界は滅茶苦茶で大勢が亡くなった。そこには俺の大切な友達だっている。
好きな人を幸せにする。そのためにも悪魔の侵攻をなんとかして人類を救う必要があるんだ。
俺は着替えを終わり扉から外へ出る。今はシンクロスを持ってくる日向ちゃん待ちだ。ここにいるのもいいが少し周りを見てみよう。俺にはそれが必要だと思う。
貯水用の地下ダムであるここは現在避難所兼司令部として使われている。特にここの広場ではいくつものブルーシートが敷かれさまざまな人がいた。
包帯を巻いた怪我人、親とはぐれた子供と一緒にいる人たち。その表情はみんな暗い。当然だ。
だけど彼らは懸命に生きている。どんな絶望的な状況でも生きることを投げ出さず大切な人と一緒に最後まで過ごす。たとえ一人では駄目だったとしても誰かとなら支えていける。人間にはそうした強さがある。かつて香織と一緒に過ごしていた日々を思い出しここにいる人たちに共感していった。
救われるべきだ、人類は。
ここにいる大勢の人たちの姿に俺は静かなやる気をもらっていた。
そこへ戦闘服を来た人が大慌てで俺のところへやって来た。
「聖治さん、すぐに司令部へ来てください」
「なにがあったんですか?」
「詳細は中で。早く」
大変なことが起こった雰囲気に急かされ俺たちは司令部へと戻る。
扉を開ければさきほどとは打って変わって騒然とした雰囲気だ。慌ただしく作業をする人たちの中央には星都がおり大声で指示を飛ばしている。
「どうかしたのか?」
俺は星都のもとへと近づいた。
「襲撃だ」
「襲撃?」
なに? この場所がバレたのか?
「規模は?」
「正確には分かってないがかなり大きい。ここが本部だと分かってるな。悪魔どもが大挙してこっちに来てると連絡が来てる」
「そんな。日向ちゃんは?」
「それがさきほど連絡が途絶えた」
「くそ!」
まさか日向ちゃんまで襲われたのか? シンクロスがなければ過去に戻れないぞ。
「戦闘配置だ! 防衛体制を取って迎撃しろ。避難民を奥に避難させるんだ!」
「はい!」
星都の指示にここにいるみんなが返事をする。
「星都、俺はどうすればいい?」
この緊急事態になにかできるわけじゃないがなにかしたい。
「下手に動いても仕方がねえ。それに日向がくたばったって決まったわけじゃねえんだ。お前も避難してろ」
悔しいが今の俺はなにも出来ない。スパーダのない俺は完全に足手まといだ。星都やここにいる人たちが頑張っているのに情けない。
「司令! 防御壁突破されました!」
「なに!?」
男の報告に司令部内が静まりかえった。
「早すぎる、なにがあった?」
「それが扉をすり抜けてきて」
「すり抜けるだと?」
不穏な空気が一気に広がる。なにが起こっているのか分からないがやばいことだけは肌で分かる。
「くそ、広場で迎え撃つしかないか。避難は?」
「まだ少しかかります」
「急がせろ! 聖治、お前はやっぱりここにいろ。今回の悪魔はいつもと違う」
星都の指示に頷く。緊張して体が固い。言われたことに集中するだけだ。
「出るぞ、ここで食い止めるんだ」
星都はエンデュラスを出し他の人たちも武器を取って広場へと出て行く。司令部の扉にものぞき穴があり蓋を開けて外を覗いてみた。
広場では戦闘態勢が敷かれ扉を囲うように扇状に展開している。いつ来るか分からない敵に備え全員が銃を持ちその最前線に星都が立ち扉をまっすぐに見つめていた。
ざっと見渡した限り配置されている数は三十人くらいだ。全員武装しているとはいえ雪崩のように押し寄せられたらひとたまりもない。
その間に日向ちゃんがシンクロスを持って来てくれないとアウトだ。
頼む、間に合ってくれ。ここで俺が死んで失敗してしまったら本当に人類はおしまいだ。星都たちの努力やここにいるみんなの願いも無駄になってしまう。
早く。早く来てくれ!
その時だった。
コツン、コツンと足音が扉越しに聞こえてくる。すぐに全員が銃を構えた。一歩一歩、まるで余裕すら感じられる歩調だ。日向ちゃんじゃない。音が徐々に大きくなり、つばを飲み込んだ。
敵が、ついに来たんだ。
足音は扉の前まで来ると止みこの場は静寂に包まれる。緊張感が最大まで張りつめて心臓がバクバク鳴っているのが自分でも分かった。
静けさが重い。
瞬間だった。扉の前の空間に黒いシミのようなもやが現れる。それは広がっていき人一人分の大きさになると奥から一人の女性が現れた。
赤い髪をした大人の女性だ。腰まで伸びるストレートは滑らかで肌は白く、胸元を強調し露出の高い黒のドレスを着ている。ただしその背中には赤い翼と馬のような尻尾、さらに足も蹄をしており耳も細長い形をしていた。彼女はなにも喋らず、氷のような瞳が戦場を見つめている。
その姿は妖艶だ。でもそれ以上に冷たい。心を凍てつかせ芯まで凍ったような。表情は無感情なのに目だけがかすかな殺意を湛えている。
これが悪魔? 俺が知っているのとは全然違う。
「撃てぇ!」
星都の号令を合図に銃声が鳴り響く。三十近くになる銃口が彼女をとらえ一斉に発射される。
だが銃弾が彼女に当たる直前、空間には黒いシミのような空間が現れ銃弾はそこへ飲み込まれていた。銃弾が彼女に迫る度黒い空間が現れては消えていく。まるで湖に雨が降っている時の水面のようだ。銃弾が一斉に彼女に放たれるがすべて当たる前に黒い世界へと消えていった。
「止めぇ!」
これでは続けていても弾薬の無駄だ。耳をつんざくほどの銃声が止み静けさが戻る。
どうするべきか。銃弾が利かないなら星都のエンデュラスで切りかかるべきか? だがそれで星都まであの黒い空間に飲み込まれてしまったらお仕舞いだ。
次の一手を考える。だが次に動いたのは相手の方だった。
彼女が片手を横に切る。すると彼女の背後に巨大な黒い空間が現れそこから新たに四体の悪魔が現れたのだ。
一体は十五センチほどの翼の生えた女の子。
一体は一メートルにも満たない小人。
一体は全身が緑色の鱗で覆われ尻尾がある仮面の男。
一体は三頭を持つ巨大な犬。
ここまでにある防御壁や扉をすり抜けて、彼女は仲間を召喚したのだ。
その内の一体、小柄な少女は空を浮遊し明るい金髪のツインテールが揺れている。赤い服を着たその悪魔は大仰に腕を広げた。
「パンパカパーン! 大変長らくお待たせしました! ドブネズミみたいに地下でうじうじ暮らすてめえら、その惨めな人生に引導を渡してやるから感謝しろよなー。せめて好きな相手の名前でも浮かべながらドラマチックに死んでいけや」
そう言って中指を突きつける。明るい口調だがそのにやついた笑みは残虐でこれから殺し合いをするっていうのにまるで遊びみたいだ。




