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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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此方

 その時、ふとある種の予感めいたものが頭を過ぎった。

 俺たちは今、密室に閉じこめられている状態だ。敵からすれば一網打尽にする絶好の機会。ここじゃ逃げも隠れもできない。

 しまった。乗ってから気がついた。彼女たちの善意を信じたいが危険も犯せない。やはり階段を使っていこう。


「みんな、階段を使おう」


 俺は二階のボタンを押すため手を伸ばした、瞬間だった。


「!?」


 な、に。

 ボタンを押すために伸ばした腕が、重い。それどころか立っているのも辛くなってくる。

 俺は後ろにふらついてしまいボタンが押せない。さらに異変は俺だけでなく他の三人もで壁に手を当てるなり体を支えていた。それもすぐに出来なくなりその場にへたり込んでしまう。


「これ、は……」


 立っているだけなのに息が荒い。体がだるく三日も寝てないくらいに目眩がする。ふらふらだ。


「みんな……!」


 なんとかまぶたを開け顔を動かす。みんな耐えているが辛そうだ。

 くそ。ボタンを見上げる。まずはここから出ないと。ボタンを押そうと手を伸ばすが、肩より上にあがらない。

 俺たちは最初に押した四階にたどり着くまで体力を奪われ続け、ようやくエレベーターは停止した。

 扉が開く。俺たちは全員床に座り込んでおりエレベーターから這いだした。


「どういうことだよ、これ……!?」

「うう。事故、とかじゃないのかなぁ? ガス漏れとか」

「アホ! 攻撃に決まってるだろ……」

「そんな」

「くそ」


 なんてことだ。認識が甘かったのか?

 体が重い。だが、それ以上に辛かったのは自分の願いが裏切られたことだ。

 戦いたくない。みんなで協力して生き残る。これは、そんなにも理解されないことなのか? 平和を望むのは俺たちだけで、他は殺し合うことを受け入れているって?

 なんで、なんでそうなるんだ!

 そう思っていると、廊下の先から足音が聞こえてきた。

 黒を基調とした服にスカートを履いた女の子だった。赤い髪をしており、長い髪はゆらゆらと揺れている。どこか大人びた雰囲気があり、可愛いと思うがどちらかというとかっこいい美人な感じ。

 その目が冷たい輝きで俺たちを見下ろしている。

 なにより、彼女の片手には赤い剣が握られていた。


「スパーダ……」


 その赤い刀身から、邪悪な気配を感じる。

 急激な体力の減衰。原因はこれか。型は西洋の両手剣。見た目はきれいだがこれを見たいとは思わない。それくらい、これは強烈だ。

 天黒魔のイメージを死だとするならこの剣は禍々しさだ。天黒魔も強烈なまでの死を連想させたが静かだった。でもこれは違う。自ら発し、敵を蹂躙するような、能動する破壊を思わせる。

 赤い魔剣。名前は確か――カリギュラ。


「お前が、安神か?」


 息切れを起こしながらもなんとか声を出す。


安神(やすかみ)此方(こなた)よ」


 此方(こなた)。彼女が姉か。


「交渉は、決裂なのか?」


 話もなにもしてないが、これはどう考えても歓迎ではなく待ち伏せだ。

 俺の質問に彼女、安神此方は答えない。黙って俺たちを見つめている。


「そうかよ」


 それが彼女の答えだと知って、俺は残念さと悔しさに呟いた。

 協力できるかもしれない。力を合わせ、そうすればセブンスソードなんて儀式から逃げ出せるかもしれない。

 それは俺の想像でしかなく、儚い夢だったわけだ。

 残念でならない。このまま心が折れそうだ。

 此方は俺たちに近づいてくる。剣を両手で持った。


「く!」


 まずい。このままだとみんなやられる。なんとかしないと。

 立て。立て。立て!

 足に力を入れるが、くそ、起き上がれない!

 此方は俺の前に立った。俺を見下ろし赤剣を振り上げる。

 殺される。恐怖が一気に膨らんだ。


「私がやらなきゃ。私がやらなきゃ。私が。私が」


 だけど、すぐに剣は降りてこなかった。


「私がやらないと。私がやらないと」


 構えたまま、彼女は何度も自分に言い聞かせていた。

 目が、恐怖に怯えていたんだ。それで思った。

 この子も、怖いのか。

 死が目前に来てるのに、人事のようにそんなことを思う。

 瞬間、彼女の顔がこわばった。両手を握る手にも力が入って、くる、と分かった。


「聖治くぅん!」


 剣が下ろされる前、俺は後ろから突き飛ばされた。


「力也!」


 押し倒され廊下に横になる。俺がいた場所には力也がいて、結果、此方の剣が切り下ろしたのは力也だった。


「力也ぁああ!」


 体を切られ、力也が前のめりに倒れる。うつ伏せになって、そのまま動かなくなってしまう。


「あ。あああ」


 倒れた場所から血が広がっていく。声も聞こえない。身動きもしない。生きてる証が、なにもない。

 死んだ。またしても、死んでしまったんだ。


「あああああああ!」


 そんな、なんで! こんなことになるんだよ! 優しいお前から死ぬことないだろう!


「力也ぁ!」

「そんな……」


 力也の死に星都も叫んでいる。香織は呆然としていた。此方は立ち尽くし自分が斬った力也を見つめている。

 すると力也の体から光の球が浮かび出た。俺は前に出てそれを手に取る。

 これは力也の魂だ。誰だろうと渡してたまるか!

 俺にスパーダを奪われたことで此方も動く。また剣を振り上げた。

 今の俺じゃ剣なんか振るえない。今だって前に出るだけで全身が重かったんだ、剣なんてもの持ち上げることすらできない。

 でも俺には力也から受け継いだものがある。

 守ってもらった命と、彼の(スパーダ)だ!


「こい、鉄塊王、グラン!」


 俺の手にグランが現れる、俺の身長を越える巨大な剣。見た目はでかいがこの剣は重力の影響を受けない。振るうだけならこれは羽毛のように軽い!

 俺の胸を占める感情。それは恐怖なんかじゃない。怒りだ。

 俺はグランを横に振り此方の攻撃を払った。二つのスパーダはぶつかり此方が吹き飛んだ。背中から廊下に倒れスパーダが彼女の手から離れる。それにより体力を蝕んでいたものが止まった。

 グランでは屋内、廊下では振り回すことができないためパーシヴァルと持ち替え此方に駆けつける。彼女を睨みつけパーシヴァルを振り上げた。

 彼女と目が合う。仰向けに倒れている此方は怯えた表情で俺を見上げていた。


「あ、あ……」


 今にも泣きそうで、大声を出せばそれだけで泣いてしまうんじゃないだろうか。それくらい彼女は怯えていた。

 彼女もセブンスソードの被害者なんだ。

 だけど、こいつは力也を殺した。

 背後では力也へ近づき声をかける二人の声が聞こえてくる。二人とも泣いていた。姿は見えなくてもその叫びで二人がどんな顔をしているのか分かる。

 こいつは俺の仲間を殺した。また誰か殺されるかもしれない。

 でも、彼女だって被害者なんだぞ? 


「…………」


 頭の中がこんがらがりそうだ。感情は怒りでどうにかなりそうなのに、頭の片隅では別のことを言っている。


「~~~~」


 どれが正しいかなんて、分からない。

 分かるのはこいつは力也を殺したこと。危険なやつなんだってこと。

 理性なんていらない。この時だけは、考える頭を捨てたかった。


「う、あああ!」


 勢いで誤魔化した。葛藤を。苦悩を。ぜんぶ置き去りにして。善悪も正誤もそんな境界を振り切って。

 俺は考えることを捨てた。

 そして、スパーダを振り下ろした。

 短い悲鳴が上がる。体からは血が吹き出して彼女は事切れていた。

 スパーダが手から離れ床に落ちる。その後、俺はその場に両膝をついた。

 両手を見つめる。自分の手じゃないくらい、俺の両手は振るえていた。

 殺した。……殺してしまった。

 相手は力也を殺したやつだった。敵だったんだ。仕方がなかった。

 でも、俺ははじめて人を殺した。

 暗澹(あんたん)とした思いに怒りも後悔も浮かばない。ただ気分が暗い。重苦しくて全身が泥にでもなったようだ。

 背後からは、香織のすすり泣く声が聞こえる。

 こんなことが、したかったわけじゃない。

 ただ、話がしたかっただけなのに。

 なのになんで。

 袋小路のような現実が俺に覆い被さる。もう、どうすればいいのか分からない。これからどうすればいいっていうんだよ。力也はもう死んでしまったんだぞ。

 その時だった。あることに気がついた。

 パーシヴァルが、光ってる……?

 刀身が光っていた。俺は手に取り顔に近づける。

 そういえば、こいつの能力。それはけっきょく分からなかった。発動したはずなのになにも起こらなかった。

 でも今はどうだ。さきほど俺は此方のスパーダも得て、今三本スパーダを持っている。

 三本になった時、発動できる能力があるのでは?

 もしかして、俺が死んだら世界が変わって目覚める現象、原因はまさかこれか? この能力を使えばまた世界をやり直せる?

 もしそうだとしてもきっと世界は変わっている。俺の知らない世界が出迎えるはずだ。

 だけど。

 それがどんな世界で、どんな困難があろうと俺は諦めない。

 こんな世界、何度だって否定してやる。

 いつの日か、全員で生き延びられる、そんな世界を手にするまでは。

 俺は、何度だって挑戦してやる!

 俺は背後へ振り向いた。そこには亡くなった力也を悼んでいる二人がいる。悲しんで、胸を痛めている。その姿は見ているだけで辛いが、だけど俺の気持ちを後押ししてくれた。

 待ってろよ、三人とも。絶対に救ってみせるからな。

 俺はパーシヴァルに視線を戻し、覚悟を決めた。

 神を冠する剣、パーシヴァル。それは聖杯を求めて旅に出た三騎士の一人の名前。旅は長く険しかった。多くの困難があった。だけど彼は諦めなかった。だから彼は手にしたんだ。

 探し求めていた答えを。

 俺だって諦めない。必ず手にして見せる。

 俺の答え、みんなで生き延びる未来を。


「応えろ」


 希望を。祈りを。俺は己のスパーダに願う。


「神剣、パーシヴァル!」


 こんな世界を変えるために。

 絶対に、みんなで生き延びるんだ。

 この、セブンスソードから。


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