これで魔界の門に挑戦できるようになったわけね。ようやく本来の目的に戻れるわけね
「それで目標は達成できたわけだけど、ヲッチンはこれからよかったの?」
「ああ。気がかりな面はあるがリザードの結束は強い。私がいなくても大丈夫だろう。それに、約束を反故にしたりはしない」
ヲーが駆を見る。
「契約だ、駆。そなたをマスターとして認めよう。これから共に戦い、そしてやつらとの決着を」
うん。駆は大きく頷いた。魔界に侵攻してい秋和と千歌を止める。これ以上こんな悲劇を増やしていけない。
駆は血を流した左手を前に出しヲーも戦いで流した血を左手で前に出す。手の平が光りヲーも緑色の光があふれる。それらが合わさると光が混じり空中にグリーンの指輪が現れた。それらがゆっくりと左手の中指にはまる。
これで駆の左手には三つの指輪が付いている。
小指と中指、人差し指。パープルとグリーン、ブルーの指輪が輝く。
これで三体の悪魔と契約が完了した。同時に三体の速攻召喚が可能になる。
「これで魔界の門に挑戦できるようになったわけね。ようやく本来の目的に戻れるわけね」
「仲間もできて心強いズラ」
「相手は強敵という話だが?」
「私たちはよく知らないんだけどね。でもマスターがいうには私たちだけでは勝てないみたいだし」
「ふむ」
話を聞いていたヲーがなにやら考えている。それで答えが出たようだ。
「マスター、これを」
ヲーが手渡す。それは反射のマントだった。黒い布物がなめらかな光沢を放っている。
それを見て駆は驚く。これはリザード族の宝であるし、なによりカウの形見のようなものだ。ヲーが身につけるならともかく自分が受け取れるものではない。
「心配しなくていい。それにこれは必要なことだ」
そんな駆の心配をヲーが払拭する。
「これより私たちはあなたと一心同体。マスターであるあなたが亡くなると契約関係にある悪魔も命を落とす。その代わりにマスターの生命力を糧に活動できるわけだが、ともかく私たちとしてはマスターの生存が優先事項なわけだ」
「それはその通りだズラ。僕らがどんなに頑張ってもマスターがやられちゃったらみんな道連れだズラ。だからマスターにはなにがなんでも生きてもらわないと困るズラ」
「そのための反射のマントだ。効果は知っているだろう? これなら背後からの攻撃から守ってくれるし前面も守りやすい。役に立つはずだ。私はこれでいい」
そう言って封魔の槍を前に出す。カウのもう一つの形見。それを握りしめどこか自信を覗かせる。
マスターはこの集団のいわば生命線。そこを守るのは至極当然の判断だ。自分が死ねばここにいるみなも死んでしまう。自分の生存はそれだけに重要だ。形にこだわっている場合ではない。
駆は頷いた。そういうことなら。ヲーが手渡す黒のマントを受け取り背中に回す。両肩で固定し試しに片手を振るってみる。マントがバサっと浮き上がりしなやかに落ちていく。生地を撫でてみるがシルクのような肌触りで気持ちがいい。これならいつまでも身につけていたいくらいだ。
「よかったじゃん、けっこう様になってるよ?」
リトリィがからかい気味に言ってくるのを笑ってごまかす。とはいえ予期せぬ戦力アップだ、事態が好転しているのを感じる。
「すまぬが、最後にもう少しだけ時間をもらえないか。せめて弔いだけでもな」
ヲーの視線が横になっているカウに向けられる。魔界の入り口は逃げるわけでもない。
駆は頷いた。
この日、一つの友情が眠りについた。
それから四人は学校の体育館前へと来ていた。以前とは違い今度は新たな仲間もいる。駆は自身の左手を見つめてみた。そこにある三つの指輪。それがなによりの証だ。
仲間は消している。駆は念じそれにより三人が瞬時に現れた。
「ここがそうか」
「そうそう。とはいえ中に入るのは初めてなんだけどね。知ってるのはマスターだけ」
この扉の前に立ち表情が険しくなる。初めての上級悪魔との戦闘、そこで味わった絶望はまだ心に刻まれ続けている。止まった時間の中に現れた女性に助けられたからよかったものの次はない。戦って負ければ本当に死ぬのだ。
それを直に味わった駆だからこそ真剣になる。だがそれを知らないリトリィやポクとしては緊張感に欠けている。普段通りで一度死んでるとは思えない。それを覚えていれば彼女らも本気になっているんだろうが。
「その悪魔というのはどのようなものなんだ?」
ヲーに聞かれる。それで両腕を広げた。
「……でかいってこと?」
「みたいだな」
「みたいズラね」
伝わったようでなによりだ。
駆は正面に向き直る。油断はない。今度こそ勝ってみせる。
「ではいくか」




