表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
29/499

訪問

 俺たちは放課後集まりみんなで水戸駅から安神姉妹がいるというマンションへと向かっていた。夕暮れに染まった道を通りいくつものマンションが建つ住宅街に出る。言われた場所に来た俺たちだったが、四人ともその建物の前で顔を痛いくらいに上に向けていた。

 でかい。高層マンションとは聞いていたが。

 俺たちの前にあるマンションは地上からでは最上階が見えないほど高いマンションだった。高級なのだろう、正面入り口のロビーからそうした雰囲気が伝わってくる。いったいいくら稼げるようになればこんな家に住めるんだ?


「なあ、本当にここなのか? 騙されてるんじゃねえか?」

「その可能性は否定できないが」


 なにせ教えてくれた相手が不真面目な管理人だからな。不真面目だから教えてくれたのだが不真面目だからからかわれているのかもしれない。これが冗談なら話しかけに行く俺たちは相当痛い悪ガキどもということになる。


「正面の入り口は自動扉みたい。けれどロビーの奥はオートロックか。どうしようか」

「とりあえず名前があるかだけでも確認してみよう」


 俺たちはマンションの自動扉を通りロビーへと入る。大理石なのかよく分からないがきれいな床と照明が来る者を出迎える。なんかホテルの受付みたいだ。高級なマンションってこういうとこあるよな。

 そんな思いを感じつつ郵便受けに名前がないか手分けして探してみる。もしなかったらあのフード男、次会ったとき問答無用できりつけてやる。


「あったよぉ」


 すると力也から声が挙がった。俺たちは力也のもとに集合し名札を見る。

 あった。確かに安神(やすかみ)此方(こなた)日向(ひなた)と書かれている。それ以外に名前はない。


「二人暮らしか。親がいないというのはスパーダの特徴と一致するな」


 スパーダは全員人造人間ホムンクルスだ。だから作りの親は居ても生みの親はいない。


「二人とも高校生なんだろ? それがこんないいところに住みやがって。なんで二人で住むだけでこんな場所にいるんだ、自分たちで稼いだ金ってわけじゃあるまいし。自分で努力した金じゃないくせにそういうやつほど金持ち意識高いんだよな。お前らに金持ちアピールする資格ねえってのによ。まあ、別に悔しくなんかないけど」

「いやいや、どんだけ悔しいんだお前は」

「星都君は悔しいんだなぁ」

「皆森君が一番お金のこと気にしてる気がする」

「うるせえよ!」


 とりあえず安神姉妹の部屋の番号は分かった。404号室。そこに彼女たちはいるはずだ。


「どうしよう?」

「インターホンで連絡を取ってみるしかないだろう。オートロックだし」


 オートロックの扉の前にはボタンとスピーカーが壁に設置されている。俺は404号室を押してみた。

「はい」


 しばらくして返事があった。女性の声だ。声からして若い。


「もしもし。安神さんでしょうか?」

「はい、そうですが。どちらさまですか?」


 情報の信憑性が増していく。そのことは嬉しいが、ただ相手は俺が誰だか警戒しているようだ。声が固い。

 そりゃそうだよな。もし彼女が本当にスパーダならいつ、誰に襲われてもおかしくないんだ。そこへ知らない人の訪問なんかあったら不安になって当たり前。そうでなくても物騒な世の中だ。

 どう言えばいいだろうか。俺たちが襲いに来たわけではないこと、協力したいこと。まずは不安がられないようにしないと。


「どうか、落ち着いて聞いて欲しい」


 俺は慎重に、言葉を選んでスピーカーに話しかける。


「俺の名前は剣島聖治。スパーダです」


 瞬間、スピーカーの向こうで息を飲む音が聞こえた。


「スパーダというのに、聞き覚えは? 実は話をしに来たんです。敵対する意図はありません。どうか、話を聞いてくれませんか?」


 伝えることは伝えた。あとは相手がどう出るか。

 俺は祈るような思いで答えを待つ。後ろの三人もどうなるか見守っていた。

 俺が聞いてから、数秒を要してから彼女は答えた。


「分かりました。来てください」


 警戒した声色はそのままだったが俺たちを招き入れてくれた。

 自動扉が開き俺たちは中へと入ったいった。


「入れてくれたね」

「ああ。このまま順調にいけばいいんだが」


 隣を歩く彼女に俺は神妙な顔で答える。

 なんとかこうして中へと入れてくれたものの彼女の声から俺たちを完全に信じているわけじゃなさそうだ。あくまでも様子見でどう出るかはまだ決まっていない。


「聖治」


 俺は後ろを歩く星都に振り向いた。見れば星都の顔つきも難色を示している。


「分かってるとは思うが、一応な」

「分かってる」


 星都が言わんとしていることは、戦闘になるかもしれないから油断はするなということだ。

 実際そうならないと決まったわけじゃない。そうしたくないと俺がどれだけ願っても攻めるかどうかは彼女たちが自分で決めること。

 そうなった時、俺たちも剣で応じるしかない。


「今は、ただ信じよう」


 俺がそう言うと、それ以上星都がなにかを言うことはなかった。

 みんなエレベーターに乗り込む。別に階段で上がってもいいがあるのに使わないこともないだろう。エレベーターには誰もおらず俺たち四人を乗せて扉が閉まる。俺は彼女たちの階層である四階を押した。

 エレベーターが静かに動き出し俺たちを上へと運んでいく。


「その安神姉妹ってどんな人たちなんだろう」

「俺たちと同じだといいんだけどな」


 不安と期待が同じ量だけ存在している。ただ、強いているなら期待している自分がいた。


「彼女たちは俺たちと同じ高校生だ。巻き込まれただけの可能性がある。魔来名は大人だった。彼女たちなら俺たちと同じ気持ちかもしれない」

「話は合うだろうな」

「そうだといいんだなぁ」

「ああ」


 そうだと信じたい。まだ会ったことはないけれど俺たちと同じ境遇にある彼女たちを。人を信じてみたい。

 それが出来なくなった時、人は人でなくなってしまう気がするんだ。

 自分だけを考えて人を(おとしい)れる、裏切る、敵に差し出す。

 そんな悲惨な出来事を、俺はどこかで……。


「聖治君?」

「え?」


 気づけば香織が心配そうに覗き込んでいる。


「大丈夫? 顔が険しかったけど」

「ううん、大丈夫だ。ちょっと考え事をな」


 なんだろう、今の感じ。妙にリアルな感情だったな。もしかしたら思い出せていない記憶が関係しているのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ