お前たちは手を出すな、こいつは私が倒す
二人は見つめ合う。会話はない。そんなものに意味はない。これまでの時間や思い出の積み重ね、それを覚えてもなお二人の思いはすれ違ってしまった。どれだけ言葉を届けてもこの思いは変わらない。
残念でならない、惜しくて堪らない。
けれど、仕方がない。
「駆、ここは任せて欲しい」
背中越しに声を掛けられる。駆からはヲーの背中が見える。大きなその背中の向こうで彼がどんな思いで立っているのか見ることは出来ない。
そこでヲーが横顔だけで振り向いた。迷いのない瞳が駆を見る。
その瞳に駆は頷いた。自分の信念を、自分の使命を果たすため戦う男の背中を押してやる。
それにヲーも頷きカウに振り向いた。ローブを脱ぎ戦闘態勢だ。
「お前たちは手を出すな、こいつは私が倒す」
カウも片手で部下を制しながら槍を構え出した。相手はかつての友であり元戦士長。ここで倒してどちらがリザートの長か部下に示す。
駆が、リトリィが、ポクが、大勢のリザートたちが二人を見つめていた。
「やっちゃえヲッチン!」
「がんばるズラ!」
互いに槍を構え、ヲーとカウ、二人の戦いが始まった。
「はああ!」
「うおお!」
互いに矛を交え合う。気迫と技のぶつかり合い、どちらも一歩も引かない。手の内を知り尽くしているだけに拮抗している。
それでも僅かに上回っているのはヲーの方だった。体格は同じだが技が上手い。カウが大振りの攻撃が目立つ中ヲーは無駄のない攻撃で徐々にだが押している。実力ではヲーが上だ。
カウが槍を頭上に持ち上げる。強力な一撃だが代わりに胴体が隙だらけだ、槍の突きならばまさに一瞬。
「今だいけ!」
ヲーの一撃が先に出る。そのままカウに当たった。
「くッ」
だが当たるなり槍が弾かれる。カウはマントが前方になびくように腕を振るっておりそのマントがヲーの槍を弾いたのだ。
それによりカウの一撃が降りる。ヲーはすぐに両手で槍を構えカウの攻撃を受け止める。頭上から振り下ろされる重たい一撃をなんとか防ぎヲーは一端後退する。
「どういうこと? 今確かに当たったじゃない!」
槍が布切れ一枚に防がれるなどあり得ない。不可解な現象に駆の目も険しくなる。
「それが宝物殿に納められていた武具か」
ヲーが訪ねる。対してカウは返事をしないがそれは肯定と同じだ。
「反射のマントと封魔の槍か。伝説通りのようだな」
「これさえあれば俺は負けん。例えお前だろうともだ、ヲー」
ヲーは静かに構え直す。いつでも攻められる体勢だがカウは堂々とした佇まいだ。隙だらけなのを気にしてもいない。
「反射のマント?」
「封魔の槍ズラ?」
カウが身につけているマントと槍。ただの飾りではない。
「てことは、さっきヲッチンの槍が弾かれたのはあのマントのせいってこと?」
「それに封魔ってことはこっちの能力を封じてくるってことだズラ。今は関係ないズラだけど」
「もし斬られたらこっちの能力は使えないってことか。油断も隙もないわね!」
ヲーは構えたままカウを見る。カウも槍を構えヲーを見つめた。
その動きに以前との変化はない。あるのは武具と心の有り様。変わってしまった友の姿。
もう元には戻れない。失ったものは蘇らない。
出来るのは暴走した友を止めるだけ。それがせめてもの責任だから。
ヲーとカウが踏み出したのは同時だった。
槍が舞う。体が踊る。二人の戦いは舞踏のそれだ。相手の動きに昔を思い出し次の攻撃を予測する。それは殺し合いでありながら確認作業のようで、一連のやり取りはこの戦いを続けるための共同作業のよう。攻撃し、回避して、繰り返す毎に激しく、早くなっていく。
激闘の加速は、心さえも加速する。
「なぜだ!?」
その中でカウの怒号が轟いた。
「なぜ俺に逆らう!?」
乱舞する槍の応酬、振るった槍が強風となって流れていく。
「なぜ戦う相手が俺なんだ!?」
頭上から振り下ろされた攻撃が屋上の床を四散させる。ヲーは寸前のところで回避して矛先を向ける。
「敵はやつらだ、やつらを倒すべきだろう!」
固定された刃、まっすぐと伸ばせばカウの喉元を突ける。
だがカウはマントを掴むと喉元を覆い防がれてしまう。
「戦う気がありながら、なぜそれが俺なんだ!」
何度攻めてもこの繰り返し。単純な攻撃では槍に防がれ攻撃の後でもマントで守られる。背後からの奇襲など以ての外。