ずいぶんと物騒ね
「おぬしにはいないのか? すでに契約しているようだが親しかった友は?」
「いたよー。だけど私もお別れしちゃってね。それもこれもこの舌なし男のせいだけど」
そう言うとこれ見よがしにジト目で見下ろしてくる。そんな顔をされても困るので顔を背ける。
「それが今度はヲッチンの元仲間と戦うんだから。マスター、悪魔の仲を引き裂く宿命でもあるの?」
「…………」
そう言われてはなにも言えない。言えないが。
「ふっ」
そこでヲーが笑った。それが意外で振り返ってしまう。
「ヲッチンどうかした?」
「いや、すまない。ただ」
なにかそこまで面白いことでもあっただろうか。仮面の下でも小さく笑っているのが分かる。
「悪魔召喚師と悪魔はもっと殺伐な主従関係だと思っていたが、そなたらは違うのだと思ってな」
駆たちは顔を見合わせる。これが普通だと思っていたがどうも他は違うようだ。
「あー、これ聞くのちょっと躊躇うんだけどさ」
リトリィは聞きづらそうな顔をしてヲーに尋ねる。
「その襲撃犯ってどんな感じだったの?」
「ふむ」
ヲーにとっては辛い過去のことだ。だがいずれ戦う相手のことならば知っておきたい。
「私たちの村を襲ったのは少女の悪魔召喚師だった」
「!?」
少女、ということは千歌だ。
「私たちに配下に入るように勧誘してきたがそれを断ると村を焼き払ったのだ。あの夜のことは忘れたことがない。その時悪魔召喚師が悪魔に指示を出しているところを見たが、仲間、というよりは部下という感じだったな。別段それ自体悪いことではないが。だが、あの女には異様な雰囲気があった」
「というと?」
「恐怖心や不安、そうしたものが感じられなかった。戦士ならば恐怖を押さえ込む心構えくらい身につけているが、あの者は覚悟や決意、そうしたものすら感じなかった。ただただ冷たい、そうした印象を覚えている」
恐怖や不安、覚悟や決意すらない。仲間にならない悪魔を焼き払う冷たい人間。
話を聞く限り、駆の知っている千歌ではない。話せば笑うし情熱のある人だった。冷たいなんて思ったことはない。ましてや村ごと焼き払うなんて残酷なことをする人でもない。
変わってしまった友人の話に表情が険しくなる。自分の理想を実現するためだとしても、なぜそこまで変わってしまったのか。
「多くの仲間がその戦いで亡くなってしまった。家族も、親しい者も。その中にはライナもいた。あの夜焼け落ちる村とともに大勢殺されたのだ」
「どうしてその悪魔召喚師はそんなこと。そこまですることないじゃん」
「さてな。やつの考えは私にも分からん。ただ、カウは戦おうとしている。村に奉られていた武具まで持ち出し、仇を取るつもりだ」
一夜にして多くを失ったリザートたちの気持ちは言葉では表せないほど大きなものだろう。それはヲーも同じはず。
「そっか。辛いこと聞いてごめんねヲッチン」
「構わんさ。それにいずれ決着を付けねばならん相手だ。知ってもらった方がいい。だがそれよりも前に」
「カウを止めるのが先決だね」
「うむ」
現リーダーでありリザードを率いるカウ。彼の暴走はリンボにいる悪魔も巻き込み新たな戦火を広げるだけだ。これ以上の悲劇を繰り返すわけにはいかない。
駆はヲーを見上げ、彼の肩に手を置いた。駆が気持ちを表現する手段は少ない。だけど伝えたかった、なにかしたかった。彼の覚悟と思いを知って、今は自分が仲間だと言いたかった。
駆が手を当てたことでヲーが振り返る。彼の目が仮面の穴から見えた。
「ふっ、不思議な少年だな」
お互いに顔を見合わせる。駆は頷き、ヲーも頷いた。
二人の思いが重なる。目には見えないけれど分かる。目的と思いは同じだ。
「さあて、それじゃますます負けれないわね。マスターも気を抜くんじゃないわよ?」
駆は拳を見せる。当然だ、こんなところで負けられない。必ずやり遂げて魔界へ行くのだ。
四人はカウのいるビルへと急いだ。
駆たちはヲーの案内に導かれリザードのアジトに到着する。
カウがいるのは道路に面した商業ビルだった。テナントのフロアには様々なお店が入っている。本来なら人で賑わう娯楽施設だがリンボの中とあって殺伐としている。さらには今はリザートたちの根城だ、正面には何人ものリザード兵が待ち受けている。鎧と槍を身につけた戦士がビルを守るように立ち並んでいる。
「ずいぶんと物騒ね」
「そりゃリンボを襲ってまで戦力を増やしているんだから警備が厳重なのも当然だズラ」
駆たち四人は別のビルの物陰に隠れながら様子を伺う。ポクの言うとおり警備にはリザードだけでなく他の悪魔も混じっている。空を飛ぶ翼を持った黒い悪魔や地面には紫色をしたぶよぶよのゼリー状の体をした悪魔などが徘徊している。
「マスターどうする?」




