新たな仲間を求めて
相手からしたら訳の分からない事態だろう。なのに彼女が真っ先に真剣な態度になってくれたのが意外だった。駆は少しだけポカンとしてしまう。
「あのねぇ、大切な人を助けに魔界に行くって燃えてた男が急に余裕のないツラになって引き返したんだよ。今のマスターにも気迫はあるけど、そこに期待感なんてない。むしろ危機感に満ち満ちてる」
彼女は両手を上げた。
駆は内心で頷いた。今の駆に期待なんてない。あるのはあれほどの絶望を突きつけられて、どうすればいいのか分からない余裕のない心境だけだ。
リトリィは時に驚くほどにするどい。いつもおちゃらけているのに、人の考えや心の動きを読むことに関してはずば抜けてる。
「隠し事は無駄よマスター。私が今までどれだけ間抜けな人間どもをからかってきたと思ってるのよ。相手の心を読むのは得意なの」
「それ自慢ズラか?」
「うるさいわね!」
ポクの横やりにリトリィが怒鳴る。よかった、いつもの彼女だ。
普段のやりとりを見て懐かしく思う。数分前も見たはずなのに。
この、一度は失った光景をもう再び見れたことが、駆はうれしかった。
だから。
「え、なに?」
「マスター?」
駆は、ニ体に対して頭を下げた。
「マスター?」
「ど、どうしたズラか?」
突然の謝罪にニ体とも驚いている。駆は体を九十度に曲げて頭を下げ続けた。申し訳なかったと、心の底から思いながら。死なせてしまった。本当なら償おうとしても償いきれるものではない。
「……なにがあったのよ」
駆の必死な態度に彼女からもからかう雰囲気が消えている。ただごとではないと伝わったらしい。
駆は静かに顔を上げる。不可解な目で見てくるリトリィやポクを申し訳なく見る。
駆は体育館の扉を指さした。それで彼女たちも体育館を見る。それで駆に向き直ると、次にリトリィ、ポクを順番に指さした。
最後にその指で、首を切るジェスチャーをした。
「え!?」
それが意味すること。どうやら正しく伝わったらしい。
「あの体育館で、私たちが死ぬってこと?」
駆は辛いが頷いた。だがその表現は正確ではない。死ぬのではなく、死んだのだ。
駆はもう一度首を切るジェスチャーをしてから、左手の手のひらを右手で切り、次に左腕を切る仕草をする。死んだのは前の段階だ。
「違うズラ。マスターはきっと死ぬじゃなくて、死んだって言いたいズラ。オイラたちはすでに死んだんだズラ」
「ちょっとちょっとどういうこと? じゃあなんで私たちは生きてるのよ!? てかそのことを忘れてるっておかしくない?」
疑問は尤もだ。誰だってそう言うだろう。駆だって反対の立場ならそう思う。
「私たちは一度死んでいて、よみがえってる?」
「マスターの言っていることが本当だとして、この状況に合った条件を満たすなら時間が戻ったという方が自然ズラ」
駆は頷いた。自分が殺される前、時間は止まっていた。あの女の能力かは不明だが時間を操作できるのかもしれない。それならこの状況にも納得がいく。
「時間が巻き戻ったって……。それはマスターがやったの?」
顔を横に振る。
「じゃあ誰が」
そこは駆にも説明できない。彼女の正体やなぜ自分が選ばれたのか、そもそもの目的はなんなのか。それは駆にも謎のままだ。
「そもそもどうして私たちは殺されたの? あ」
聞いていて気づいたのか声をこぼす。納得したように両腕を組んだ。
「それでレベル上げしようって出ていったわけだ。あの体育館の向こうには強力な敵がいたんでしょう?」
頷く。魔犬ケルベロスという上級悪魔に自分たちは手も足も出せず敗北した。
「じゃあ話を整理するわよ? 私たちは体育館に入ったがそこにいた悪魔に殺され、どういうわけか時間が巻き戻ったと」
完全とはいかないがおおむね正しい。だからこそ強くならなくてはならない。
そのためには力を身につけること。そして、自分の力を知ることだ。
魔人融合と速攻召喚。
駆は胸に手を当てた。この体にはすでに悪魔の力が宿っている。それはどんな力なのか。どう使ええばいいのか。それを見極めなければならない。
悪魔と一つになるか。悪魔を仲間とするか。
どちらにせよこうしていても仕方がない。悪魔のいる場所へ行かなくては。
駆は二体を見てみた。
「うーん……仲間になってくれそうな悪魔かぁ。どうだろ?」
「この学校にはオイラたちしか悪魔はいないズラ。とりあえず場所を移動するとして、行くとしたら駅前がいいと思うズラ」
「たしかにあそこならここよりもいるわよね」
駅前。リンボの駅前と言われて思い出すのは最初に迷い込んだ時のことだ。そこで黒い羊の悪魔と遭遇し、その後で老人と金髪の女性と出会った。いわば駆にとって始まりの場所だ。
駆は二体に頷き、駅前を目指した。
新たな仲間を求めて。




