リザード!? なんでこいつらがリンボにいるの?
地上と魔界が重なり合う境界、リンボ。駆とリトリィ、ポクは新たな仲間となる悪魔を探して街へと移動していた。大通りに立ち辺りを見渡してみる。
厚い雲に覆われ赤いフィルターを通したような景色。砂煙が巻き起こり廃墟と化した建物が並ぶ様は見知っているはずの光景なのにまったくの別物に見える。人気はなく崩壊した文明を思わせるこの場所はポスト・アポカリプスそのものだ。
駆は二度目となるがまだ慣れない。物珍しさに町並みを眺めるがそれはリトリィとポクも同じだ。というよりもなにやら怪訝な表情をしている。駆はどういうことかリトリィを見上げた。
「いや、なんていうかさ」
駆の体を一周しリトリィは顎に手を当て小首を傾げている。
「なんで誰もいないんだろ?」
言われてみれば。駆はそういうものだと思っていたのだが本来ならもっといるものらしい。
「うん。いつもなら普通に悪魔たちがいるはずなんだズラ。だけど一人もいないなんておかしいズラね~」
ポクも不思議がっている。やはりこの状況は異常らしい。
見た目もそうだが、活気という意味でも閑散としている町並み。三人はいい知れない不安を感じるもただ立っていても始まらない。とりあえず大通りを歩いていく。
「…………」
歩きながら駆は建物を見上げていく。知っている建物やお店が荒れ果てぼろぼろになった姿には感慨深いものがある。現実の世界でも人がいなくなって数十年も放置されればこうなるのだろうか。
「うーん、なんだか不思議な感じ。街がこんなに静かなんて」
「いつも賑やかな分余計にそう思うズラね」
こちらとしてはすでに不思議な感覚なのだが。
「なにかあったのかしら」
「そうズラね。なにもなければ誰もいないなんてことないズラだし」
「いないってことは、隠れてる、もしくは逃げ出したってことかしら」
「いったいなにからズラ」
「それは……」
考える。この事態の原因としてなにかあるか。
リトリィはうーんと考え込んでいると駆の前方に頭上から槍が突き刺さってきた。
「ぬおわああ!」
「いったいなんだズラ!?」
駆はすぐに立ち止まり投げられてきた方向へ向く。
大通りの両側に並ぶ建物。その屋上には砂煙に隠れた人型の影がずらりと見える。それだけでなく背後や正面にも現れた。
「で、出たな~~!」
自分たちを包囲する悪魔に駆の目が引き締まる。
それは二メートル以上の身長を持つ人型の爬虫類だった。体表は緑の皮に覆われまるでワニと人を混ぜて立たせたような姿だ。ただし体格は人よりも大きく尻尾があるのが特徴的だ。その手には槍を持ち中世の騎士のような鎧を身につけている。
「リザード!? なんでこいつらがリンボにいるの?」
リザードと呼ばれる悪魔たちはみな精悍な表情をしているか、それ以上に鋭い目つきで睨んでくる。
その視線は、すべて駆に向けられていた。
「!」
身構える。もともとは悪魔がいる世界。そこに人間がいれば警戒もされる。
だがリザードたちの向ける目つきはそれ以上のものを思わせる。彼らが発する敵意はただ見慣れない人間、だけとは思えない。それくらいに強烈なものだ。
「なぜここにいるか、だと?」
正面の人垣を分け一体のリザードがやってくる。他とは違い黒いマントを背負っている。その気迫は他のリザードたちよりも大きく彼がリーダー格なのは明らかだ。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ。おまえら人間どもによって魔界から追われた我ら一族の怒り、この場で思い知るがいい」
「ええええ!?」
「な、ななななんだかやばそうだズラぁ~」
リザードの怒りを露わにした言葉に合わせ取り囲む仲間たちが槍の矛先を向けてくる。逃げようにも囲まれている。
「ちょっと待って待ってよ。なにがあったのは知らないけど私たちは関係ないわよ。人違いだって!」
「そうだズラ! オイラたちはここには来たばかりでなにも知らないズラ!」
「問答無用! 人間に組みするお前らも同罪、ここで死ね!」
彼も槍を構える。すぐにでも攻めてくる。それにこの数、防ぎきれない!
「数が多すぎない!?」
「オイラの薬も作る暇がないズラ!」
「ッ」
駆も構えるものの打開策が浮かばない。
敵が踏み込む、その直前。突如駆と彼の間に影が舞い降りた。巨体が着地したことでずどんという音とともに足下の砂が舞う。目の前に現れた影が立ち上がる。




