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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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へっへーん。素直でよろしい

 血を混ぜる。それで彼女は自分の指を切ったのか。駆は左手の親指を犬歯の先に押しつけた。そのまま思いっきり腕を引く。見れば親指についた傷口から血が滲んでいた。


「準備できたわね。はい。あとは自分と相手の血を合わせるだけ」


 リトリィは「はい」と言って自分の指を突き出してくる。


 これで悪魔と契約できる。緊張の中駆は親指を近づけていく。互いの指がゆっくりと近づき合わさっていく。するとそこから光が浮かび上がった。さらに全身の血流に静電気が走ったような感覚があり親指が熱くなる。


「ッ」


 くっついた指先から発する光はそのまま球体状となって浮かび上がっていく。それを見上げる。きれいな光に目を奪われる。その光は突如駆の小指に衝突し消えていった。


 驚きながら手を確認する。


 自分の左手、その小指には紫色の指輪がはまっていた。


 これが悪魔との契約、その証なのだろうか。駆は鈍く輝く指輪をまじまじと見つめる。


「契約せい! こーう!」


 と、リトリィが大声を出しながら飛び回った。これで成功なのか。不安や心配で胸が一杯だった気持ちがホッとする。対して彼女は大喜びだ。


「そういえばニンゲンはなんていうの?」


 今更ながら駆は名乗っていない。それで聞かれるのだがどう伝えればいいか。駆は悩んでから空間に指で文字を書き始めた。「か」「け」「る」。それでなんとか通じたらしくリトリィは「あー」と納得してくれた。


「なるほど、カケルね。どうカケル、悪魔と契約した気分は?」


 どう、と聞かれてもよく分からない。正直前後で違いは感じない。


「ふーん。カケルは契約初めてなんでしょ? 悪魔と契約したニンゲンはたいてい気分が悪くなるもんなんだけど」


 ということだが至って平気だ。むしろ不安になる、気分が悪くなるとはどういうことなのだろうか。 


「あれ、そんなことも知らないの? カケルってほんと悪魔のことなにも知らないのね」


 痛いところを突かれる。しかし図星なので否定もできず駆は表情をバツがが悪そうに曲げるだけだ。


「いい? 悪魔召喚師は契約している悪魔を使役する際自分の生気を悪魔に分け与えるの。いわばエネルギーね。だから悪魔は人間と契約してあげるんじゃん。とはいえ上級悪魔は人間から生気をもらわなくても十分活動できるから滅多に契約なんてしてくれないけどね。それと契約した相手とは精神的な繋がりができるらしくて、なんか感情とか共有するみたい」


 人間と悪魔の契約というのは形式的な約束事というよりも内面的な繋がりを指すようだ。肉体は別々でも心のどこかで合わさっているということだろうか。血を交えるという儀式もはじめは抵抗感があったがそういうことかと今なら納得できる。


「だから欲張って何体も悪魔と契約すると人間はその負担に耐えられなくなっちゃうんだって。どう、勉強になった?」


 頷く。どれも駆の知らなかったことばかりだ。


「どうだ~、私と契約してよかったでしょう?」


 駆はもう一度頷いた。


「へっへーん。素直でよろしい」


 そんな駆にリトリィは両腕を組んで鼻高々だ。実に気分がよさそうにしている。


「え~、なになに、あんたこのニンゲンと契約したの?」「ウッソ、マジ~」


 すると退散していったピクシーたちが戻ってきた。それで契約をした二人を見るなりはしゃいでいる。契約というのは悪魔からしてみても珍しいのかリトリィに向かって仲間たちがいろいろ言っている。なんというか女子中学生のようなノリだ。告白が成功して付き合うことになった女友達に質問責めして盛り上がる感じ。


「ねえねえ、契約ってどんな感じだった? やっぱ緊張した?」

「まあ初めてだしね~。でも思ってたより簡単? 案外たいしたことなかったかな~」

「ええ、いいな~。私もいい人と契約したいな」

「ちょっとあんた! そのニンゲン私いいなって言ってたじゃん! なに契約してんのよ!?」

「ふーんだ! 早い者勝ちだもーん!」


 そんなやりとりを駆はどこか蚊帳の外で見つめる。駆としてはもっとこう、シリアスな出来事なのだったのが緊張感にえらく温度差がある。契約というのが心の繋がりというのならそれこそ相手は慎重に選ぶべきだしこれから先のことも考えなくてはならない重要なことだ。それは契約する悪魔側も同じはずなのだが、もともとこういう種族なのか実に愉快だ。


 リトリィは駆の顔の隣に立つと、仲間に向け得意げに話し始めた。


「じゃあ紹介するけど、この人はカケル。私のマスターでーす!」

「きゃあー」


 大勢の歓声。


「…………」


 駆、外野の無言。


「向こうからどうしても私と契約したいって言うから契約しちゃいましたー!」

「きゃあー」

「…………」


 駆は若干契約したことを後悔し始めていた。


 そんなこんなでピクシーたちによる契約話、略して契バナは続いていった。盛り上がりに盛り上がった契バナも終盤に差し掛かり、その頃には駆は少し離れた場所で壁に背を預けていた。長い。

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