カケル、もしかして喋れないの?
「で、そのデモ・デモンズ・ゲートの使い方なんだけど、ぶっちゃけ私悪魔だから詳しくは知らないんだよね。なんちゃって知識しかないんだけど。てか、なんでほかの悪魔召喚師はマスターに教えてないのよ」
まったくだ。駆は不満を露わにするがしたところで仕方がない。話を進める。
「まあ知らないもんはしょうがないよね」
そう、しょうがない。これから悪魔召喚師のなんたるかを教えてもらおうという時に先制攻撃を受けそのまま置いてきぼりにあうなどという不遇を味わおうともしょうがないのだ。
「まずは呼び出したい悪魔を念じるの。契約している悪魔なら血で繋がってるからどこにいるか分かるでしょ」
言われて駆も感じた。目の前にいるリトリィだが目で見るだけでなく不思議と内側から感じるのだ。自分の体の一部と言えばいいのか、目の前に自分の手が浮いているような感覚を少しだけだが感じられた。
「次に空間を繋げる魔法陣を描くの。この際魔力、生気て言えばいいかな? それを消費するから気をつけてね。やりすぎるとすぐに倒れちゃうから。でも出し渋ってるとぜんぜん魔法陣が描かれないから自分のペースを把握するのが大事なわけ」
スタミナを多く消費すればそれだけ魔法陣を素早く完成させることができ悪魔を早く召喚できる。反対に少なければ時間がかかるということらしい。
「その際にデモ・デモンズ・ゲートって言うのよ。呪文というか門を開ける鍵みたいなの? これは飾りじゃないから絶対に言わないといけないみたい。メンドクサいよね。なんていうか、悪魔召喚って戦闘向きじゃないんだよね。いちいち悪魔を召喚しないといけないし、それに悪魔召喚師が契約する悪魔って基本的に自分よりも弱い悪魔ばかりだし? 自分よりも強い悪魔と契約しちゃったら反対に自分が支配されかねないからね。あ! ちなみに私はあんたよりも弱くはないわよ? 優しいから契約してあげてるけど格下ってわけじゃないから。そこんとこよろしく」
うんうん、駆は頷く。
悪魔を召喚するために呪文が必要という仕組み上、奇襲しようにも呪文を口にすれば相手にバレる可能性があり初めから召喚していたらそれこそ目立つ。また相手から攻められたとしてもデモ・デモンズ・ゲートという簡易儀式があるとはいえその隙にやられかねない。また召喚したところで自分よりも格下の悪魔なのだ。そもそも召喚する必要性が低い。彼女の言うように戦闘向きとは言えない。
余談だが無詠唱で技が行える魔卿騎士団は戦闘向きと言える。元々武術と融合しているだけあってその思想は戦闘を軸に据えている。平均的な団員の戦闘力でいえば魔卿騎士団はゼクシズで一番だ。
「悪魔召喚っていうのはもともと人気のない場所で悪魔を召喚して自分の目的を手伝ってもらおうっていう陰気で根暗な発想なのよ。って、誰が根暗じゃー!」
「…………」
彼女の華麗な一人ボケ突っ込みが廊下を吹き抜ける。
「……ごほん。話が逸れたわね。説明はこんな感じよ。じゃあまずはやってみますか、なにごとも実践実践」
彼女の言う通りまずはやってみるのが一番だ。リトリィも促してくる。
「ほらカケル、無口もいいけどこれくらいは言ってよね、じゃないと進まないんだから」
はじめての駆を気遣ってかリトリィの言い方は柔らかい。初心者を安心させるために笑顔まで浮かべ実に親切だ。
だが駆の表情はみるみると固くなっていき真顔に変わっていく。
まずい。
「ねえってば」
一向に喋る素振りのない駆にいよいよリトリィも口先をとがらせていく。
「ちょっと、ふざけないでよカケル」
違う。ふざけているわけじゃない。
喋れないのだ。
「カケル?」
駆の深刻な顔にリトリィがのぞき込んでくる。
「もしかして」
駆はきつくまぶたを閉じた。
まずい。これはまずい。まさかこんなことになるなんて思っていなかった。
悪魔召喚。そのためにはデモ・デモンズ・ゲートという呪文を言わなければならない。本来障害にもならないその条件が駆にはとても大きい。
まさか、喋れないことがこんな形で自分を襲ってくるとは。
「カケル、もしかして喋れないの?」
駆は数秒置いてから、頷いた。
「え」
彼女から声が漏れる。
「マジか」
驚いている。それもそうだろう。無口な人や寡黙な人はいても喋れない人は稀だ。そんな確率を初手で引くとは思わない。
「無口だなーとは思ってたけどまさか本当に喋れないとは。ちょっとちょっと、どうするのよこれえええ」
リトリィは空間を右に左に走っていく。忙しなく駆け回る中駆は黙って突っ立っているだけだ。




