託された使命と力
建物は破壊され瓦礫が道路に転がっている。曇天の空の下俺は香織と一緒に歩いていた。シンクロスが示す先に希望を探して。
絶望の未来を切り裂いて俺は守るんだ、隣にいる人を。
「ねえねえ聖治君。聖治君のお兄さんってどんな人だったの? 私兄弟とかいないから分かんないんだよね」
「その方がいいよ」
「そうなの?」
香織が意外そうに見つめてくる。都会の大通り、本当なら人々や車の往来で賑やかな場所は俺たちだけで瓦礫が散乱している。
「年が離れてれさ、不愛想で頑固で。いつも喧嘩してた。最後は日本軍に志願してさっさと家を出ていったよ。あの人も俺と一緒にいたくなかったんだろ」
「そうなんだ」
香織の期待を裏切ったなら申し訳ないが兄弟なんてそんなもんだ。もちろん仲がいい兄弟もいるんだろうが俺たちは違う。
「香織は姉と妹ならどっちが欲しい?」
「ええ~、どっちかな」
自然体な会話に小さく笑ってしまう。俺たちがいるのは間違いなく壊滅した街だというのに香織と一緒にいるとそんな感じは一切しない。常に明るくて、救われる。
「待て」
その時だった。俺たちの正面、その先から現れる大勢の異形があった。
三メートルを超える体躯に子供の銅ほどもある腕、赤い皮膚をした人型の怪物。それにはコウモリに似た黒い翼を生やし髑髏を装飾した赤い鎧を身に纏っていた。ひつじのような角を備え右手は有機兵器を持っており手ごとサイコガンになっている。
さらには取り巻きとして多くの怪物たちもいた。ボロボロのローブとフードで身を隠す異形は杖を持ち、空中には灰色の肌をしたスキンヘッドの人間に翼が生えたやつらが何体も浮いている。
悪魔。人類を根絶やしにする怪物。俺たちの宿敵にして侵略者。それが現れたんだ。
「香織、下がっててくれ」
「うん」
香織を下がらせ一人前に出る。ざっと三十くらいか。絶体絶命、以前の俺たちならここで殺されていた。
だけど違う。俺は彼女を守る誓いと、助けるだけの力がある!
鎧を着た赤い悪魔が右手を向ける。そこから巨大な光弾を放ってきた。ローブを羽織った悪魔も杖の先から赤い光球を作り放ってくる。それは人類の通常兵器を超える火力であり一撃で人体を破壊するほどの威力だ。それらが全部、俺一人に向かってくる。
だがそれは俺には届かない。
光弾が当たる前、突如現れる五本の剣が防いだんだ。剣は現れては消え次々と放たれる光の弾幕を受け止める。それで敵の攻撃は止まり俺は片手を前に出した。
「来い、スパーダ」
俺の手元に現れるシンクロス。それだけじゃない。エンデュラス。グラン。カリギュラ。ミリオット。四本のスパーダは空中に浮かび俺の周りを旋回している。シンクロスを持ち俺は走り出した。
「グオオオオ!」
赤い悪魔が叫びそれにより悪魔たちも走り出してきた。
空中に浮かぶ悪魔が迫る。俺はシンクロスをミリオットに切り替え光線で迎撃する。白い煙を上げながら墜落していく何体もの悪魔に俺はミリオットをくるくると回し再度構えて前に出る。
ローブを羽織った悪魔が放つ赤い光球をエンデュラスの加速で躱した後、追随するスパーダがローブの悪魔を切り捨てていった。
赤い大型の敵。そのサイコガンが変形し巨大な斧になる。それを振り下ろす。俺はグランに持ち替え悪魔の大斧と衝突していった。
そうして戦いは続いていく。手に握るスパーダと遠隔操作する四本のスパーダを駆使して。
最後に巨大な赤い悪魔の胸にシンクロスを突き立てた。悪魔は倒れていく体の端から灰となって消えていく。俺はシンクロスを振るい全てのスパーダを消した。
「香織、終わったよ」
こうした戦いはもう何度目かも分からない。
俺は振り返り彼女を見る。建物の瓦礫、そこに香織はもたれるように横になっており、
「え?」
大量の血を流していた。
「香織ぃいいい!」
急いで駆けつける。見れば胸に大きな傷を負っておりそこから血が流れている。かすかに息はあるが意識はない。
「そんな、そんなそんな! 駄目だ香織! 駄目だ!」
彼女の体を抱きしめる。傷口を両手で圧迫する。出ちゃ駄目だ、そう思うのに止まってくれない。
「これからだろ? 二人で幸せになるんだろ? 駄目だ香織、一人にしないでくれぇ!」
このままでは香織が死んでしまう。最悪の予想に涙が頬を零れる。
「誰か!? 誰かいませんか!? 誰かぁああ!?」
どうすればいい? どうすればいいんだ!?
「ああああぁあぁああ!」
曇天の暗い空。絶望の世界に慟哭が響く。




