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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
222/496

絆が壊れるのが怖かった。  その恐怖を救ってくれたのは、絆だった

「香織」


 それでも、さきに話し出したのは聖治だった。


「俺は、きっと迷惑を掛ける。香織だけじゃない。みんなにもだ。俺のせいで手を煩わせて、時間を使わせて。要らない心配までさせて」


 心に傷を負った自分は足手まといだ。仲間の迷惑になるくらいならいない方がいい。そうした思いが聖治の心をさらに胸の奥に押し込んでいる。


「俺だって治せたらいいけれど、そんな方法もない」


 解決することもできず、こうするしかない。


「俺のそばにいたら、ずっと香織に迷惑をかける。だから……」


 視線が下がる。重く圧しかかる負い目が聖治を俯かせる。


「聖治君」


 そんな聖治の手を取り、香織は屈んで彼を見上げる。


「いいんだよ」


「え?」


 優しく笑い、彼を見た。


「迷惑かけて、いいんだよ」


 握る手に力を入れる。駄目だと追い込む自分を優しく否定する。そうではなく、むしろそれでいいと肯定する。


 そんな自分でもいいと。


「聖治君は迷惑かけちゃ駄目って言うけど、そんなことない。そんなことないんだよ」


 優しい口調で話すが、話すごとに思いが強くなっていく。


「だって、聖治君は私を救ってくれたじゃない! 何年も、何十年も戦って。その間ずっと辛い思いをして。私は聖治君に返せないほどの迷惑をかけてきた」


「そんな。それは俺が」


「同じだよ!」


 言い掛ける言葉を即座に遮って、同じだと言う。


「それは私も同じ。私がしたくてしていることなの。聖治君の力になりたい。聖治君がしてくれたことを今度は私がしたいの」


 かつて彼がしてくれた自分の救出。それによって彼は傷を負いこうして苦しんでいる。大切だったから、愛していたから、その苦行を成し遂げた。


 それならば、次は自分の番だ。自分がする番だ。


 力になりたいと、思ってる!


「聖治君はもう、私にしてくれたんだもの。だからいいの。聖治君の苦しみを私にちょうだい。聖治君の辛さを私にぶつけて。私がそうして欲しいの」


 迷惑を迷惑と思わない。それどころか彼に貢献できることが嬉しい。


「聖治君はなにもしなくていい。私が一生守るから。戦わなくてもいいし、働かなくたっていい。私がずっと支える。それがどんなに大変でも私は平気だもん。辛いだなんて思わない。聖治君の支えになれるならそれが幸せだから」


 それがどれほどのことか、それは分からない。もしかしたら想像できないほどの負担があるかもしれない。


 それでも言える。一生という言葉に偽りはない。


「だから!」


 この気持ちに、殉じる覚悟はある。


「私に、いっぱい迷惑をかけて。好きだよ、聖治君。なにがあっても、この気持ちは変わらない」


 真っ直ぐと、自分の気持ちと眼差しを彼へと向ける。


 彼女の言葉に聖治は思っていた。


 ずっと、人に迷惑を掛けては駄目だと思っていた。仲間の足を引っ張っては駄目だと。恋人の負担になっては駄目だと。


 そうすることで、嫌われるのではないかと不安だった。


「いいのか?」


「うん」


 でも、そんなことない。自分が思っているよりも彼女は強い。


「こんな俺でも、一緒にいてくれるのか?」


「いるよ、ずっといる」


 絆が壊れるのが怖かった。


 その恐怖を救ってくれたのは、絆だった。


「香織……!」


 手が震える。気持ちは高ぶり瞼の奥が熱くなる。


 涙が、溢れていた。


「ありがとう、香織」


 口は声涙に震え、全身が熱くなる。涙が流れて止まらない。


 この思いを言葉に出来ない。感謝とか、喜びとか、嬉しさとか、それらが一気に溢れる。


「俺も同じだ。君が好きだ。この気持ちはなにがあっても変わらない。誓うよ、香織」


 彼女の手を握る手に力を入れて、頬を流れる涙を拭うこともせず。


「この愛は、一生君のものだ」


 変わらない愛を誓う。一生という言葉に嘘はない。


 この思いは、なにがあっても変わらないから。


「うん」


 聖治の告白に香織は小さく笑う。彼女の瞳からも一粒の涙がこぼれる。


 二人は見つめ合う。自然と顔が近づいていく。


 そして、唇を重ねた。

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