あの人も大切な人を守るために戦っている。だから諦めることが出来ないのよ。
「私からも言わせてもらうけど」
続いて此方も言う。妹を救うために戦うというこの敵に向けて。
「妹を助けたいという気持ちは同じ妹を持つ立場としてよく分かる。だけど、そんな方法はやはり間違っている。私もかつてこの子を救うんだと必死になってた時があった」
それは奇しくも同じ七人によって行われる儀式。そこで此方は戦っていた。
「私がなんとかしなくちゃならない、私が戦わなくちゃならないって。でもそのせいで大変なことになってしまった。とりかえしのつかないことに」
味方はいなくて敵しかいない。そうした思い込みが戦いを生み結果犠牲を出してしまった。
「でも今は違う。今の私には仲間がいる。だから今があって、こうして私もこの子も無事でいる。誰かを犠牲にする方法じゃその人は喜ばない。そして一人でやれることには限界がある。あなたの妹を救いたいのなら、するのは悪魔に魂を売ることじゃない!」
熱い思いが言葉に乗って放たれる。それは経験に基づいた訴えで、だからこそ説得力と勢いがある。これが正しい方法だと信じてる。
「仲間を作り、立ち向かうことよ!」
二人で訴える。戦う理由は分かった。彼の思いも理解できる。でも手段が間違っている。なら別の方法を考えることだってできるはず。
「知った風な口を利くな!」
だが、訴えは怒声によってかき消されてしまう。
「お前等になにが分かる。どれだけ仲間がいたって、どれだけの大金があってもあの子を救う方法はないんだぞ? それでどうやって叶を救うつもりだ!?」
彼の激情に答えたくても答えられない。いくら仲間がいても、いくら協力しても、医学的に治せないものは治せない。
「これしか方法がないんだ。それを諦めてなんになる。あいつが亡くなるくらいなら、俺はこの道を往く!」
変わらない。その思いも考えも。叶を救うという決意が彼を不動のものにしている。
「だからといって他の人は亡くなってもいいって? そこには叶さんと同じ人だっているのよ?」
「そうだよ、そんなのおかしいよ。叶ちゃんはそんなの望まないはずだよ!」
「勘違いするな」
再度の訴えも空しく律は言う。
「俺がしているのは人助けじゃない、俺のエゴだ」
まっすぐとした瞳が二人を貫く。
「たとえ罵られようと構わない。あいつの意思に反していようと構わない。あいつを救う、それだけだ」
まるで岩のようだ。彼の意思を動かすことは誰にもできない。
「そう。そこまで言うのなら」
彼の考えを変えるのは不可能だ。ならばこそすることはこちらも一つ。
「私たちも、遠慮なくあなたを倒すわ」
「そうだな」
答えは出た。お互い譲れないものを守るために。
戦いは、宿命だ。
「勝手な申し出だと分かっているが、ここでは戦いたくない。今日は帰れ。日を改めてお前たちとは決着をつける」
そう言うと律は持っていたブラックを一気飲みすると去っていった。途中にあるゴミ箱に缶を投げ捨てる。
その後ろ姿を二人は見つめていく。
「帰るわよ」
「うん……」
二人は家に続く住宅街の道を歩いていく。電車を乗り継ぎもう日はすっかり落ちて夜となっていた。明かりは街灯と家の窓から漏れる光だけだ。
「戦うしか、ないのかな」
日向がぽつりとつぶやいた。
「あの律って人、やろうとしていることはとても悪いことだしそれを認めるつもりもないんだけど、悪い人には見えなくてさ」
話し出す日向を此方は静かに見下ろす。
「ほんと言うと戦いたくない。叶ちゃんのお兄さんってこともあるしさ。このままじゃいけないって思うんだけど、それで戦ったらどの道叶ちゃんは悲しむと思う。なんとか、戦わない方法ってないのかな?」
+弱気な声だった。答えの出ない、詰んだも同然の問題に直面し打開策をなんとか出そうとしている。
その助けを求めるような質問に此方は顔を正面に戻す。
「難しいわね」
顔色は険しい。それだけこれは難問だ。
「あの人も大切な人を守るために戦っている。だから諦めることが出来ないのよ。それが間違っている方法だと分かっていても」
話を聞いてそれは伝わってきた。彼はすべてを承知の上でするつもりだ。
「それしかないから、それをする。正しいとか間違っているとか、善とか悪じゃない。自分がそうしたいかどうかだから」




