そうか……。この二人は?
「友達じゃん? 特別なことなんかじゃないよ」
それが彼女の答え。理想でも夢でもない。普通で現実で、こんなの当たり前だと。
お互いに笑みを見せ合った。屈託もなく笑い、分かり合えた瞬間を喜んでいた。
「日向? いる?」
そこで名前を呼ばれた。カーテンを開けてみるとそこには此方がいた。
「お姉ちゃん?」
此方が近づいてくる。
「どうして?」
「あんたがここにいるって聞いたの。それでちょっと心配になってね」
「もーう、どうして私が心配されるのよ。私は同行しただけなのに」
病人ならいざ知らず日向は健康そのものだ、心配されるのはむしろ不服だ。
「別にいいでしょ、遅くなるかもしれないんだし」
日向の反応に此方はやれやれと顔を振っている。
「それに、星都たちから話も聞いてたしね」
「……そっか」
そういうことかと納得する。そういうことなら分からなくもない。
「あの」
「あ」
叶が声を発し此方も振り返る。
「ごめんなさい、突然。私は日向の姉で此方っていうの。日向の友達の叶ちゃんよね? ありがとね、日向と仲良くしてくれて」
「そんな。私の方こそ。日向ちゃんにはよくしてもらってて。感謝するのは私の方です」
「そう、これからも仲良くしてあげてね」
「はい」
叶は頷いた後も此方の顔をじーと見上げている。
「ん?」
「あ、その、お姉さん、日向ちゃんの言ってた通り綺麗だなーって」
「この子が?」
「はい」
振り向く。隣に立つ普段小憎たらしい妹が裏では褒めてくれているとは。なかなかにニクいことをしてくれる。
「ふ~ん」
「えー、私そんなこと言ったかな~」
此方は見下ろし日向は目を逸らす。
「ま、それはそれでいいけど。あんたは気が済むまでここにいればいいわよ。私は外で待ってるから」
「いいの?」
「特別よ」
無事だというのが確認できたのであれば目的は達成している。此方は部屋から出ていこうと踵を返す。
「叶ー!」
その時扉が勢いよく開けられた。
「あ」
「な!?」
白い髪に長身の男性。黒のジャケットとズボンを履いている。
一瞬しか素顔を見たことはないが間違いない。
それは昨日襲撃してきた悪魔召喚師だ。
此方と男は互いを見合い固まる。敵と不意に出会い瞬時に行動が分からない。
「……く!」
警戒が続く。だがそれを破って男は叶の元へと駆け寄った。ベッドの横で膝を着くと叶に顔を近づける。
「叶、大丈夫か?」
「お兄さん」
兄の登場に喜んでいる。日向に見せる笑顔とはまた違った笑みだ。
「うん。今はもう落ち着いてる」
「そうか……。この二人は?」
「二人はね、私の友達の日向ちゃんと、そのお姉さんの此方さん。前話したでしょう?」
「この二人が?」
男は立ち上がり二人を見やる。
「日向ちゃんがね、救急車を呼んで、こうして付き添いまでしてくれたんだ」
なにも事情を知らない叶は笑っている。そんな妹を前にしては敵対している態度に出るわけにもいかず男性から警戒が薄まる。
「そうか」
妹に返事をし男は二人に正面を向ける。
「叶の兄の、上里律といいます。この度は、妹がお世話になりました」
「いえ、その」
昨日襲ってきた男に頭を下げられるという状況に日向はなんと言えばいいか分からず狼狽えている。反対に此方はまっすぐと律を見つめている。
空気は若干固い。明確な敵意こそないものの警戒が完全に解けたわけではない。そんな緊張感だけが残されている。




