大変なのは確かね。心配してる
意外そうだ。自分のキャラでは無理もない。
「そうだ、明日持ってくるよ」
「ほんとに!?」
叶が喜んでいる。共通の趣味で盛り上がれることが今から嬉しそうだ。
そこで休憩時間の終わりを報せるチャイムが鳴り日向は手を拭って自分の席に戻った。叶は笑顔で見送っていく。
放課後、日向は荷物をまとめると叶の席まで来ていた。
「叶ちゃん、よければこれからどこか寄ってかない? 駅前のクレープ屋おいしいらしよ」
「日向ちゃん」
日向が来たことに叶は明るく微笑むが直後申し訳ない顔になる。
「ごめんね、今日は病院に行かないといけないんだ」
「あ、そっか」
体育で見学していたのを思い出す。こうして話す分には平気なようだが体調は悪いはずで無理はさせられない。
「そういえばそうだったね、ごめんごめん」
「ううん、私こそごめんね。せっかく誘ってくれたのに」
「いいって。また元気になった時に行こうね」
「うん」
叶は笑って頷いてくれる。今日行けないのは残念だが仕方がない。日向は別れを告げ教室から出て行った。
それから此方と合流し二人で通学路を歩いていく。
今日、新しい友達ができた。まだ多くは話せてないが仲良くなれる気がする。そのことに日向の表情は明るい。
「なにかあった?」
「ん?」
隣を歩く此方を見上げる。
「上機嫌だからさ」
此方がふっと笑う。保健室で別れた時は悲しそうだった彼女が楽しそうにしているのは良いことだ。人間落ち込んでいるよりも明るい方がいい。
「分かるー?」
此方を見上げ今日あった素敵な出会いを話していく。
「新しい友達ができてさ。その子は病気があって運動とかは苦手なんだけど。でも仲良くなれそうなんだよね」
「そう」
楽しそうに話す日向に此方も小さく笑う。妹が楽しそうで何よりだ。
それは日向としてもそうなのだがそれに気を取られてばかりではいられない。
「聖治さんは?」
「放課後寄ってみたんだけど、すでに居なくてね」
「そっか」
剣島聖治。自分たちの仲間が苦しんでいる。それを忘れていたわけじゃない。その心配に蓋をしていただけだ。
「大丈夫かな」
直接知っているわけではないが辛そうな状況なのは伝わってくる。昨日は香織が泣いていたほどだ、かなり悪いはずだ。
「大変なのは確かね。心配してる」
聖治と実際に会った此方の表情は陰っている。やはり聖治の症状は芳しくない。
そこで此方の顔が切り替わる。
「ただ、心配すべきことなのはそれだけじゃない」
その目つきは戦いの目だ。
「デビルズ・ワン。いったいどうなってるのか」
そう、心配すべきなのは仲間のことだけではない。
デビルズ・ワン。悪魔召喚師たちが進めている儀式。本来危惧すべきなのはこっちだ。これを止めなければどんな悲劇が起こるか。
「それは星都さんと力也さんが調べてるんだよね?」
「そうね。だけど私たちだって狙われるかもしれないんだから、気を抜き過ぎないでよ」
「分かってるよ~」
楽しいことばかりではない。問題は山積していて口先が尖る。
瞬間だった。
「え?」
「これは」
世界が、赤色に変化した。
「悪魔召喚師の結界?」
通学路の町並みが赤い空に包まれる。夕焼けとは違う、それよりもなお赤い。
「まさか、リンボ? 人間界と魔界が重なり合った場所ってことだけど」
「てことは、私たち閉じ込められた?」
「日向、気を付けて」
此方はスパーダを取り出す。それで日向もすぐにスパーダを出した。
赤の魔剣と白の聖剣。カリギュラとミリオットが姿を現す。二人はスパーダを握り見覚えのある異界に警戒と視線を回らせる。
すると足音が聞こえてきた。




