再会
ホームルームが終わると転校生、とりわけ奇抜な登場をした俺にみんなが集まってきてくれたが、それを申し訳なく断りつつ星都と力也を屋上に呼び出した。どうしても三人で話がしたいと必死に頼み込み、二人はよく分かっていないようだったがついてきてくれた。
すぐにでも話がしたくて俺が率先して屋上へと向かっていく。見慣れた扉を開け三人で屋上へと出た。もうすぐ一限目が始まる時間なので誰もいない。
「なあ転校生、よくこの道分かったな」
「何度も来てるんだ」
「?」
星都と力也はお互いを見合い星都は両手を上げている。
「それで、俺たちに話ってなんだよ」
「えっと、その」
そう言われるとなんと切り出せばいいものか。難しいな。正直に言ったところで信じてもらえるとは思えないし。
でも、言うしかないんだ。
俺は意を決めた。
「その、信じてもらえないと思うけど」
「おう、信じられないな」
「まだなにも言ってないだろ!」
聞けよ!
だっていうのに星都は悪気もなく平然としている。
「だってあれだろ、俺たちは前にも出会ってるんだ、とかだろ?」
「ん。そうだけど」
「やっぱりだ」
ばれていたのか。というか、それしかないからな。
「そんなこと言われても俺も力也も覚えにないんだ。覚えてもないこと信じられるかよ」
そうだ、星都の言うとおりだ。
自分が知らないことをそう簡単に信じてもらえるわけがない。
「星都君、ちょっと待っててぇ。ねえ剣島君」
「聖治でいいよ。そう呼ばれてたんだ……」
他人行儀っていうのが妙に胸に刺さるな。
もしかしたら、香織もこんな気持ちだったのかな。そう思うと胸が切ない。
「ええっと、じゃあ聖治君。僕達ってどういう関係だったのかな?」
「それは」
俺たちの関係。それを言うのは別にいいんだが、それだとセブンスソードのことも話さなくてはならない。この様子だと絶対に信じてはもらえない。
「なんだ、言いにくいことなのか?」
星都が不審がっている。仕方がない、言うしかない。
「信じられないと思うけど、特に星都。笑うなよ」
俺は前置きを置いて二人に以前のことを伝えた。そこで俺たちが友達だったこと、転校生は俺ではなく沙城香織という女の子だったこと、そしてセブンスソードとその顛末を。
俺たちは全員殺された。魔堂魔来名。あの男に手も足も出ず、殺されてしまったんだ。
その後俺は目覚めると見覚えのある別世界にいたこと。
話はこれで全部だ。二人は終始黙って聞いていた。
「……う、うーん」
「なあ、これ笑っていいのか?」
「だから笑わないでくれ」
やっぱり信じてはくれないか。
当然だが二人ともどうしたものか困っている。
「そんな話いきなりされてよ、はい分かりましたっていう人間何人いるんだよ」
「それは、そうなんだが」
現実的にあり得ない。俺も自分が言っていることが無茶苦茶なのは分かってる。
「でも本当なんだ! 信じてくれ!」
必死に頼み込むが二人の反応は変わらない。
「ずいぶん熱意のある勧誘だが無理なものは無理だ。それに俺たちだけじゃなくてなんで沙城までいるんだよ」
「沙城!? 香織のことか? まさか、学校にいるのか?」
「いるから言ったんだろ?」
「知るかそんなこと!」
俺は星都に駆け寄り肩を掴んだ。
「彼女は今どこにいるんだ!?」
「おいおい、落ち着けよ。隣のクラスだからそこじゃねえのか?」
「隣? クラスメイトじゃなくて?」
いや、教室の中は見渡したが彼女の姿はいなかった。
「いつから? 彼女も転校してきたのか?」
「前からいるよ。それでいつ放してくれるんだ?」
「ああ、悪い」
俺は手を放した。
それにしても香織がすでに学校の生徒としているのか。俺の知ってる世界とは本当に違うんだな。
「ちょっと待ってろ、今呼んでやるから」
「いいのか? もうすぐ授業だぞ?」
「お前、怖いくらい必死だからな。もうヤケだ、満足するまでつき合ってやるよ。力也もいいだろ?」
「うーん、まあ、なんだか大変みたいだもんねえ」
「そうか、悪いな」
星都はスマホを取り出し画面に入力している。
「今向かってるってよ」
「そうか!」
ここに香織がいる。
俺を見つけて驚いて、俺を守るために戦って。彼女は俺が覚えていないのに、命をかけて俺のために戦ってくれていたんだ。
それに、気づけなかった。思い出せなかった。
今更だけど、それがすごく悔しい。自分をぶん殴りたいほどだ。
そう思っていると扉が開く音が響いた。
「!?」
下がっていた顔を上げ扉を見る。
そこには、彼女がいた。薄い桃色の髪が屋上の風に靡き、明るい雰囲気は変わらない。
沙城香織。現代に蘇った彼女が、そこにいた。
「もう、なによ皆森君。もう一限目はじまるよ?」
彼女は口先をとがらせている。そんな仕草でも彼女は可愛らしい。
「おう、こいつがお前に用があるってよ」
「え」
星都に言われ香織が俺に気づく。彼女は俺たちに近づいてきて、俺の前に立った。
本当に彼女だ。彼女も生きていた。俺の目の前にいる。よかった。ほんとうによかった。
だけど、胸が不安でいっぱいだ。怖くて、手が震えそうになる。
「あ、あの」
声が、うまく出ない。
「えっと」
彼女は困ったような、唖然としたような顔をしている。
「あの、誰ですか?」
「…………」
瞬間、頭の中が空っぽだった。