本当にそう思う?
だが問題は彼女だけではない。むしろ本題はそっちだ。
「私が様子を見てくるわ」
「ああ……」
此方の視線は廊下に向けられている。その先には彼がいる。今回のことで最も苦しんでいる彼が。
「俺もなにか出来ればいいんだがな。あいつは俺のダチだし。それに、今は特にな」
「分かってる」
これから悪魔召喚師たちとの戦いが始める。それはいつ起こってもおかしくない。そんな時にこちらの体勢が整っていないのはまずい。冷たく思われるかもしれないがその辺星都は冷静だ、この事態が不利を招くと懸念している。
「あいつを頼む。俺たちは最近変わったことがないか調べてみる」
「分かったわ」
星都の顔を見て互いに頷く。それから力也を見る。
「頼んだわよ」
「分かってるんだな」
力也とも挨拶を交わし此方は校舎に入っていった。廊下を歩き保健室の扉を開け、見れば一つカーテンが閉められたベッドがある。
「聖治? いる?」
声を掛けるが返事はない。けれど気配はある。
「開けるわよ」
白いカーテンを掴み仕切りを開く。
そこには、泣いている聖治がいた。ベッドに横になり瞼の上に腕を置いている。声は抑えているけれど泣いているのが分かる。
此方はベッドに腰かけた。
「大丈夫? 心配したわよ」
聖治を見るが、その表情は腕に隠れて分からない。
「ほっといてくれ」
冷たい一言が放たれる。心配してやってきてくれた仲間にそれは冷たい言葉だった。
「俺のことは心配しなくていい」
ショックでないと言えば嘘になる。だけど此方は気にしない。
「そういうわけにもいかないでしょ。なにが出来るってわけでもないけどさ、それでも心配はするって」
突き放されてもなお優しく声を掛ける。
彼がどれだけ辛いか知っている。一番彼が辛いのを知っている。だからなにを言われても嫌とは思わない。
むしろ、悲しいくらいだ。
「俺なんか心配しても意味ないだろ。ただの足手まといだ」
「本当にそう思う?」
会話が少しだけ途切れる。彼の返事に間ができる。
「……思うさ」
「そう」
彼の気持ちを受け止め此方は小さく笑う。
彼は自分を責めている。なにも出来ないと思い込んでいる。だから一人になろうとしている。仲間に迷惑を掛けたくないから。
それは後ろ向きだけど、彼なりの気遣いだ。
「でも普通するでしょ、仲間なんだからさ。辛そうにしてるなら心配するって」
それが分かる。此方は普通に声を掛けた。
「なんで、そうも心配するんだ? 俺なんか……」
「聖治」
彼の雰囲気が変わる。抑えていた感情が溢れるのを感じる。
「もうほっといてくれッ、俺にはなにも出来ない……。みんなに辛い思いをさせるだけだ」
今まで落ち着いていた感情に火がつき止まっていた涙が零れ出す。
「うッ」
聖治は寝返りを打ち背中を見せる。これ以上この場にいるのは彼のためにならない。
此方はベッドから立ち上がった。
「分かったわ。私は帰るから。もし、なにかあれば言って。その時は遠慮しなくていいからね」
泣いている彼を一人残すことに心苦しさはあるが仕方がない。此方はカーテンを掴む。
「此方」
「ん?」
振り返る。聖治は背中を向けたままベッドに横になっている。
「ごめん。嫌な思いをさせるつもりなんてないんだ。嫌な人間になりたいわけじゃない。ただ、俺は」
涙声混じりに言う。そのことに此方は表情を崩した。
「いいのよ、聖治」
彼が誰よりも苦しいのを知っている。誰よりも辛いのを知っている。
そして、優しい人だということも知っている。
「分かってるわよ」




