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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
197/496

本当にそう思う?

 だが問題は彼女だけではない。むしろ本題はそっちだ。


「私が様子を見てくるわ」


「ああ……」


 此方の視線は廊下に向けられている。その先には彼がいる。今回のことで最も苦しんでいる彼が。


「俺もなにか出来ればいいんだがな。あいつは俺のダチだし。それに、今は特にな」

「分かってる」


 これから悪魔召喚師たちとの戦いが始める。それはいつ起こってもおかしくない。そんな時にこちらの体勢が整っていないのはまずい。冷たく思われるかもしれないがその辺星都は冷静だ、この事態が不利を招くと懸念している。


「あいつを頼む。俺たちは最近変わったことがないか調べてみる」


「分かったわ」


 星都の顔を見て互いに頷く。それから力也を見る。


「頼んだわよ」


「分かってるんだな」


 力也とも挨拶を交わし此方は校舎に入っていった。廊下を歩き保健室の扉を開け、見れば一つカーテンが閉められたベッドがある。


「聖治? いる?」


 声を掛けるが返事はない。けれど気配はある。


「開けるわよ」


 白いカーテンを掴み仕切りを開く。


 そこには、泣いている聖治がいた。ベッドに横になり瞼の上に腕を置いている。声は抑えているけれど泣いているのが分かる。


 此方はベッドに腰かけた。


「大丈夫? 心配したわよ」


 聖治を見るが、その表情は腕に隠れて分からない。


「ほっといてくれ」


 冷たい一言が放たれる。心配してやってきてくれた仲間にそれは冷たい言葉だった。


「俺のことは心配しなくていい」


 ショックでないと言えば嘘になる。だけど此方は気にしない。


「そういうわけにもいかないでしょ。なにが出来るってわけでもないけどさ、それでも心配はするって」


 突き放されてもなお優しく声を掛ける。


 彼がどれだけ辛いか知っている。一番彼が辛いのを知っている。だからなにを言われても嫌とは思わない。


 むしろ、悲しいくらいだ。


「俺なんか心配しても意味ないだろ。ただの足手まといだ」


「本当にそう思う?」


 会話が少しだけ途切れる。彼の返事に間ができる。


「……思うさ」


「そう」


 彼の気持ちを受け止め此方は小さく笑う。


 彼は自分を責めている。なにも出来ないと思い込んでいる。だから一人になろうとしている。仲間に迷惑を掛けたくないから。


 それは後ろ向きだけど、彼なりの気遣いだ。


「でも普通するでしょ、仲間なんだからさ。辛そうにしてるなら心配するって」


 それが分かる。此方は普通に声を掛けた。


「なんで、そうも心配するんだ? 俺なんか……」


「聖治」


 彼の雰囲気が変わる。抑えていた感情が溢れるのを感じる。


「もうほっといてくれッ、俺にはなにも出来ない……。みんなに辛い思いをさせるだけだ」


 今まで落ち着いていた感情に火がつき止まっていた涙が零れ出す。


「うッ」


 聖治は寝返りを打ち背中を見せる。これ以上この場にいるのは彼のためにならない。


 此方はベッドから立ち上がった。


「分かったわ。私は帰るから。もし、なにかあれば言って。その時は遠慮しなくていいからね」


 泣いている彼を一人残すことに心苦しさはあるが仕方がない。此方はカーテンを掴む。


「此方」


「ん?」


 振り返る。聖治は背中を向けたままベッドに横になっている。


「ごめん。嫌な思いをさせるつもりなんてないんだ。嫌な人間になりたいわけじゃない。ただ、俺は」


 涙声混じりに言う。そのことに此方は表情を崩した。


「いいのよ、聖治」


 彼が誰よりも苦しいのを知っている。誰よりも辛いのを知っている。


 そして、優しい人だということも知っている。


「分かってるわよ」

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