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【WEB版】セブンスソード  作者: 奏 せいや
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刹那斬り

 あれは、そうか。沙城さんが言っていた、スパーダの能力には段階があって、スパーダを得ることによって解放されていくと。

 沙城さんはスパーダを三本持っている。それによって新たな能力が使えるようになったんだ。

 傷を治すだけじゃない。未然に防ぐ力、盾としての能力を手に入れたのか。

 魔来名は一旦刀を鞘に戻し沙城さんを見つめている。彼女が使っているのは二刀流だが、見えない三本目、実質三刀ある。二つで攻めて、一つで守る。攻守揃った力だ。

 これならいけるかもしれない。倒すのは難しいかもしれないが攻め手なら勝っているんだ、持久戦になれば先に沙城さんが取れる。防御こそ最大の攻撃というが、ディンドランのおかげで魔来名の勝ちの目はさらに薄まった。天黒魔の攻撃をディンドランですべて防げるなら完封だってできる。

 魔来名は強い。剣術や体術だけで二つのスパーダと拮抗したんだから、悔しいがそれは認めるしかない。でもさすがにこの差は圧倒的。


「ふん」


 魔来名が鼻を鳴らした。


「いつでも殺せると見くびったか」

「負け惜しみ? 後悔しても手は抜かないわよ」

「そうだな」


 魔来名は苦しい。沙城さんの攻撃には押され、せっかくの反撃も弾かれる。これでは勝ち筋がない。

 追い込つめた。この敵を。


「反省しよう。(おご)り過ぎたようだ。まさか、初戦からこうも使うことになるとはな」

「?」


 魔来名は腰を下ろし、居合の構えを取った。

 直後だった。鞘に納められた天黒魔から紫のオーラが溢れ出た。激しく噴出する膨大なオーラは魔来名を中心に風を巻き起こし、なおもその量を増やしていく。

 すごい迫力だ。一人じゃない。まるで数十人もの人間を一人に圧縮したかのような存在感がある。対面しているだけで圧倒される。


「逃げてええ!」


 沙城さんが俺に振り向いて叫んだ。

 直後。


刹那(せつな)斬り」


 俺と沙城さんの隣を突風が走り抜けていった。その風圧に倒されそうになる。俺は全身に力を入れて踏みとどまる。


「沙城さん、大丈夫?」


 俺の目の前に立つ彼女の後ろ姿が見える。

 カラン、そしてドンという音が聞こえる。


「え?」


 沙城さんの手からスパーダが落ちる。そして、彼女まで崩れ落ちていった。


「沙城さん!」


 その体を支える。彼女の体を抱きしめるが、その体には大きな切り傷があり、赤く染まっていた。

 ディンドランを発動する間もなく、彼女は斬られていた。


「そんな」


 血まみれになった彼女が腕の中で細い息をしている。


「聖治、君」


 俺を求めるように伸びる手を掴んだ。


「ごめん、ね。守るって……約束したのに……」


 悲しそうな目で俺を見上げている。その瞳から、涙が零れた。


「こんどこそ、きみの……やくにたてるって、おもったのに……」


 彼女の手が重くなる。顔はぐったりと横を向いて、動かなかった。


「沙城さん? うそだろ、なあ、沙城さん!」


 体を揺する。でも、彼女は反応しなかった。


「沙城さん!」


 何度も体を揺する。返事をしてくれ。そう思うのに、彼女は動かなかった。


「あああああ!」


 なんで、なんでこんなことに。

 俺のせいなのか? 俺が、なにもしなかったから。だからこんなことになったのか?

 沙城さんの体が発光する。そこから光の玉が浮かび上がり、体の中へと入ってきた。

 胸の辺りが、なんだか苦しい。自分に流れ込んでくる異物感と、それが混じり合っていく感覚。

 不思議な感じだった。まるで自分と他人が融合していくかのような、そんな感じさえする。この光は肉体はないけどその人そのもの、魂なんだ。そこにはスパーダだけじゃなくその人が持つ感情や記憶まである。自分の知らない情報が流れ、組み込まれていく。


「あ」


 彼女の記憶を手にする。彼女の心に触れる。

 それで分かったんだ。ようやく思い出すことができた。

 彼女は、


「あ、あああ」


 彼女は!


「香織!」


 俺は、思い出していた。

 そうだ。俺は、彼女と一緒だったんだ。こことは違う荒廃(こうはい)した世界で、二人で懸命に生きていた。どんなに辛くて悲しい時だって二人で支え合ってきた。彼女の隣なら寂しくなかった。

 恋人だったんだ、誰よりも大切な人だった。完全に思い出したわけじゃないけれど、それだけは覚えてる。彼女の笑顔と、それを守るんだと決めた気持ちを。

 なのに、よりにもよってそれを忘れていたなんて。


「ごめん、香織ッ」


 最低だ。

 俺に忘れられたと知って彼女はショックだった。当然だ。あんなに一緒だったのに、忘れられてどんなに辛かったか。そんな思いをさせないって誓ったのに。

 なのに、俺は忘れて、彼女は殺された。


「ううう!」


 地面にへたり込み涙が溢れる。悔しくて、悲しくて、なにより自分が許せない。


「香織!」


 彼女の名を呼んだ。でも彼女はもういない。今日一緒に遊んで、あんなに楽しそうだった。人生で一番幸せだと言ってくれて、あんなに幸せそうだったのに。それも最後になってしまった。

 ぜんぶ、俺のせいだ。


「う、う、うあああああ!」


 なんで、なんで、俺は!

 俺の背後から足音が聞こえてくる。振り返れば魔来名が俺を見下ろしていた。冷たい瞳がじっと見つめている。そして、死刑執行のようにゆっくりと天黒魔を持ち上げていく。

 それを、俺はどこか無感情に見上げていた。

 大切なものはぜんぶなくなってしまった。守りたい人はもういない。

 星都。力也。二人とも大事な友達だった。

 香織。誰よりも好きな女性(ひと)だった。

 俺だけが生き残って、みんながいない世界じゃ意味がない。生きる、意味がない。

 魔来名がスパーダを振るう。迫る黒の刀身。走る紫の光。

 俺の意識は一瞬で途絶えた。

 最後に俺の頭に(よぎ)ったもの。

 それは悔しさ。こんな理不尽な世界への反感と、自分への不甲斐なさだ。

 こんな世界を、こんな結末を変えたい。

 それだけだった。


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