会敵
彼女と一緒に駅のロータリーに来る。その前に手は放していた。見れば時計塔の下にはすでに星都と力也の姿がある。
彼女と二人の時間は終わりだな。夢のような時間だったけど、俺たちはセブンスソードという危険な状況にいるのも事実。切り替えていこう。
俺は夢から覚めるように現実へと意識を移していく。
「おーい。二人きりってことは見つけられなかったってことか」
「ということは星都たちもか」
俺たちもそうだが星都たちも行きと人数は変わっていない。どっちも空振りか。
「ごめんねぇ、聖治君。沙城さん。僕たちも探してはみたんだけど見つけられなかったよ」
「ううん、謝らないで織田君。もとはといえば私の目的なんだし」
「とりあえず無事に合流できてよかった。見つけられなかったのは残念だが何事もなかったのは朗報だよ」
「心配し過ぎだってーの、慌ただしい相棒だな」
「だってだな」
星都はそう言うが俺としてはそんな気にはなれない。
「今日で三日目、いつ襲われてもおかしくないんだぞ? 幹部連中に他の参加者。油断なんてできない」
「聖治君の言う通りだよ。警戒だけはしておいてね」
俺の不安に賛同してくれるように沙城さんがはっきりと言い切る。
「こうしている間にもセブンスソードは進んでいるんだから。いつ、どこで戦いが始まるか」
「そう言われてもな~」
俺と沙城さんは真剣だ。それに比べ星都は気が抜けている感じがする。
「二人はその管理人と戦って実際聖治は殺されかけたって話だけど、俺と力也はなんともなかったわけだしな」
「本当なんだ!」
「いや、まあ、そりゃそうなんだろうけどよ」
俺は星都に近づきその顔に大声で言ってやった。星都は両手を前に出して止めてくる。
「なんだよ、沙城さんから話を聞いた時は落ち込んでたのに。怖くないのかよ?」
「そりゃ怖いよ。怖いがよ、でも実感っていうのかな。最初聞かされた時は驚いたしビビったが、時間が経つにつれ慣れてきたっていうか。俺と力也は襲われたことがないんだぜ?」
「それはそうかもしれんが……」
説明されただけなのと体験してきた俺とでは認識にここまで隔たりが出るものなのか。そうかもしれないな。星都や力也は又聞きでしかないんだ、それで命の危険に真剣になれっていうほうが難しいのかもしれない。
でも本当のことだ、二人がどう思おうとこの町からは逃げなくてはならない。
「とりあえず、今は俺たちを信じてついてきてくれ」
「わーった、わーってるよ」
再度の注意に星都も納得してくれた。星都としては全部が嘘だと思っているわけでもなく半信半疑なんだ。
「力也、お前もいつどうなるか分からないから気をつけてくれよ」
「うん、分かってるんだなぁ」
力也はそう言うと頷いてくれた。力也は素直で助かる。
「それで、これからはどうするよ? 俺としてはそんなに危険なら今から逃げるっていうのも選択肢だと思うぜ?」
「…………」
星都の言うことは尤もだと思う。それはそうだ。
ただ、沙城さんが沈黙している。それで俺と星都は顔を見合わせた。
「ま、それはまたの機会みたいだな」
「悪いな」
「なーに、付き合うって言っただろ」
「それでも、ごめんね」
「お前まで謝んな。なに、まだ時間はあるんだろ?」
「余裕はないけどね。でもそれは相手も同じはず。相手も私たちを探しているはずだから」
「となれば考えは同じ。人が集まる新都に来る、と」
「だと思うんだけどね」
セブンスソードは今日で三日目。約半分か。そろそろ焦り始めてくる頃だ。動き出すならそろそろだな。今日は駄目だったけど明日ならいけるかもしれない。
「なら今日のところは引き上げるか。そういえば沙城さん住まいは? 俺たちは三人とも学生寮だからいいけど、一人は危険だろ?」
「それなら大丈夫。私も女子寮だから」
「それなら近いか」
女子寮なら距離は少ししか離れていない。なにかあればすぐに分かる。
「よし、それじゃあ今日は一旦解散して、明日また同じ時間に集合しようか。セブンスソードも四日目に入る。その分危険さも増してくるけれどなんとか乗り越えよう」
「なあ、ちょっと待ってくれ」
「なんだ、この期に及んで反対か? 最後まで付き合うんじゃなかったのかよ」
さっそく転向かこいつ。
「いやそうじゃなくてよ」
てっきりスパーダ探しが嫌になったのかと思ったが違ったようだ。
見れば星都は俺ではなく町の方を向いていた。星都の横顔が見えるがなにかおびえているような顔をしている。
「どうした?」
「気づかないのかよッ」
勢いよく俺に振り向く。その目はマジだった。
俺も慌てて町の方を見る。
「え」
そこには、誰もいなかった。
「そんな」
二、三歩歩いて駅前を見渡すが誰もいない。都会にある水戸駅はいつだって人通りが多い。特に夕方の五時なんて帰宅時間で混むはずなのに。さっきだってたくさん人が行き交っていたのに影すらない。
沙城さんが走り出し駅に入っていった。俺も後を追うが構内にも誰もいない。沙城さんは構内にあるお店を覗くが顔を横に振る。客どころか店員もいないみたいだ。
「どういうことだよ」
この異常事態に星都もさすがに動揺している。人が誰もいないんだ、こんなのどう考えてもおかしい。
「まさか」
俺はスパーダを念じパーシヴァルを取り出した。人がいないんだ、バレることもない。
すると、刀身が光っていた。
「この反応は」
その時、コツンと足音が聞こえた。
「誰?」
その音にいち早く沙城さんが反応する。
日は沈み空は夜に移り変わっていく。街灯の光が点き始め静かな駅前を照らしていく。
音がした方向、その道から人が歩いてくる。
そこに現れたのは、白いロングコートを来た男だった。
二十代くらいの青年で白い肌をしている。濃い金髪をしていて前髪は下げ横髪は少しハネている。夜に移ろう町に白の外套がなびいた。身長は力也より少し低いくらい。だがすらっとした体型は引き締まった体を思わせる。
その男が俺たちを見てきた。切れ長の青い目が底冷えするほどの冷たい視線を放っている。
見ただけでただ者でないと分かる。
なんなんだ、こいつは……。こんな人、見たことがない。オーラがすごい。こうして対面しているだけなのに圧倒されてしまう。
男は俺たちと距離を取ると立ち止まる。パーシヴァルの光がさきほどよりも強くなっている。間違いない。
「あんたも、スパーダか」
この男も、俺たちと同じ。セブンスソードの参加者。俺たちはそんなものから生き延びようと話し合い協力してきた。
だが、この男は違う。こうして対峙しているだけで、向けられてくる殺気が分かる!
「待ってくれ!」
ほっとけばすぐにでもこの男は攻撃してくる。そう思ったから声をかけていた。
「あんたもスパーダの一人なんだろ? セブンスソードっていう殺し合いの儀式に巻き込まれた。俺たちは戦う気なんてないんだ」
訳も分からず突然放り込まれたこんな儀式に参加する気なんてない。殺し合いなんて望んでいない。
「セブンスソードなんて殺し合い、誰だってしたくないはずだ。俺たちは誰にも危害を加える気なんてない」
今まで平和に暮らしていた。そこに不満なんてなかった。
こんなこと望んでいない!
「なるほど」
男がしゃべった。なにがなるほどなのか、緊張が高まる。
男は嘆息するように話し出した。
「しょせんは茶番か。話にならん」
呆れたような、侮蔑するような、そんな醒めた声。
その後表情を引き締め直し、俺たちを睨んできた。
「こい、スパーダ、天黒魔」
男がつぶやく。それに合わせて男の手の平に光が現れた。
それは紫。そしてそれを覆う漆黒だった。その中から現れたのは日本刀であり、黒い鞘を掴む。
「戯れ言につき合うつもりはない。剣を出せ。それくらいは待ってやる」
そう言って男は構えた。腰を落とし居合いの構えを取る。
「ロストスパーダ!?」
男のスパーダに沙城さんが驚いた。