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「浅川さん、はじめまして。沙城です」
「あなたが? 事件のこと聞きたいってことだけど。でも、私現場を発見しただけだけど。隣の人は?」
「彼もこの事件の関係者で。この事件のことを知りたいんです」
「はじめまして、剣島です」
自己紹介と会釈をする。
浅川さんは席から立つと教室からいったん出て、廊下の隅に移動した。話の内容が内容だからな。
「早速なんだけど浅川さん、現場の様子を教えてくれませんか?」
彼女は両手を前で組み顔を伏せると、小さな声でしゃべり始めた。
「その日は部活の朝練で早くに家を出て。私、登校する際、小さな公園の横を通るんだけど、そこでたまたま猫の死体があって」
「酷なことを聞くんですけど、その時の様子ってどんなのでしたか?」
「それは……」
言いにくいことに彼女はしばらく口ごもるが、時間を置いてから話してくれた。
「ひどかったよ。全身血だらけで……。あんなひどいこと、本当に可愛そう」
凄惨な現場だったらしく彼女の表情は暗い。よっぽどひどかったんだな。
「すみません、血だらけっていうのは、刃物で刺されてたとか?」
「どうだろ。そこまで見てなかったから」
「そうですか。ごめんなさい、ひどいこと聞いちゃって」
「いえ」
香織は彼女を気遣って、優しく、慎重に聞いていく。
彼女が落ち着いたのを見計らって俺も聞いてみた。
「すみません、俺からも質問させてもらっていいですか? 事件現場周辺なんですけど、変なところはなかったですか? 今回の事件被害の数が多いじゃないですか。個人だとは考えづらくて、組織的だとすると、もしかしたらオカルト的な集団が起こしてるんじゃないかって。変なこと聞くんですけど、地面に模様が描かれてるとか、ろうそくが落ちてるとかありませんでしたか?」
「え? いや、そういうのは特に……。私は気づかなかったけど」
どうやら現場にそうした異変はなかったようだ。死体も公園内にある歩道に倒れていたらしいし。
「そうですか。すみません、茶化しているわけじゃなかったんですけど、気を悪くしたなら謝ります」
「いえ、大丈夫だけど」
真剣に答えてくれている彼女に変なことを聞いてしまい悪く思う。
とはいえ情報は得られた。だが当ては外れてしまったな。今回の動物連続殺傷事件。悪魔召喚と関連しているならその手がかりらしきものがあると思ったがさっそく空振りになってしまった。敵がそのような証拠を残すとも考えづらいが期待していたのもまた事実だ。期待していた情報が得られず少しだけ落胆していまう。
「おかしいな」
「なにがだ?」
香織はなにか思うところがあるらしく隣でなにやら考え込んでいる。
「犯人の動機は分からないけど、でも、死体の状況からして犯人が直接殺害したのは間違いないと思う」
「それは、まあ。毒入りの餌を置いておいたとか、そういう方法ではないが」
死体に傷がある以上、誰かが傷つけたということだ。それは犯人が現場にいたということになる。
「屋外で、そんな目立つことを?」
「それは」
確かに。それは不自然だな。
「それだと目撃される可能性がある。そんな危険を冒してまで犯行に及んでいたのか」
おかしいな。これが悪魔召喚と関係ない事件だとしても、自分が人目に付くのは極力避けたいはず。にも関わらずこの犯人は頓着せず行動している。
「警察の事情聴取の時に聞いたんだけど、この事件、動物の死体はどれも似たような手段で場所は屋外みたい」
どうやら今回だけというわけでもない。謎が深まる。
「どういうことだ?」
考えるが俺には分からない。犯人の目的と動機。もしかしたらなにも考えてない短絡的な思考の持ち主なのか、それとも大きな見落としがあるのか。
消化できない違和感があるがそれは最後まで分からなかった。
「浅川さん、ありがとうございます。事件での質問は以上で終わりです。ちなみになんですけど、学園では変わったこととかってないですか?」
「うーん、変なことって言われても……」
突然学校で変わったことはないかと聞かれても早々出てこないだろう。
「なんでもいいです。噂話なんかでも変わったことがあれば。私たち最近転校してきたから、そういうの分からなくて」
「うーん」
浅川さんは考え込んでいる。と、なにか思いついたようだ。




