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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
146/496

37

 迷っているのか。


 躊躇っているのか。


 いや、躊躇わずにはいられないだろう。これからすることを思えば。


「一花。覚悟を決めろ」


 決心のつかない友人へ秋和は覚悟を促す。ここは戦場。こうして会話をしているが今にでも攻めていいのだ。それをしないのはせめてもの友情から。その友情も長くは続かない。


「俺はすでに出来ている。それを見せてやろう」


 そう言うと秋和は片手を前へと突き出した。その動作に一花の目つきが変わる。


 来る、それは確信。この場に突如降り立つ魔と邪を司る悪の権化。


 それが現れる。


「俺はライフを払い、偽・魔界の(デモ・デモンズゲート)をセッティング! 来い、眷属(けんぞく)たち!」


 秋和の前方に赤い魔法陣が現れる。中央に単眼が描かれた紋様がいくつも浮かび上がる。


 そこから、黒の異形たちが這い上がってきた。


「ギャアアア!」


 黒い異形が十数体新たに加わる。翼を持つ人型の、しかし人ではない者たち。赤い目を忙しなく走らせ口からは鋭い牙を見せる。


 あり得ない存在(もの)だった。人の世界にあってはならない怪物だ。誰も見たことない幻想の住人。にも関わらずそれは誰もが知っている者たちだ。


 悪魔。


 それが、現実として立っていた。この場は二十、三十近い数の悪魔が並んでいる。叫び声が不協和音の合唱となり滅びの世界で響き渡る。


「あんた……」


 秋和は本気だ。それを証明するように悪魔たちの視線が一花に集中する。


 殺す気だ。威嚇や脅迫などではない。殺す気でいる。


 秋和は、覚悟を決めていた。


 望むもののため、すべてを捨てる覚悟を。


「お前も引き下がれんだろうが、それは俺も同じだ」


 目の前にいる男。真田秋和。多くの時間を共に過ごしてきた彼は、すでに一花の知っている友人ではない。笑い合った仲間、楽しかった日常。それらはすべて過去になり、ここにいるのは己のためなら人を殺すことも躊躇わない、悪魔に心を売った男だ。


「俺は成さなければならないんだ、新たな世界を! 真の秩序を!」


 秋和の熱気が溢れる。それに合わせて悪魔も吠える。視線はさらに鋭さを増し一花を睨む。


「そのためなら、一花。お前だろうが容赦しないッ」


 戦いの宣言。秋和は退かない。自分の理想のため、実現のため、そのためならば友人だろうが手にかけると、そう言った。


「そう……」


 彼の本気を直に見て一花はつぶやいた。不可能だ。戦闘は不可避。それは分かっていたはずだったのに、どこか信じられない自分がいた。これから仲間同士で殺し合いをすること。非現実的で、かつては考えたこともない悲劇がこれから起こるなんて。


 でもそれは自分だけで、すでに相手は覚悟を決めている。


 彼の決意に触れて、一花も覚悟を決めた。


「いいわよ、あんたがその気なら。私も似たようなものだしね」


 なにかを諦めたかのような寂れた声。戦うことを受け入れた故の諦観。


「自分の信念、自分の願い。それを叶えるために私たちはここにいる、その他を犠牲にしてでもね」


 あり得ないほどの願い。努力や才能なんかでは叶わない奇跡を起こすため。


 現実を否定する大願。その代償が、それ以外だとしても。


 一花は彼を見た。


「秋和…………。殺すわ、あんたを」


 躊躇わない。殺すと決めた。


 願うもの以外すべてを捨てる。心はすでに悪魔に売った。なら迷わない。悲劇も、増悪も、すべて飲み干して、自分の願いを叶えるためにここにいる。


 一花はすでに、血を鉄に変えた悪魔だ。


 一花の鬼気迫る物言い。殺す。穏やかさとはかけ離れた言葉だが、しかし冗談には聞こえない。


 本気だ、二人とも。本当に殺し合おうとしている。


 一花は一歩前に出た。決意に満ちた、戦場へと赴く足取りで。


 彼女は片手を前に出し、まっすぐな瞳で前を見る。


 彼女が片手を前に出すと同時、周りで空気が渦巻いた。大気に満ちる目に見えない力の粒子。それが彼女に集まっていく。


 力の中心で一花は告げる、この世ならざる者へ。ここと異なる次元を繋げ、幻想は今現実に変わる。


――奇跡を前にして、無力な人の子よ、求めろ、叫べ。魔に縋りつき力を求めるがいい!


「私はライフを払い、偽・魔界の(デモ・デモンズゲート)をセッティング!」


 一花の正面前、そこの地面に魔法陣が現れた。回転する円陣は赤く光り、妖しい瞳が開眼するかのように眼が現れる。そこから黒煙が溢れる。


「来い、ガミジン!」


 呼び声に応えるように、影の中からそれは現れた。


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