もういい。救いなんて、求める方が間違ってた
「……そっか」
千歌の悲しそうな声。目線は下がり、滑稽な自分にわずかに口元をつり上げる。
「そうだよね。さすがに虫が良すぎたか」
目を瞑る。勇気を出した告白は、しかしふられる結果に終わってしまった。
「悲しいね。本当に……」
お互い大事に思っているのに、戦って倒さないと目的は達成されない。それは、どれだけ残酷で悲しいことだろう。
千歌は目を開け、駆を見つめる。
「駆君は、大切な人を失うことを恐れている。その覚悟が出来ていない。そしてそれはみんなも同じだと思っている。だけどね、それは違うよ」
悲哀の雰囲気が彼女を中心にしてこの場を覆う。
「私たちはもう、君を失っているんだよ」
かつての仲間と戦うこと、それを駆は厭うた。
彼女も、違うはずがなかった。
「君がいなくなってしまった悲しみをみんなが経験した。その苦しみにあって、辛さを受けた。みんな苦しんだの」
悲しい。
「どうして? どうして生き返ったの? なんで今更出てきたの? 生き返るならなんで死んだの?」
悲しい。
「悲しかったのに、すごく悲しかったのに!」
悲しい。
「それを乗り越えて、もう、君のような人が出ないように、世界を変えようって決意したのに!」
それでも、ここに立っているのは。
「君が、それを教えてくれたのに! それを!」
こんな悲しい世界を、変えたかったから。
「どうして君に否定されなちゃいけないの!?」
そう叫ぶ千歌の瞳は、濡れていた。
「どうして……!」
そこにいるのは世界を背負って立つ革命者ではない。
十七歳の、高校生だ。なにも変わらない、人間の女の子だ。
千歌は目を押さえ涙を拭う。
「分かってる。駆君は、優しいもんね……」
それで熱は引いていった。顔を上げ、言われた言葉を思い出す。
「その情熱は、自分が守りたかったものすら燃やし尽くすことになる、か。嫌々融合されたフェニックスが私に向けた、呪詛めいた負け惜しみだったけど、本当に呪いになったわね」
目的のためなら仲間であろうとも犠牲にする。それを選択できる彼女の情熱は、確かにある種呪いのようなものだろう。
だけど、それでも止まらない。それでも燃え続ける。自分の思い描く世界を実現するまでは、この歩みを止めたりしない。
「もういい。救いなんて、求める方が間違ってた。私にそんなものは過ぎた褒美だし、そんなものが欲しかったわけじゃない」
今の彼女は灰だ。静かだけれど、それにはまだ熱が残っている。
加えてそれは不死鳥の灰だ。
終わりではない。むしろ逆。
ここから。
これから始まるのだ。
愛すらも、燃料に変える戦いが。
「始めましょう。すべて灰にするわ、理想のために」
千歌の背後に炎の翼が生える。足は床から離れ両手の平にも炎が現れる。
「来るぞ!」
「分かってるズラ!」
駆も身構える。
これが、最後の戦いだ。
魔王戦、殺戮王と不死王の戦いが始まった。
「簡単に終わらないでね」
千歌が片手を向ける。燃えさかる炎は温度を急激に上げ熱線として放出する。
すぐさま反射のマントで防ぐ。屈折した熱線が玉座の間を焼き切った。千歌の背後にある深紅のカーテンが真ん中からどさりと床に落ちる。
それでも千歌の攻撃は止まらない。
「ファイザ!」
ファイの高等呪文であるザ系の発動。彼女の頭上に浮かぶ巨大な球体は小さな太陽のようだ。それを駆たちの場所へ放り投げる。
「ッ!」
爆風と共に炎が駆たちを襲う。吹き飛ばされそうになる体を足に力を込めて耐える。
「ぐうう!」
「ぬああ!」
熱い。
マント越しに伝わる威力となにより熱に表情が歪む。掴むマントの裾が熱せられた鉄板のように熱い。皮膚が焼け痛みに手を放しそうになる。それを負けじと握りしめた。
ファイザの爆発が終わった時、立っているのを駆だけだった。ヲーとポクは壁際まで下がっておりヲーは片膝を付きポクはうつ伏せに倒れている。
「これ、くらいッ」
「マスター、ごめんヅラ~」




