西暦2039年
灰色の空の下、暗雲が立ち込めるそこには倒壊したビルが広がりフロントガラスが割れた車が捨てられていた。車道には紙切れや建物の瓦礫が散らばっている。
西暦2039年。悪魔との戦いに敗れた人類の果て、それがこの有様だった。突如として現れた怪物に俺たちは負けたんだ。
誰もいない町。少し前まではこんなんじゃなかったのに。今や日本だけでなく世界中がこうなんだろうか。
もしそうだとしたら? 世界はとっくに手遅れで生きる希望なんてないとしたら?
この景色を見ていると、そんな後ろ向きな気持ちになっていく。
「聖治君?」
声に振り返る。隣には桃色の長髪が特徴的な女の子、香織がいた。初めてできた恋人で愛くるしい瞳が俺を見つめている。俺は彼女から視線を町へと向けた。
「知ってる場所がこんな風になってるの、残念だなと思ってさ」
壊されたこの街は俺の中にある思い出までも引き裂くようだ。
「両親や兄さん、友だちも、みんないなくなっちゃったし」
失ったものが多すぎる。今まで日常を構成していたもの、それが欠ける度に心に穴が開いていく。
俺は、とっくに壊れているのかもしれない。
「大丈夫だよ」
そう思っていると香織に手を握られた。
「私がいるぞ?」
彼女を見る。彼女の表情にはまだ希望があった。輝いて見える、こんな状況では宝石以上にそう思えた。
「だから大丈夫。私はずっと傍にいる。そなたの隣にずっといるのだ~、フォッフォッフォ。だから頑張ろう?」
その言葉に感情が湧き上がる。彼女の優しい言葉、明るい励まし。それが俺にとってどれだけ救いだったか。
ありがとう。何度そう思っても思い足りない。
「ん?」
そこで物音に振り返る。建物の角を注視してみると僅かに動く影が見えた。
「香織! 逃げろ!」
「え?」
香織の手を取って走り出す。同時に路地裏から巨大な影が飛び出してきた。
全身が漆黒で尻尾が三本もあるそれはライオンのような悪魔だった。俺たちは道路を走り車を縫っていく。悪魔は体が大きいため歩道に移り追いかけてきた。
俺たちは走るが、見上げれば建物の屋上から翼を持った人型の悪魔まで現れる。鳥の頭をしたそいつらは前方を防いできた。
「くそ!」
塞がれた! すぐに足を止めるがその隙にライオンの悪魔が迫り前足が香織を吹き飛ばす。香織は車にぶつかり倒れてしまった。
「香織ー!」
駆けつけると意識を失っているようだ。振り返れば悪魔たちが一斉に襲い掛かっている。
俺は香織を庇うように覆っていた。もう駄目だ。だけど、せめて彼女だけでは。
彼女だけは、助かってくれ!
「…………?」
俺は香織を庇っているがなかなか悪魔たちが襲ってこない、恐る恐る振り返ってみる。
「え」
そこには飛び掛かるライオンや鳥の頭をした人型の悪魔が、止まっていた。鳥なんて空中で微動だにしていない。
「どういう……これは……」
まるで、時間が止まっているようだ。その中で俺だけが動いている。
その時悪魔たちの間に人影が現れた。半透明なその人物は俺へと近づくにつれ完全な実体と化す。
全身が黒い服装。足まで届く外套にはフードが付いておりそれを被っているため顔は分からない。
「この世界を救えるとしたら、君は戦う覚悟はあるかい?」
状況もこの人が誰なのかも分からない。ただその質問に疑問なんてかき消えた。
香織を見る。この世界は、とっくに手遅れかもしれない。だけど彼女は生きている。生きることを諦めていない。
俺は、謎の男を見上げた。
「彼女を、救るのなら」
「手を」
言われ手を差し出してみると男は五つの光を取り出した。それぞれ水色、緑、赤、白の光が俺の体に入り込んでいく。
最後に、黄色の光が手元に現れ、それは剣となった。黄色い十字架、ゴシック調のお洒落な装飾。
それは俺が目にしてきたどの剣よりも美しかった。
「君には五本の剣、スパーダが宿った。しかし本来スパーダは七本で完成する。君は残りの二本、ロストスパーダを探すため過去へと行かなくてはならない。行先はスパーダが導いてくれる」
そういうと男は踵を返し歩き出した。
「待ってくれ、いきなりのことでまだ状況がうまく飲み込めてなくて。あんたはいったい」
「すまないが私は長くここには留まれない。あとは君に託す」
男は半身を返し俺を見た。
「君ならやれる。幸運を」
そして黒衣の男は出現時と同じように半透明になっていき消えていった。
どういうことだ? これで戦うのか? 俺だけで?
混乱する。当たり前だ、俺はなにも知らなすぎる。
だけど、俺は黄色い剣を見る。
世界の命運とかそんなの知らない。ただ、俺は今――
君だけを、助けたい!
「香織、待ってろよ。必ず助けてやるからな」
時間が動き出し悪魔たちが襲ってくる。俺は走り悪魔たちに立ち向かっていった。
世界を救う俺の物語が、ここから始まったんだ。




