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【書籍化決定】セブンスソード  作者: 奏 せいや
エピローグ
100/496

ここからは、俺たちの未来だ。

 日向ちゃんが興奮した様子で駆け寄ってくる。


「ああ、ほんとだ。セブンスソードは終わったんだ」

「よかった~」


 日向ちゃんの心底安心した顔を見ると俺も表情が緩くなってくる。もう自分たちで殺し合う必要がないんだ、ほんとうによかった。

 後から此方が歩いてくる。日向の肩に手を置き微笑んだ顔を見せてくれた。


「やったわね」

「ああ、なんとかな」


 此方のほっとした表情に俺も同じ表情で答えた。


「終わった。よかったんだな~」

「おう、まだまだやることはあるがなんとか最初の難関突破ってことだからな」


 力也と星都もうれしそうだ。

 そこで香織が近づいてきた。


「やったね、聖治君」


 彼女が浮かべる嬉しそうな顔。それを見て俺の胸の中にあった喜びがさらに大きくなっていく。

 彼女を守る。そう決意した日から始まった。

 そして今、彼女は俺の目の前にいる。無事な姿、笑顔のままで。


「香織」


 俺が守りたかったものが、こうしていることがすごく嬉しい。ほんとうに、すごく嬉しかった。


「聖治君が最後まで信じたからこそできたことだと思う」


 真っ直ぐと俺を見る香織の瞳。可愛らしい目が見上げている。


「ありがとう。聖治君はすごいね」


 その言葉だけで、今までの苦労が全部報われていく。頑張ってきてよかった。諦めなくて、本当によかった。 


「ううん、みんながいてくれたから頑張ってこれたんだ。みんながいなければ俺は駄目だったよ。特に香織。君がいてくれたから。君が支えてくれたから俺は頑張ってこれたんだ。ありがとう。感謝するのは俺の方さ」


 一番大切な人に一番支えられてきた。彼女が一緒じゃなければ俺は間違いなく道を踏み外したまま諦めていた。みんなを救うことなんて早々に見切りをつけて、こんな未来はなかった。


「みんなも辛い思いをしたもんね。でも、こうしてここにいられるのはやっぱり聖治君が頑張ってくれたからだよ。私は知ってるから。聖治君がたった一人でも頑張って、誰よりも傷ついて、悲しんで、それでも諦めずに頑張ってくれたこと」


 それを踏まえた上で、なお香織はそう言ってくれた。

 香織が腕を回してくる。抱きしめられて、体が密着する。


「ありがとう。言葉にしきれないほど聖治君には感謝してる。それをもっと誇っていい。聖治君は、すごいことをしたんだよ」

「香織」

「本当は私がもっと頑張ってあげられたらよかったんだけど、聖治君にほとんど任せっきりで」

「そんなことない!」


 そう言って俺も彼女を抱きしめる。


「俺が、君にどれだけ救われたか。言葉にしきれないほど感謝しているんだ、香織」


 この気持ちを表現できる方法なんて浮かばない。言葉をどれだけ繰り出しても気持ちの十分の一も伝えられない。それくらい、香織がそばにいてくれたことは嬉しかった。

 香織が体を離す。そのまま俺を見つめてきた。


「一緒だね」


 そう言ってニコッと笑った。はにかんだ笑みが可愛い。ピンク色の髪と相まって明るく見える。


「そうだな」

「うん」


 好きな人が笑っている。そんな姿を見られるだけで胸が温かくなっていく。

 本当に、よかった。

 回していた腕を解きふと隣を見る。そこには星都や力也、日向ちゃんや此方が俺たちを見つめていた。それに気付いて香織は恥ずかしそうに俯いた。


「なんだよ!?」


 そう言うと一斉に顔を逸らし別のことを話し出していた。まったく。

 みんなはいつもの調子だが、そこで俺は気になって兄さんに顔を向けてみた。

 ビルの屋上の端、フェンスの前に立って夜景を見つめていた。さすがにこの中にいきなり馴染むのは難しいよな。あの性格だし。

 すると兄さんは歩き始めてしまった。


「ちょっと待ってくれよ!」


 慌てて駆け寄る。なにも言わずどこかに行く気かよ。


「どこに行くんだ?」


 兄さんは足を止めてくれたが振り返らない。


「これからは一緒にいられるんだろ? こうして記憶も取り戻せたしようやくまともに出会えたんだ。今まで離ればなれだったんだしさ、その分これからはそばにいよう」


 またこの人と離れるなんてそんなことないだろ。以前みたいな状況ならともかく今は違う。


「聖治」


 そう思う。なのだが。


「俺は一緒にはいられない」

「え」


 一緒にはいないって、どうして!?


「なんで!?」

「お前にはしなければならないことがある」

「俺が?」

「そして、俺にもな」


 俺のやるべきこと。兄さんのやるべきこと。その言葉が具体的になにを指しているのか、今の俺には分からない。

 でも、兄さんの言っていることはきっと正しい。それでも、俺は兄さんにそばにいて欲しかった。


「でも」


 不安が胸を締め付ける。せっかく出会えたのに別れるなんて。

 そんな俺に兄さんは振り返った。


「安心しろ。お前は強くなった」

「え」


 正面から言われる。そう言われるのが意外でなんというか、驚くと同時に照れる。


「もう、俺との約束がなくてもやっていけるさ」


 でも、なにより嬉しかった。そう言ってくれて。兄さんが俺を褒めてくれた。強くなったと、そう言ってくれた。

 この人に認められたことが、素直に嬉しかった。


「それに」


 言葉を止めて兄さんは俺の背後に目をやった。追いかければそこにはこちらを見ているみんながいた。

 俺たちの仲間。昔はいなかった、今ここにいる心強い仲間たち。それはセブンスソードで得た掛け替えのないものだ。

 兄さんがまっすぐと俺を見る。その目は戦っている時の目とは違うけど、それと同じくらい真剣なものだった。


「お前は一人じゃない。俺に守られる必要はなくなった」


 その目をじっと見つめる。俺を認めてくれた男の目。それを胸に刻んで俺は頷いた。


「分かった」


 この人の思いを否定なんて出来ない。せっかく認めてくれたのにそれを俺が認めないでどうするんだ。

 むしろ、認めてくれたことを誇りに思うべきだ。

 認めてくれたこと、守ってくれたこと。様々あったことは一言なんかじゃ表せないけれど。


「ありがとう」


 そう言った。命の恩人であり、尊敬する人に向かって。

 兄さんは俺の感謝を聞くとふっと笑い踵を返し歩き出していった。白いコートの端が揺れ遠ざかっていく。

 もう少しで兄さんは出て行ってしまう。


「待ってくれ!」


 次、いつ会えるか分からない。今度はいつ話せるのか。そんな不安に急かされて気づけば言っていた。


「ずっと、言いたいことがあったんだ」


 兄さんの足が止まる。その背中に俺は言った。

 言うなら、今しかない。


「あの時、嫌いだなんて言って、悪かった。それがずっと心残りだったんだ。ずっと後悔していた。あんたの気も知らないで」


 家から出て行った日。どんなに止めてもこの人は聞かなくて、俺を置いて出て行った。その時言ってしまった言葉を俺はずっと後悔していた。なんで言ってしまったんだろう。家族のためだって分かっていたはずなのに。その時の俺は感情のまま勢いで言ってしまった。

 俺のために家を離れる人に、ひどいことを言ってしまったんだ。


「聖治」


 俺の名前がビルの屋上に響く。なにを言われるだろう。少しだけ不安になる。

 そんな心配の中、兄さんは振り向いた。

 表情は、この人には珍しい穏やかなものだった。


「分かってるさ」

「――――」


 家族を守るために戦って、感謝もされず、それでも自分の意志を貫く。

 それが、魔堂魔来名、剣島正和という男だった。

 兄さんはそう言うと向き直り歩いていく。そして空間転移によって消えていった。

 彼が消えた場所をしばらく見つめる。名残り惜しい気持ちが俺を縛り付けその場から動けなかった。


「行っちまったな」


 隣に星都がやって来る。星都も兄さんが消えていった場所を見つめしみじみとつぶやいた。


「そうだな。でも、また会えるさ」


 星都が俺を見る。

 また会える。それがいつかは分からない。でも、きっとまた会える。なぜならば。


「なんだって、俺たちは時間も生死も越えて再会したからな」


 そんな再会を果たした俺たちだ、生きているならまた会えるさ。


「ハッ、そうだな」

「ああ」


 だから、これが最後だなんて思わない。不安なんてない。

 俺は振り向いた。そこにいるみんなと合流する。


「これは」


 町の景色が変わり出す。壊れた建物は元通りになり視線を外に向ければ走る車のライトが見える。


「戻ってきたみたいだな」


 セブンスソードは終わった。だから結界も消えたらしい。管理人もいない今、正真正銘セブンスソードは終わったんだ。

 長かった旅が、ようやく終わる。元気な香織。そして敵ではなく味方としているみんな。俺が目指したゴールがここにある。


「帰ろうか、俺たちの居場所に」


 苦しいこと、辛いこと、たくさんあったけど。ようやくここまで来られた。

 ここからは、俺たちの未来だ。


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