第1話
扉を開き、足を踏み出すとその扉の場所まで書かれた地図と扉は消えてしまった。
なぜ異世界だと断言できたのかというと、選択したからそうだろうというのと、ところどころ現実じゃありえない色の植物があったりと、少なくとも明らかに元いた現実の世界のものでは無かったからだ。
とりあえず知らない場所なので、ここは一体どういう場所、世界で、どうすればいいのかを把握するために、さっき渡された説明書を読もうと思う。
まあ、説明書というより辞書くらい分厚くて、本になってるから、説明本って感じだ。パラパラと見てみると色々と丁寧に詳しく書かれてあるようだ。
最初のページには異世界転生という欄があった理由について書かれてあった。地球の人口が増えすぎて魂を管理しきれなくて困ってるといった内容が書かれてあった。
そして、異世界は逆に人口は多いわけではないが、むしろ地球と比べるとかなり少ない。それに、そもそもの魂自体が何故か足りていないから増やさないといけないらしい。
数が多すぎる地球から、とりあえず実験的に応急処置のような形で希望者には異世界に転生させていると書かれている。
希望する特殊な能力を与えている理由については、足りない魂を何とかする為に異世界に送ってるのに右も左もわからないまますぐに、のたれ死なれても困るし能力無しで、転生条件は地球と同じだと流石に希望者が出なかったかららしい。
少し怪しいかもって思っていたが一応ちゃんと理由があったのか。
少し安心した。
さっきと似たような理由で言葉についてはその世界の言葉は喋れるし読めるし喋れるようになっているらしい。語学が苦手なのでこれはすごく助かる。
ただし日本語とかの地球での言葉で話しても一切通じない、異世界の言葉を話そうとするとちゃんと話せるとも書いてある。
説明を読んだ感じだと、脳内で自動的にって奴頭の中で通訳が喋っってるって感じやひみつ道具のほんやくこんにゃく的な感じよりどちらかというとバイリンガルって言った方が近いように思えた。
まだ誰とも喋ってないし、そもそも俺はバイリンガルでもないからいまいち分からないけど。
喋れるし文字も読めるが、文字は覚えないと読めても書けないとこれには書かれている。
ご親切に説明書の後ろの方のページはこの世界の文字のあいうえお表になっていた。あと、自分の名前の異世界文字版も書いてあった。
その文字はどこかで見たことあるような気もするけど知らない文字だ。
その表は確かにルビ振られていないし、語学が苦手で全くと言っていいほどできない俺でも読むことができた。
でもその表は、読めるけど普通に日本語を読むのと比べると読むのと理解するのに少し時間がかかる。
この説明書……というか説明本。ものすごく分厚いし、全部読むには時間もかかるから今すぐ必要だと思う所だけ読んだ。目次があったから探すのはそんなに時間がかからなかった。
他は後でゆっくり読むことにしよう。
必要なところを読み終わって、辺りを見渡してみた。
植物とかの色を除くと地形の感じや雰囲気はテレビや画像で見たヨーロッパの田舎と少し似ている。
それから目立つ建物が遠くに1つあった。説明本や地図を見るとどうやら、とりあえずそこにいけばいいらしい。
今のところ、どこを見ても車とかバスとか電車が見当たらない。地図で現在地と目的地を確かめると、距離は大体2キロくらいだったし、歩いていくか。
少し歩くとようやく、ポツポツとだが家がある所になった。
『この国はこんな感じの家』みたいな特徴はなく、和風っぽいものや、昔のヨーロッパっぽい家だったり、漫画やアニメで見たことあるようなファンタジー世界って感じの家だったりと、家についての統一性は全くない。
地図を見ながらだったこともあり、ゆっくり歩いていたので到着するのに1時間30分もかかった。
かかった時間は手持ちの腕時計で分かった。今何時なのかは、そもそも ここは異世界だし時刻を合わせられているのか分からないから、この時計は当てにならないけど……。
とはいえちゃんと動いてはいたので流石にかかった時間はあってはいるはずだ。
目的地の建物は大きく、絵本で見た竜宮城に似た外観をしていた。
中に入るとそこは外観と違い、洋風で古風な感じだった。そこには人が15人くらいいて、話していたり、何か食べていたり、本を読んでいたりとそれぞれが思い思いに何かしているといった感じだ。
何度も確認したが説明本と地図に書いてあった場所はここで合っているはずだ。でも少し不安になってきた。
「あのう.....加入希望の方ですか?」
よほど挙動不審に見えてしまったのか、カウンターから声をかけられた。
「え、あ、はい」
地球で言う所の会社はこの国には無いが、それと似たような組織があり、ここではギルドと呼ばれているらしく、そこに所属しておかないとちょっと面倒だし、金稼ぐにはそっちの方が便利って書いてあった。
だからわざわざここに来たっていうのもある。
他にもギルドはあるみたいだけど、地図に書いてる範囲でのおすすめはいくつかあり、そのうちの1つはここらしい。ここを選んだのは1番距離が近かったし、何より建物がわかりやすかったからだ。
これはさっき説明本と地図を確認した時に書いてあった。
めちゃくちゃ重いけど、重いだけあって知りたいこと書いてあるし便利だなこれ。
重いけど......。
「とりあえずこの紙に名前と年齢を書いて、ここにスタンプ台がありますので、名前と年齢を書いた上から重ねる形で手形をつけてください」
渡された紙は欄があるタイプのものでなく紙としかいえない無地ものだった。
この世界の文字ではなく漢字で書いてしまったので、斜線を引き、上の余白に説明本の表を見ながら名前を書き年齢を書き手形をつけ、その紙を渡した。
「月ヶ瀬涼さんですね? これで登録は完了になります」
「この魔法士ギルドでは、ランクがS・A・B・.C・D・Eと6つあって、最初はEから始まってCまでは依頼をこなして実績を積んでいくとランクアップしていき、それ以降は実績はもちろん試験を受けないと原則昇格はできません。ランクが上がると受けることができる仕事の種類が増えるので自然と収入も多くなります」
「1人でも仕事を受けることが出来ますが、チーム組むこともできます。報酬は山分けになるので手取りが少なくなりますが、ランクアップもしやすく何人以上という仕事依頼もあるのでできるので、受けることのできる仕事の数も増えます」
「チームを組んだからといって必ずチームで仕事をしないといけない訳でもなければ、組んだからと言ってパーティーとは違いメンバーが固定されていて仕事はそのメンバーと一緒でなければいけないというわけでもなく、他チームやチーム外な人と受けたり、1人で仕事を受けることも可能です」
「あと、資格が存在していて10級から3級まではあそこの機械に魔法士認定カード……魔法士カードと呼ばれる、魔法士の身分を証明出来るカードなんですけど、その機械に通しテストを行いそれに合格すると魔法士カードに対応している、ある程度戦闘と魔法に関連する資格を取得、昇級できます」
「3級以上、3球以下であっても戦闘や魔法関連以外のものは資格習得するための試験を受けなければ昇級できません」
「魔法士カードは明日には発行できるので、好きな時に取りに来てください。説明は以上ですが、何か質問等ありますか?」
質問っていってもこういう時ってなかなか思い浮かば無いしなぁ......。
あっ。
そういえば説明本を軽く見ただけだからあまりよく分かってない事を思い出した。
あとでちゃんとよく読めばいいかとかもしれないが、もしも書かれていなかったら困るし。
「あの今日ここに来たばかりなんで、この世界のこと全然分からない状態なんですけど、をここのギルドってどういう仕事をするんですか?」
「外国から来られたんですか?」
「外国......というか地球っていう......異世界から、まぁ......色々あって転移というか転生してきたというか......。なのでこの国どころかこの世界のこと何もわかってないんです。多分この世界に来るときに渡されたこの説明本を読めばある程度はなんとかなるとは思うんですけど......」
「ここに来る時に渡されたこの地図と説明本を読んでとりあえずギルドっていうのに入った方がいいって事でここに来たんです」
説明するのがすごく難しい。全部言うと長くなるし、端折ると分かりにくくなるし。
「あぁ、そういう事だったのですね、うちには多分居なかったと思うんですが、そういう人時々いるのは知ってますよ」
異世界転生してきた人がこの人の話を聞く感じだと珍しいわけではないが決して多くはなさそうだ。
ということは、異世界転生を選択する人が自分が思ってたより少なかったのか。
でも条件だけでいうと異世界に行く方がいいと思ったからみんな異世界に行ったと思ったんだけど。
やっぱりみんな地球に転生したんだろうか。
「このギルドは魔法士ギルドで、魔法を使って魔物やモンスターを退治したり、手配犯を捕まえるのに協力したり、時には便利屋のような事をしたりする仕事です。魔法を使う仕事は色々ありますが、魔法を使って戦ったりする仕事があるギルドを魔法士ギルドといい、そこに所属している人は魔法士と呼ばれているんです」
「詳しく教えてくれてありがとうございます!」
「いえいえ、あっ、そういえば今日泊まる所ってもう確保してます?」
「いえ、まだですけど」
そういえばその事をすっかり忘れていた。
お金はさっきカバンに入れていた財布を見たとき、元いた世界のお金が入っていなかった代わりに、その価値のこの世界のお金が財布の中に入っていて、説明本によると少なくとも3、4日はなんとかなる金額だということが分かった。
「お金を持っているんだったら、近くの安い宿紹介できますけど、いくらありますか?」
「えっと、これだけあります」
財布を取り出し入っていたお金を全部カウンターの上に並べた。
「これだけあればあそこだと、あそこだと食費込みで1週間はいけると思います。安いんですがその代わり寝るだけの部屋って感じなので食事も各自で何とかしないといけないんですがそれでも大丈夫ならですけど」
「はい大丈夫です」
「えっとじゃあここをまっすぐ行って、それから――」
「あの、そこってこの地図に載ってますか?」
「えーっと――はい載ってますね。ここです」
そう指を指しながら教えてくれた。
地図は読めるが人に口答で教えられる道だと、軽い方向音痴が入ってるので、どうしても迷子になってしまう。
地図に載ってるならとりあえず迷子になる確率がへるし安心だ。
カバンに地図を入れた事を思い出し、それで教えてもらうことにした。
ちなみに、その地図は日本語の上に異世界の文字で書かれている。
「本当に何から何までありがとうございました」
お礼を言いその宿に向かうことにした。仕事するにも少なくとも説明本を読む必要があるし。それに色々疲れたし。
宿に着き手続きを済ませて部屋に入った。部屋は一人用のビジネスホテルみたいな感じの広さで、ベットと、ちょっとした机が置かれているだけだ。
そして、この分厚い説明本を読み始めた。
読み終わった頃には陽が落ちて辺りは暗くなっていた。
死ぬ直前、外出る時にでかいカバン持って行ったお陰でカバンを漁ると、死ぬ前日に食べ忘れてたお昼ご飯のサンドイッチとジュースが入っていて、ちょっと確認してみたら食べられそうだったからそれを食べることにした。
今晩どうしようかと思ってたけど今日の分は何とかなりそうだ。
でかいカバン持ってて本当よかった。ちなみにそのカバンの中はめちゃくちゃ散らかってるし、自分にも何が入ってるのかすべて把握しきれていない。
ご飯も食べたし説明本読んだらある程度は色々分かったけど、結構疲れたからもう今日は眠いし寝よう......。
それにもう暗いし。
知らない場所だと暗い時だと道に迷いそうだし買いに行くのは明るいうちの方がいいだろう。
誤字とかは今度訂正します。