第五話
買い物を済ませた俺は公園のベンチに腰をかけていた。夜の7時辺りは既に日が落ちている、しかし、街灯のおかげで真っ暗ではない。こんな時間に公園で遊んでいる人は勿論おらず、公園のベンチで泥酔しているサラリーマンが少し見えるくらいだ。何故そんな所にいるかと言うと暇だったからだ。買い物帰りにある公園はここだけ。だからついつい寄ってしまった。とても近いから小さい頃良く遊んだっけな...
『明日はまともな日でありますように』
俺は公園の街灯に祈りを捧げて買い物袋を持ち公園を後にした。公園から家まではそんなにかからない。何事も無く帰れるはずが...
ドサッ!
俺は曲がり角を曲がろうとした。その時、向こうから来た人とぶつかってしまった。今日はぶつかってばっかりだな...
『大丈夫ですか?』
俺は手を差し出すが退けられた。こういう時は素直を手を取って欲しい...
『平気、じゃあ』
その女性は何事も無かったかの様に立ち上がり去っていった。
『あの...』
俺はその人に声をかけようとして振り向いた時にはもうその人は居なかった。祈ったそばからこれか...明日も気をつけないとな
『はぁ...帰るか』
俺は落とした買い物を拾い歩き始める。しかし、すぐ立ち止まった。
『これって...』
手帳が落ちていた。これは間違いなく俺のではない。そうなるとあの女性の物って事になる。しかし、彼女が誰かは分からない。
『困ったな...』
俺はとりあえずその手帳をポケットにしまい自宅に戻る。涼が帰ってくる前に夜ご飯を作らないと怒られるじゃ済まない。下手したら....
それを考えると背筋が凍ってしまいそうになる。とにかく早く帰らなけば!
『よし!』
俺は玄関に鍵がかかっていたことに感激し、安心した。
『これでっ』
『これで何かしら?』
『げっ...』
遅かったようだ...涼が先に帰ってきてた。終わった。
『よ、夜ご飯今作るからな』
『はーい』
あれ?今日の涼は大人しいぞ...いつもなら『はぁ?なんで作ってないのよ!』と1発蹴りを入れられたり、『あっそなら作るからそこどいて』など強い口調で行ってくるのに....
『涼?何か不味いのでも食べたか?』
俺は思わず聞いてしまった。
『別に』
やっぱり変だ。新学期早々何かやらかしたのか?俺みたいに
『そっか、何か相談したくなったら言えよ』
『は〜い』
涼はリビングのソファに座ってゆったりしていた。さて、料理作りますかね!今日の事は上手いもん食ってスッキリしようっと!
『ご馳走様』
『お粗末さま』
涼と俺は会話もないまま食事をしていた。仲が悪い訳では無いけどな...
『じゃ後片付けお願いね』
涼はそう言い自分の部屋に行った。見た感じ涼は少し元気になったのかな?そうだといいな。俺は皿を洗いながら手帳の事を考えていた。
『あれはどうしようか...中身見るわけにも行かないしな...』
俺が頭を悩ませているとギルドメンバーからメッセージが来た。『我は明日暇』とだけ。了解と送り俺は風呂に入る。
まだ肌寒いので湯を張っている。俺は浴槽に深々と入り疲れた体を癒す。この時間が1番幸せかも
『明日紅に相談してみるか...』
俺にしてはいい案が出たと自分で感心しながら風呂でゆっくり過ごしている。すると
『お兄ちゃん入ってる?』
脱衣場から涼の声がした。
『入ってるけど何かあったか?』
『いや、何にもないけどさ』
『そっか...』
俺は少し冷たい反応をしてしまった。何せ今日色々ありすぎて頭がついて行ってないのだ。
『おやすみお兄ちゃん』
『お、おう おやすみ』
涼が脱衣場を出て少し経ってから風呂を出た。理由はないがそうした方がいいと思ったからだ。あの元気涼が今日は物静かだったな...
俺は着替えて部屋に行きベッドに横になる。本当に色々ありすぎたな...違う意味で充実していた気がする。
『おやすみ』
俺しかいない部屋で俺にしか聞こえない声でそう呟いた。