柔雨
タイトルは柔らかな雨、という意味の造語です。
外は柔らかな雨が降っていた。柔らかすぎて、音が聞こえなかったほどに。
一歩外に出て初めて、雨に気がついた。ふわふわしてる、なんてよく分からない感想を抱いた。
同時に、自分が雨に濡れたことにも気がついた。ひんやりとしているのになぜか、ほわりと温かい。不思議だ。
まともに雨に濡れたのは、とても久しぶりかもしれない。いつだって雨は、私を一方的に濡らす存在だった。
恐怖さえ抱いていた。不意に降り注ぐ雨に怯え、私はいつでも閉じ籠るための傘を持っていた。
傘はいわば、私を守る大切なものだった。
この雨は、濡れると気持ちがいい。さしかけた傘を閉じて、そのまま歩く。
気持ちはいいけれど、時折、ひどく痛い雨粒もあった。そんなとき私は一度立ち止まって、傘を出すか考える。
だけどすぐに柔らかい雨が癒してくれて、私は再び歩き始める。
雨が強くなった。ほんの少し外にいただけなのに。家にいた時間の方が長いのに。
鋭い雨の量も増えた。それどころか、より鋭くなっている。痛い。辛い。哀しい。もう、傘を。
手を伸ばす。私を守るものへ。
だけどまた、柔らかい雨に包み込まれて傘をしまう。傷ついても傷ついても、柔らかな雨は絶えず降り注ぐ。
鋭い雨を避ける手段はないけれど、癒してくれる雨はある。
私にはもう、傘はいらないかもしれない。そんなものなくても、私は大丈夫。
私は手に持っていた傘を、投げ棄てた。
傘を手放すと、なぜか急に弱くなった気がした。私を守るものはもうない。
怖くなって、清々しくて、戻りたくて、気持ちよくて、取り返したくて、前を見ていたくて。
もうぐちゃぐちゃで、けれどもこんなに楽しい。
楽しいね。
声の方を見れば、私の隣には、私の大事な人がいた。異性じゃなく、ただ大事な人が。私によく似た彼女に笑いかける。
うん、楽しいね。
雨はまだ止まない。止むことはない。でも別に、構いはしない。
この小説は、「彼女」への感謝というテーマもあります。
当然この雨は雨じゃない。分かりづらいかもしれないですが、考えていただければ。
「彼女」は私に似ています。似てるなんておこがましいかもしれないけど、そう思ってしまうんです。
顔じゃなく、考え方などが。詳しくは割愛。
読んでくださった方、ありがとうございます。せっかく読んでくださったのに、1人のことをだらだら喋っててごめんなさい!
でも、「彼女」へ。ありがとう。とても、大事な人です。友達とは言いません、軽い気がするので。
ありがとう。一番大事な人です。きっと、これからも。




